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埼玉医科大、ミトコンドリア病の原因となる遺伝子を新たに3つ発見

2016-01-14

ミトコンドリア病の新たな原因遺伝子MRPS23,QRSL1,PNPLA4を発見
―網羅的なゲノム解析によりミトコンドリア病の複雑な遺伝的背景の一端を解明―


【発表のポイント】
 −142例のミトコンドリア病患者に対して網羅的なゲノム解析を行った(ミトコンドリア病研究での網羅的なゲノム解析において世界最多)
 −ミトコンドリア病の原因となる遺伝子を新たに3つ発見した
 −既知の原因遺伝子において、これまでに報告のない37変異を発見した
 −ミトコンドリア病と疑われる患者の中に、他の疾患群が含まれうることを発見した
 −東北メディカル・メガバンク機構・京都大学との共同研究により効率的な遺伝子解析を実現した


【発表の概要】
 幼少期のミトコンドリア病は、高乳酸血症・筋力低下・知的退行・心筋症状・肝機能障害などを多彩な症状を生じ、重篤なケースに至る場合があり、本国においても指定難病の1つとされています。しかしながら、およそ半数の症例で原因遺伝子が不明のため、その複雑な遺伝的背景の解明が望まれています。
 今回、埼玉医科大学ゲノム医学研究センター(岡崎康司 所長(※))、埼玉医科大学小児科(大竹明 教授)・千葉県こども病院(村山圭 部長)を中心とする共同研究グループは、この遺伝的背景を解明するために、ミトコンドリアの機能障害を示す患者142例を対象に網羅的なゲノム解析と候補遺伝子の機能解析を行いました。
 これらの解析により、新たな原因遺伝子としてMRPS23,QRSL1,PNPLA4遺伝子を明らかにしました。また新たに37の遺伝子変異を既に知られている原因遺伝子配列中に発見したこと、さらに一部の症例は、症状が類似する他の遺伝子疾患であったことも明らかにし、今後行われる遺伝情報を用いた診断の成績・精度向上にも貢献すると考えられます。
 今回の研究成果は、臨床的にミトコンドリア病と診断された患者に対して、初めて網羅的にゲノム解析を行うことで明らかにできたもので、今後のゲノム情報を利用する診断・医療・創薬への展開につながる知見です。本研究成果は東北大学東北メディカル・メガバンク機構、京都大学、東京大学、首都大学東京との協力体制のもとに実現しました。

 ※所長名の正式表記は添付の関連資料を参照

 この研究成果は米国科学雑誌 PLOS Genetics オンライン版にて掲載されました(2016年1月8日)。また本研究は、革新的細胞解析研究プログラム;セルイノベーション(文部科学省)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(文部科学省)、科学研究費(文部科学省)、日本医療研究開発研究機構(AMED)ならびに武田科学財団の支援を得て行われました。


【発表者】
 岡崎康司(埼玉医科大学ゲノム医学研究センター 所長)
 大竹明(埼玉医科大学小児科 教授)
 村山圭(千葉県こども病院代謝科 部長)


○発表の詳細な内容

【研究の背景】
 ミトコンドリアは人体のエネルギー分子であるATPを合成する細胞内小器官であり、生命活動に極めて重要な役割を果たします。そのため、ミトコンドリアゲノムに存在する遺伝子、あるいはヒトゲノムに存在するミトコンドリア機能に関わる遺伝子の変異は、様々な臓器に異常をきたし、ミトコンドリア病を引き起こします。ミトコンドリア病はおよそ5000人に1人の割合で発症する最も頻度の高い先天性代謝疾患として知られています。ゲノム解析の発展によりこれまで、約250のミトコンドリア病の原因遺伝子が発見されて来ていますが、ミトコンドリア病の原因遺伝子の多くは未だ明らかになっていないのが現状です。


【研究の内容】
 今回、研究チームはミトコンドリアの機能障害を示す患者142例(うち日本人139名)を対象に、網羅的なゲノム解析を行いました。これは全症例に対して、次世代シーケンサーを用いたミトコンドリアゲノムの全長シークエンス、ヒトゲノムに存在する遺伝子の異常を捉えるエクソームシークエンス、高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いた染色体の微細構造異常からなる3つのアプローチを適用したものです。
 その結果、全体の34.5%において、遺伝的な異常を同定することに成功しました。この中には、これまでに知られていなかった原因遺伝子としてMRPS23,QRSL1,PNPLA4の同定が含まれています。
 また既存の原因遺伝子上で発見された41変異のうち37が新規であったこと、同一の変異が複数のケースから見つかったことなどから、今回の成果は今後のアジア地域における遺伝情報を用いた診断の成績向上に貢献するものと考えられます。
 さらにミトコンドリア病と類似の表現型を示す他の遺伝子疾患が含まれていたことも明らかになり、遺伝情報を用いた診断の精度向上にも貢献すると考えられます。
 本研究は、ミトコンドリア病における複数の新たな原因遺伝子を発見したことに加え、複雑な遺伝的背景の一端を明らかにすることに成功しました。これは、これまでに報告のある中で、もっとも多数のミトコンドリア病症例に対して、網羅的なゲノム解析を行った結果であり、今後より適切な疾患の理解につながる成果と言えます。
 本研究での、日本人症例を主な対象とした高精度なゲノム解析は東北大学東北メディカル・メガバンク機構および京都大学医学研究科付属ゲノム医学センターのデータベースを利用すること、原因遺伝子の機能解析の一部は東京大学大学院工学系研究科、首都大学大学院理工学研究科の協力体制のもとに実現しました。
 埼玉医科大学では、ゲノム医学研究センターによる疾患ゲノム解析を主とした研究のほかにも、この希少難治性疾患に対してより良い医療を目指した試みを行っています。本研究での成果の一部は、埼玉医科大学、大竹明 教授(小児科)による医師主導型治験「SPP−004のミトコンドリア病を対象とした多施設共同長期投与試験/第II相」にも貢献しています。また、日本医療開発研究機構(AMED)の採択課題「ミトコンドリア病診療の質を高める、レジストリシステムの構築、診断基準・診療ガイドラインの策定および診断システムの整備を行う臨床研究」にも貢献しています。
 以上のように、今回の成果は、難病に認定されているミトコンドリア病の早期診断や、確定診断に大きく貢献し、現在進められている医師主導型治験に続く他の薬の開発にも大きく貢献しうる成果です。



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