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東北大と京大、超強力X線パルスによるプラズマ生成初期過程での体積収縮を発見

2016-02-04

X線自由電子レーザーに照射された微粒子が縮んだ!
超強力X線パルスによるプラズマ生成初期過程での体積収縮を発見


【概要】
 東北大学多元物質科学研究所上田潔教授・福澤宏宣助教のグループ、京都大学大学院理学研究科永谷清信助教、米国SLAC国立加速器研究所のクリストフ ボステト研究員のグループ等による国際共同研究チームは、米国のX線自由電子レーザー(XFEL)(*1)施設LCLS(*2)から供給される非常に強力なX線をキセノン原子が集まってできた微小な粒子に照射すると、極めて短い時間では体積が収縮することを発見しました。従来、XFELに照射された微粒子は、大量の電子を放出してプラズマ(*3)化し即座に爆発すると考えられていたため、今回の発見はこれまでの常識を覆すものでした。この体積収縮は、プラズマ化の初期過程で、キセノン原子に局在化していた電子が粒子全体に広がることに起因します。

 本研究の成果は、米国の科学雑誌『SCIENCE ADVANCES』で、平成28年1月29日にオンライン出版されました。
 本研究は、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題、「物質・デバイス領域共同研究拠点」課題の一環として一部助成を受け、遂行されました。


【詳細な説明】
1. 背景
 米国のLCLSや日本SACLA(*4)のようなX線自由電子レーザー(XFEL)実験施設では、非常に強力な、照射時間の極めて短いX線パルスが生成されます。XFELの非常に強力な極短X線パルスを用いると、微結晶や結晶化していない試料からでも1発のX線パルスでX線散乱を計測できるため、これまで構造が決定できなかった様々な物質や、極めて短時間しか存在できない物質の構造が決定できると期待されています。しかし、強力X線パルスが試料物質と相互作用すると、多くの電子が放出され、試料はプラズマ化してバラバラに飛び散ります。従って、試料が壊れる前にX線散乱を計測して構造を決めなければなりません。そのため、X線パルスが物質と相互作用して引きおこす超高速反応を理解して制御することが、XFELを用いた新規物質構造の決定の重要な課題となっています。本研究では、キセノン原子が集まった微粒子を対象として、プラズマ化の初期過程における超高速構造変化を明らかにすることに成功しました。

2. 研究の手法と成果
 国際共同研究チームは、LCLSにおいて、キセノン微粒子に連続する2つのXFELパルスを照射しました(図1)。大きさが1マイクロメートル(100万分の1メートル)程度の微粒子を1番目の10フェムト秒(100兆分の1秒)の照射時間のXFELパルスで加熱し、引き続き、時間差を80フェムト秒までの間で調整した2番目のXFELパルスを用いてX線散乱像を取得しました。得られたX線散乱像を解析することで、原子スケールの構造の変化をフェムト秒の時間分解能で観察しました。本実験の結果は、強力X線パルス照射された微粒子は、80フェムト秒(1フェムト秒は千兆分の1秒)以下の非常に短い時間では、体積が収縮することを示唆するものでした(図2)。従来のモデルでは、X線レーザー照射による多量のエネルギー注入により、小さな粒子はプラズマ化して即座に爆発すると考えられていました。プラズマ化に伴う体積収縮はこれまでに観測されたことが無いだけでなく、理論的にも考慮されていなかった現象です。この体積収縮は、キセノン原子に局在していた電子がXFEL照射によるプラズマ化のために粒子全体に広がることに起因すると考えられます。

3. 本研究の意義と今後の展望
 プラズマ化はXFEL照射に伴う物質の状態変化として広く観測される現象です。従って、プラズマ化の初期過程による構造変化を明らかにした本研究成果は、X線自由電子レーザー科学、特に強力X線パルスを用いた新規構造解析に向けた研究に対して重要な知見を提供するものです。強力X線と物質との相互作用に関する問題をひとつひとつ解決していって初めて、XFELを用いてこれまで見えなかった超微細・超高速な現象を見ることも可能になると期待されます。
 本研究は、さらに、XFEL照射で生じるプラズマ状態の研究を通して、惑星核の物理や大強度レーザーを用いる核融合などの高温高密度プラズマ科学にも共通する重要な知見を提供します。XFELよってはじめて可能になる高温高密度プラズマ構造ダイナミクス研究は、今後益々発展することが期待されます。

 ※図1・2は添付の関連資料を参照


【用語解説】
*1 X線自由電子レーザー(XFEL:X−ray Free−Electron Laser)
 X線領域で発振する自由電子レーザー(Free−Electron Laser)であり、可干渉性、短いパルス幅、高いピーク輝度を持つ。自由電子レーザーは、物質中で発光する通常のレーザーと異なり、物質からはぎ取られた自由な電子を加速器の中で光速近くに加速し、周期的な磁場の中で運動させることにより、レーザー発振を行う。

*2 LCLS
 米国スタンフォード線形加速器センター(現在のSLAC国立加速器研究所)で建設された世界で初めてのXFEL施設。Linac Coherent Light Sourceの頭文字をとってLCLSと呼ばれている。2009年12月から利用運転が開始された。

*3 プラズマ
 同じ空間内に正の電荷をもつイオンと負の電荷をもつ電子が混在している状態。気体、液体、固体に次ぐ第4の状態ともよばれる。

*4 SACLA
 理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring−8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。


【論文情報】
 雑誌名:Science Advances 2016;2:e1500837,29 January 2016
 論文タイトル:Transient Lattice Compression in the Solid−to−Plasma Transition
 著者名:K.R.Ferguson et al.



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