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東大、インターネット技術を用いた海底ケーブル式地震・津波観測システムを設置

2015-09-09

インターネット技術を用いた新規開発ケーブル式海底地震・津波観測システムの設置
〜三陸沖の地震・津波観測を強化〜


1.発表者:篠原 雅尚(東京大学地震研究所 教授)


2.発表のポイント:
 ◆岩手県釜石市沖の海底に、海底ケーブル式地震・津波観測システムを設置します。
 ◆設置するシステムは、インターネット技術を用いた新規開発観測システムです。
 ◆今後の海底観測技術の進展と共に、地震発生予測研究及び地震・津波防災等に寄与することが期待されます。


3.発表概要:
 東京大学地震研究所(所長 小原 一成)は、1996年に設置した岩手県釜石市沖の光海底ケーブル(注1)式地震・津波観測システム(以下、既設システム)を用いて、海底における地震・津波観測を実施してきました。平成23年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)の発生を受けて、観測を強化するために、既設システムに加えて新しい光海底ケーブル式地震・津波観測システム(新システム)を岩手県釜石市の東方海域(既設システムの南側)に設置します。今回設置する新システムは、東京大学地震研究所の篠原教授らが開発したインターネット技術を用いた新規開発ケーブル観測システムを採用しています。この新規開発システムは、通信路の冗長構成化などによる新しい方式で信頼性を確保している一方、最新半導体技術を用いてコストを抑えています。また、ソフトウェアベースのシステムであり、新センサーの追加や観測パラメータの変更などの設置後の観測の柔軟性も確保しています。今回設置する新規開発観測システムは、今後の海底における地震・津波観測技術の進展に寄与するほか、地震発生予測研究や地震・津波防災への貢献も期待されます。


4.発表内容:
 4−1.岩手県釜石市沖における海底ケーブルを用いたリアルタイム地震・津波観測
 東北日本三陸沖に位置する日本海溝では、太平洋プレートの沈み込みに伴い数多くの微小地震が発生するだけではなく、被害を与える大きな地震も度々発生するなど、様々な地震活動が生じています。既設システムは、これらの地震が発生している領域直上のできるだけ震源に近い海底で、地震と津波をより正確に観測するために、1996年に設置されました(図1)。既設システムの観測により、東北沖地震の正確な震源域の位置および震源過程の推定を行っていましたが、本震の約30分後に、海岸に到達した津波により、陸上局舎が流失し、観測継続が不可能となりました。この観測システムから得られるデータは貴重であり、今後の観測継続が重要であることから、既設システムを復旧させるとともに、新システムの敷設を実施することにより、観測の継続・強化を行うこととなりました。
 今回設置する新システムと1996年に設置した既設システム、さらに国立研究開発法人防災科学技術研究所が現在整備を進めている日本海溝海底津波観測網により、岩手県釜石市沖は世界的に見ても、最も高密度な海底地震津波観測網が構築されます。これらのデータを用いることで、プレート沈み込みの研究、さらには地震発生予測研究が加速される他、高密度な海底データを用いた緊急地震速報津波警報の高度化の研究が進むことが期待されます。

 4−2.新規開発したインターネット技術を用いた光海底ケーブル式地震・津波観測システム
 東京大学地震研究所の篠原教授らが新規開発した光海底ケーブル式地震・津波観測システムは、インターネット技術を用いた通信回線の冗長化による観測の信頼性の向上、最新半導体技術を用いたローコスト化・小型化、マイクロプロセッサ内蔵によるソフトウェアベースシステムなどが特徴です。海底に設置される観測装置は2種類あり、1つは、地震計と津波計(注2)が、処理部、電源などと共に観測装置に内蔵されています。もう1つは、津波計の代わりに、外部から観測装置を接続できる拡張ポートが装備されています。この拡張ポートは、水中着脱コネクタ(注3)を用いており、設置後に接続した観測装置の交換が可能です。また、PoEインターフェイス(注4)を用いており、低コストで外部観測装置を製作できます。観測装置間および観測装置と陸上局舎内の陸上局設備がインターネット技術により通信を行うことが、これまでの海底ケーブル観測システムにはない特徴です。また、観測装置をマイクロコンピュータで制御することにより、設置後もシステムを変更することが可能となりました。これらの特徴により、研究の進展に応じた観測が実施可能であると共に、障害に強いシステムとなっています。インターネット技術を用いた光海底ケーブル観測システムは、2010年に東京大学地震研究所が新潟県岩船郡粟島浦村(粟島)南東沖海域に設置したシステムに続き、太平洋側では初めてのシステムとなります。
 今回設置する新システムは、観測装置を3台持っており、ケーブルの一端を陸揚げします(図2)。陸側の2台は津波計を内蔵した観測装置であり、先端の1台は、拡張ポート付き観測装置です。設置時には、この拡張ポートに津波計を接続します。観測装置は、直径が約26cm、長さ約1.3mまたは約1.5mの円筒形であり(図3)、3台が一本の光海底ケーブルに、接続されています。海底ケーブルの全長は105kmで、観測装置は約30kmから40km間隔で配置されています。水深が浅い部分では、観測装置、ケーブル共に、海底から約1mの深さに埋設し、システムの損傷を回避するとともに、データの品質向上をはかります。

 4−3.設置場所
 新システムは、岩手県釜石市東方海域の既設システムの南側に設置されます(図4)。3台の観測装置は、既設システムの地震計・津波計と併せて、震源に対して面的に配置されます。海底ケーブルの一端は、岩手県釜石市(八木浜海岸)に陸揚げされ、陸上局舎へ導かれます。陸上局舎では、海底からの地震・津波データを収録すると共に、陸上インターネット回線を用いて、東京にある東京大学地震研究所にデータを伝送します。なお、ケーブルルートに関しては、設置作業の際に、海底や海流の状況によって若干のずれを生じることがあります。

 4−4.設置方法
 海底ケーブルの設置は海底ケーブル敷設船(図5)を用いて行います。ケーブル敷設船はまず、設置ルート上の障害物を除去するために、ケーブルルート上の埋設区間の試走(注5)を行います。続いて釜石八木浜陸上局沖合約700mまで進入し、海底ケーブルの一端を陸揚げします。その後、沖に向かってケーブルを敷設していきます。水深が浅いところでは、この敷設時にケーブルと観測装置を海底から約1mの深さに埋設します。

 4−5.設置日程(予定)
 平成27年9月4−5日 ケーブルルート上の埋設区間の試走
 平成27年9月6日 早朝より、ケーブル陸揚げ作業
    陸揚げ完了後、ケーブルを埋設しながら、沖に向かってケーブル設置
 平成27年9月7−14日 引き続き、ケーブル設置
 平成27年9月15−17日 未埋設部を水中ロボットにより、後埋設、設置完了

 なお、天候等の理由により、日程に変更がある可能性があります。


■用語解説:
 (注1)光海底ケーブル:中心にデータ伝送のための光ファイバーが配置され、その周囲に耐圧構造と電力を送るための導体が配置されている。それらの外側をポリエチレン等で覆い、保護している。さらに保護のため、その外側に鋼鉄線を巻き付けるものもある。本観測システムで使用している光海底ケーブルは、大陸間の通信に利用されるものと同じである。
 (注2)津波計:本観測システムで用いられる津波計は、海底において、圧力(水圧)を高精度で計測し、海底から海面までの高さを精度1cm以下で求める。
 (注3)水中着脱コネクタ:水中において抜き差しが可能なコネクタ。水中ロボットなどを用いて、海底において、コネクタ接続および解除を行う。本システムでは、イーサネット通信対応の4導線のコネクタを用いている。
 (注4)PoEインターフェイス:Power over Ethernetの略。イーサネットの通信線を用いて、通信を行う以外に、電力を供給できるインターフェイス。本システムでは、外部観測装置に約10Wの電力と10Mbpsのイーサネット通信を供給する。
 (注5)埋設区間の試走:今回設置する光海底ケーブル式地震・津波観測システムの埋設予定区間(浅海部)において、埋設作業に支障となる海底面に残置されている漁網、ロープ及びワイヤ類を、ケーブル敷設予定ルートに沿って、埋設作業前に除去する。


 ※添付資料は添付の関連資料を参照





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