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京大など、大腸がんの浸潤・転移が促進される機構を解明
大腸がん悪性化の機構を解明
−新規治療法・予後予測マーカー開発へ期待−
京都大学大学院医学研究科の武藤 誠 名誉教授(現国際高等教育院特定教授)、園下将大 准教授らの研究グループは、Aesの消失で促進されるNotchシグナルに依存する転写によって大腸がんの浸潤・転移が促進される機構を解明することに成功しました。
本研究成果は、米国癌学会「Cancer Discovery」誌の電子版に掲載されました。
■原著論文:
「Notch−Dab1−Abl−RhoGEFタンパクTrio経路を介した大腸がん浸潤と転移の促進」
■原著者:
園下将大(*)、板谷喜朗、柿崎文彦、崎村建司(◇)、寺島俊雄、勝山裕、坂井義治、武藤 誠(京都大学大学院医学研究科 遺伝薬理学・消化管外科学、新潟大学脳研究所細胞神経生物学、神戸大学大学院医学研究科神経発生学、東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学、*現職留学中、米国ニューヨーク市、Mt.Sinai医科大学)
◇原著者名の正式表記は添付の関連資料を参照
■研究の概要
消化器がんは、がんの中でも最も死亡率が高い。特に肝臓や肺への転移が死因となっているため、その機序の解明及び予防・治療法の確立が急務となっている。
本研究は、2011年に我々が発表した論文(Sonoshita et al.,Cancer Cell19:125.37,2011)を発展させたものである。大腸がん転移抑制タンパクAes(Amino−terminal enhancer of split)が減弱・消失することで起きるNotchシグナル伝達の活性化が、Trioという巨大なタンパクの特定のチロシン残基のリン酸化を起こし、下流のRhoタンパクの活性化による大腸がん細胞の浸潤・転移を促進することを解明したものである。以下に概要を箇条書きにする。
(1)Notchシグナル伝達により転写される新規遺伝子の一つは、アダプタータンパクの一つDab1である。
(2)Dab1はチロシンキナーゼAblによりリン酸化されて活性化し、一方、こうして活性化したDab1は、Ablの自己リン酸化を促進することでAblを活性化する。
(3)こうして活性化したAblの大腸がん細胞におけるリン酸化標的分子の一つは、RhoGEFタンパクの一つTrioである。
(4)2681番目のチロシン残基がAblによってリン酸化されたTrio(Trio(pY2681))はRhoGEF活性によってRhoタンパクの活性化を招来し、大腸がん細胞の浸潤・転移を促進する。
(5)Trio(pY2681)は、大腸がん患者の予後(術後生存率)と強い負の相関を示す。
これらの結果は、大腸がんにおいてNotchシグナル伝達の下流で起きるTrio(pY2681)を用いて患者の予後予測が可能であることを示すと同時に、既存のAbl阻害薬を用いて浸潤・転移の予防を目指す補助化学療法が可能になることを示唆している(下図)。
なお、この診断法に関する技術は既に京都大学より特許出願を行い、JSTの支援で国際特許(PCT)出願が行われている。更にJSTより事業化予算(STARTプログラム)が認可されて、数年後を目途に開発研究が進行している。
※参考画像は添付の関連資料を参照