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東北大、寄生者の違いがオトシブミが作る葉巻「落とし文」の多様さをつくることを解明

2015-05-08

寄生者の違いが、オトシブミが作る葉巻「落とし文」の多様さをつくる


【概要】
 −オトシブミは(図1)、卵を産んだ葉っぱを様々な形に切ったり、巻いたりして、地面に落とす
 −道端にわざと落とした手紙「落とし文」(図2)に似ていることからオトシブミと呼ばれており、種によって、葉っぱの加工方法は様々(図3)
 −どのような葉っぱの加工方法をとるかに、卵から孵化した幼虫に寄生する寄生者(寄生蜂)の種類が影響していることを解明
 −生物の作り出す構築物の多様さに、寄生者と植物の相互の進化(共進化)が影響していることを示唆

 ※図1〜3は添付の関連資料を参照


【背景】
 オトシブミ科の甲虫は、葉っぱを様々な形に切ったり、巻いたりして、加工することが知られ、種によって、その加工法は様々です(図3)。オトシブミ科の甲虫のメスは、産卵するときに、新芽や新葉などの生きた葉っぱを切って、その切った先に産卵し、その葉っぱをまいて筒状にしたりします。筒状に巻かれた葉が、道端にわざと落とした手紙「落とし文」(図2)に似ていることからオトシブミと呼ばれています。巻かれた葉っぱのなかで、孵化した幼虫は、萎れていく植物の中身だけを食べて成虫になります。

 ※図4は添付の関連資料を参照

 特に興味深いのは、オトシブミ科の中の様々な種で非常に巧妙な「葉巻」を作る行動が何度も進化しており、しかも葉巻の形も様々であるという点です。メス親による植物を加工する行動は単に茎や葉を切るだけの簡単なものから、葉を幾重にも折りたたんで葉巻を作る複雑なものまで実に多様であり、その結果として多様な幼虫の生育環境が作り出されます(図3、4)。すなわち、地表に落ちた固い茎の内部や、樹上に吊り下がるしっかり閉じられた葉巻の中で幼虫期を過ごす種がいる一方で、切り落とされた薄い葉の内部に潜り込んで、地表で幼虫期を過ごす種がいる、といった具合です。


【研究内容】
 東北大学大学院生命科学研究科の深澤知里研究員、河田雅圭教授、京都大学の加藤真教授らは、日本産オトシブミ科23種を解析し、オトシブミの多様な植物加工法(すなわち多様な葉巻の形態)は、幼虫に寄生する捕食寄生者(注1)である寄生蜂の種の構成と関係することを明らかにしました。これまで、オトシブミのように植物を食べる昆虫に寄生する種(幼虫に寄生する蜂=寄生蜂)は、多様な植物加工法などの生態的な要因などとは関係なく、近縁な種(進化的に近い種類)は、それに寄生する種の構成も類似しているという説がありました。本研究では、日本産オトシブミ科23種を対象として、オトシブミの卵および幼虫期に寄生する種(寄生蜂)の種構成に影響を与える要因として、オトシブミ種の間の系統的な近さ、それぞれの種の植物加工法のタイプ(図4)や卵および幼虫を保護する植物の厚さ・使用する植物の分類群などを解析しました。その結果、寄生蜂の種構成は利用する植物が同じオトシブミの種あるいは系統的に近い種よりも、植物加工タイプが同じ種の間で類似性が高く、寄生蜂の種の構成に影響を与える要因として、植物加工タイプが最も重要であるということが分かりました(図5)。また、オトシブミが利用する植物の違いなどの要因よりも、植物加工法が異なることで生じる見た目や形の違いといった総合的な物理的な特徴の違いが、どのような寄生蜂の種に寄生されるかが決まっていることが明らかになりました。さらに、それぞれの寄生蜂が攻撃して、寄生可能な「落とし文」の形態が決まっていて、ハチの分類群ごとに攻撃できない「落とし文」の形態があることが示唆されました(図6)。例えば、タマゴコバチ科のOphioneurus属のハチは潜葉性の種あるいは葉巻きを作る種でも開放的で内部に潜り込むことが可能な種は攻撃することができますが、密封されたものや何度も折りたたまれ内部に侵入できない構造の葉巻きを作る種は攻撃できないことが分かりました。こうした分類群ごとの制約が、植物加工タイプごとに寄生蜂群集が異なるという状況を生み出していると考えられます。


【研究成果】
 今回の結果からは、オトシブミ科の葉巻き作製を含む多様な植物加工法のみならず、植食性昆虫全体についてもその生息ニッチの多様化が寄生者から逃れるために生じた可能性が示唆されました。本研究の成果は、生物がつくる多様な構築物が、寄生者とそれに対抗するホストの間の共進化によるものだという可能性を示唆しています。
 本研究の成果は、米国科学誌Ecological Monographs電子版に掲載されました。

 ※図5・6は添付の関連資料を参照


・注1 捕食寄生者
 捕食寄生者とは、一般的に「寄生者」と呼ばれるダニやノミなどと異なり、宿主の体液を吸って成長し最終的には殺してしまう生き物を指します。代表的な捕食寄生者として寄生蜂(ハチ)が挙げられます。


【論文の詳細】
 著者:Kobayashi,C.,K.Matsuo,K.Watanabe,N.Nagata,Y.Suzuki−Ohno,M.Kawata and M Kato
 表題:Arms race between leaf−rolling weevils and parasitoids:diversification of weevil"s plant−manipulation behavior and its consequence
 雑誌:Ecological Monographs
 巻頁:85:253−268
 発行:2015年4月24日



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