イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東大、地域包括ケア等の基盤となるヘルスケアデータの本人管理に関する実証を開始

2015-09-09

「地域包括ケア等の基盤となるヘルスケアデータの本人管理に関する実証を開始」
〜自分のヘルスケアデータを自ら管理・活用出来る世界初の仕組み〜


<発表のポイント>
 ◆介護記録のデータを被介護者本人の家族が管理し、介護施設等と共有して活用することを可能にし、その試験運用を始めました。
 ◆医療や介護を含むB2Cサービスでは、多くの個人のデータを事業者がまとめて集中管理していましたが、今回の実証は、個人データを本人(代理人)が管理して活用する技術(PLR、注1)の有効性を検証するものです。
 ◆医療制度改革や地域包括ケアの実現には多数の事業者等が個人データを共有して連携する必要がありますが、従来の集中管理型サービスが直接相互連携することは一般には不可能なので、個人の仲介により事業者同士を間接的に連携させるため、PLRのような仕組みが不可欠です。


<発表概要>
 医療記録や介護記録や購買履歴等の個人情報は、現在のところ、サービス事業者等が多数の顧客のデータをまとめて集中管理しています。しかしこの方式には、情報漏洩のリスクや管理コストが大きいだけでなく、個人が自分のためにデータを活用できないので生活の向上や産業の発展が阻害されるなどの問題があります。そうした問題の解決には、分散PDS(decentralized personal data store)(注2)が必要と考えられます。
 東京大学大学院情報理工学系研究科の橋田浩一教授は、山梨県の社会福祉法人恵信福祉会との共同研究において、恵信福祉会が運営する介護付き有料老人ホーム恵信ヴィレッタ甲府の施設入居者の介護記録のデータをその家族が管理し、他者と共有して活用できる体制を、橋田教授が提唱する分散PDSの一種であるPLR(個人生活録;personal life repository)に基づいて構築し、2015年8月14日にその試験運用を始めました。
 PLRに基づく介護記録アプリは、恵信ヴィレッタ甲府では全入居者70名を対象に運用され、さらに恵信福祉会が運営する他の2つの介護施設でも運用が開始されています。上記の試験運用は、PLRによるヘルスケアデータの本人管理を普及させ、医療制度改革(注3)や地域包括ケア(注4)に必要な基盤を構築するための布石となります。


<発表内容>
 国立大学法人東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センター(センター長:萩谷 昌己、以下、SICT)の橋田浩一教授は、分散PDSの一種である「PLR(個人生活録;personal life repository)」を提唱しています。PLRは、個人(または代理人)が本人のデータを暗号化してGoogle DriveやDropbox等のパブリッククラウドに格納し、それを家族や友人や事業者と自由に共有して活用できるようにする個人端末用のアプリケーション(アプリ)です(図1参照)。橋田教授の技術指導の下で、アセンブローグ株式会社がすでにPLRをAndroidアプリとして実装しており、PLRに基づく介護記録アプリが山梨県の社会福祉法人恵信福祉会(理事長:古屋 千秋)の3つの介護施設において70名以上の入居者の介護記録の作成に使われ、介護業務の効率向上に役立っています。
 橋田教授は、恵信福祉会との共同研究において、恵信福祉会が運営する介護施設のある入居者の介護記録のデータをその家族が管理して簡単に他者と共有して活用できる体制をPLRに基づいて構築し(図2参照)、2015年8月14日にその試験運用を始めました。これにより、入居者の日々の生活の様子や健康度が家族にも把握できます。これは、個人が自分(や家族)の介護記録等のデータを自ら電子的に管理し事業者等と共有して運用する世界初の仕組みです。既存の介護情報システムにも介護記録等に家族がアクセスできるものがありますが、PLRを用いるメリットは、本人(家族)がそのデータを自由に他者(親類縁者、医療機関、他の介護施設、配食事業者、自治体、成年後見人など)と共有して活用できる点にあります。
 医療制度改革や地域包括ケアの実現には、各個人の医療記録や介護記録や日常生活行動のデータを医療機関や介護施設や本人や家族が共有して協働することが必要です。しかし、現在のような事業者による個人データの集中管理の下ではその実現はきわめて困難であり、PLRのような分散PDSによって個人が自分のデータを管理して自由に事業者等と共有し活用できることが必須です(図3参照)。
 集中管理に基づいて医療機関や介護施設の間でデータを共有できるサービスもいくつかありますが、それらのサービス同士が直接連携するのは、情報システムの開発・運用等にかかるコストが高い上に、サービス事業者同士がしばしば競合関係にあるため、一般には不可能です。また、医療機関等の間で患者のデータを共有する仕組みであるEHR(electronic health record)がいま全国の約200か所で運用されていますが、中規模以上のEHRでは利用者(自分のデータが医療機関等の間で共有されることに同意した患者)は対象地域の人口の2%未満です。これは、患者(や家族)が本人のデータを本人のメリットを高めるように自由に活用(配食事業者に開示して適切な食事を配達してもらったり、スポーツジムに開示して適切なリハビリテーションのサービスを受けたり)できないからだと考えられます。
 個人データの本人(代理人)による管理は、多数の個人のデータを事業者がまとめて集中管理する従来の仕組みと比べて、個人にとっても事業者にとっても、はるかに安価で便利であるだけでなく、圧倒的に安全です。数百万人、数千万人のデータが一挙に漏洩する事件が頻発していますが、まとめて洩れるのはまとめて管理しているからです。分散管理だと一挙に漏洩するのは1人分のデータに過ぎないため、データを盗むメリットがそのコストを下回ります。顧客の連携先や顧客との契約等のデータは集中管理せざるを得ないので集中管理はどうしても必要な面がありますが、個人に分散した管理と併用することにより、多くの集中管理が不要になります。
 個人データの分散管理を普及させるきっかけは、電力小売りの自由化など、医療制度改革以外にもあります。橋田教授は、「集めないビッグデータ」コンソーシアムを2014年10月に設立し、産学のメンバーと連携して分散PDSの普及によるイノベーションの環境を整備する活動を進めています。また、産業競争力懇談会における平成27年度の推進テーマ「IoT時代におけるプライバシーイノベーションの両立」でも分散PDSによる事業創造について検討しています。
 橋田教授は、社会福祉法人恵信福祉会および医療法人恵信会と連携して、恵信会が山梨県内で運営する療養型病院での記録作成等にもPLRを適用し、病院と介護施設とが個人を介してデータ共有し、効率的な地域包括ケアシステムを実現するための取組を進めています。PLRによる個人を介した医療や介護や関連サービスの連携は、山梨だけでなく宮崎や愛知など他のいくつかの地域でも計画中です。またPLRは、社内外のSNSや営業支援ツールなど、企業向けのアプリケーションにも応用される見込です。


 ※用語解説・図1〜図3は添付の関連資料を参照




Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版