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キヤノン、赤外線分光器の小型化が可能なGeイマージョン回折素子を開発

2015-08-13

キヤノンが実用的なGeイマージョン回折素子(※1)の開発に世界で初めて(※2)成功
赤外線分光器の小型化・高性能化により宇宙史や生命誕生の探求に寄与


 キヤノンは、天文分野などで使われている赤外線分光器の大幅な小型化を可能にする、実用的なGeイマージョン回折素子の開発に成功しました。

 *参考画像は添付の関連資料を参照


 キヤノンが開発したGeイマージョン回折素子を用いることで、大型望遠鏡に搭載している高分散の赤外線分光器と同等の性能を持ちながら、分光器の体積を約1/64に大幅に減らすことが可能です。これにより、人工衛星に高性能分光器を搭載して打ち上げることや、次世代大型天体望遠鏡の分光器の小型化や、現在運用している天体望遠鏡の分光器の高性能化が可能になります。生命に関連する有機物や分子の検出を行うための赤外線分光観測がより効率的に行えるようになるため、宇宙史や生命誕生の探求に寄与することが期待されます。
 製品として提供できる体制はすでに整っており、今後、Geイマージョン回折素子を利用する天文台や研究所などへ販売を進めていく予定です。


キヤノン独自の超精密加工技術によりイマージョン回折素子の開発に成功
 イマージョン回折素子は古くから知られている方式の階段状の分光素子ですが、天文分野における赤外波長(1μm(※3)〜30μm)を透過する材料は半導体材料であるため非常にもろく、ほぼ完全な規則性と数nm(※4)以下で凹凸の平面を実用サイズでつくることは難しいとされてきました。これに対してキヤノンは、精密部品製造で培った独自の超精密加工技術をゲルマニウム単結晶に用いることにより、100μm程度の格子構造を数nmの正確な間隔で階段状の溝を施し、実用的なGeイマージョン回折素子の開発に成功しました。

 なお、2015年8月9日〜13日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催される光科学に関する国際会議「SPIE Optics+Photonics 2015」において、キヤノンはGeイマージョン回折素子について講演を行う予定です。

 キヤノンは、これからも技術を通して世界の科学技術や自然科学の発展に寄与していきます。

 ※1 Geイマージョン回折素子とは、赤外領域におけるGe(ゲルマニウム)の透過波長である約3〜11μmをカバーする、分光用の光学素子です。イマージョン回折素子は一般的な反射型の回折素子と比較して、屈折率に比例して大きな分散を得ることができます。ゲルマニウムの屈折率は約4で、同じサイズであれば一般的な回折格子の約4倍の分光性能を得ることが可能です。
 ※2 5μm以下で使用可能なGeイマージョン回折素子において。(キヤノン調べ)
 ※3 1μm(マイクロメートル)は、100万分の1メートル(=1000分の1mm)。
 ※4 1nm(ナノメートル)は、10億分の1メートル(=1000分の1μm)。


ゲルマニウム以外の材料を用いたイマージョン回折素子も視野
 ゲルマニウムを用いたイマージョン回折素子以外に、より広帯域かつ長波長の赤外線をカバーするCdZnTe(※)イマージョン回折素子も世界で初めて開発に成功しています。今後、異なる赤外半導体材料でのイマージョン回折素子の展開だけでなく、高品位加工技術を生かして従来の反射型回折素子の性能向上なども進める予定です。
 さまざまな材料のイマージョン回折素子をラインアップに加えることで、屈折率や波長の異なる物質に対応し、赤外線の分光で幅広い利用が可能となり、天文分野のみならず、科学や医療分野での活用も見込んでいます。
 ※CdZnTeはテルル化カドミウム亜鉛の結晶。赤外線を透過できる半導体材料の一つ。


<回折素子>
 回折素子とは、光が透過できる開口部が周期的に並んでいる光学素子のことです。
 直進する光がその開口部を通過すると、光が直進せずに広がって進行する「回折」という性質を示します。開口部が周期的に並んでいる光学素子の場合、別の場所の開口部を通過して「回折」した光の波同士が互いに強めあったり弱めあったりする「干渉」と呼ばれる現象が起こります。その際、「波長ごとに光が強め合う特定の方向」に進行することになり、その方向は波長により異なるため、回折格子を通すことでさまざまな波長の光を個々に分けることができます。
 物質にはその状態や構造により特定の波長を出したり、吸収したりするので、波長ごとに分離された光を分析することで、対象物の情報を知ることができます。


<分光と分散性能>
 分光とは、回折現象、屈折現象を用いて光を波長ごとに分けることです。よく知られているものとしてはプリズムがあり、この場合はプリズム内を通る光の屈折率の差を利用して光の波長を分けています。
 回折素子における分散性能とは光の波長を分ける能力のことで、波長に対して長い距離で干渉が生じるほど高い分散性能を得ることが可能です。そのため、高い分散性能を有する装置は、その分装置が大きくなってしまいます。この一般的な課題を解決する一つの方法がイマージョン回折素子で、素子を構成する物質の屈折率に比例して高い分散性能を得ることができるため、分光器の大きさを大幅に小さくすることができます。

 *参考資料は添付の関連資料を参照


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