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京大、昆虫が有性生殖と単為生殖を切り替える仕組みを解明

2014-11-22

昆虫が有性生殖と単為生殖を切り替える仕組みを解明
−シロアリ女王、卵の孔を閉じて精子通さず−


<概要>
 松浦健二 京都大学大学院農学研究科教授と矢代敏久 同特定研究員は、昆虫のメスが卵の表面にある卵門(精子が入るための孔)を閉じることによって有性生殖から単為生殖に繁殖様式を切り替える仕組みを発見しました。今回発見された単為生殖へのスイッチの仕組みは、メスがオスからの干渉を受けることなく単為生殖を行うことができることを意味しており、昆虫の単為生殖の新しい進化経路を示すものです。

 本研究成果は、米国科学誌「Proceeding of the National Academy of Sciences USA(PNAS)」のオンライン速報版に掲載される予定です。



1.背景
 地球上の多くの動物は卵と精子を授精させて次世代を作り出す有性生殖によって繁殖しています。しかし、有性生殖は卵を産まないオスを作らなければならない分だけ、メスだけで繁殖する単為生殖よりも増殖効率の悪い繁殖様式です。また、メスにとっては自分の遺伝子だけで子を作る単為生殖の方が、次世代に自分の遺伝子を伝える上でも効率的です。それなのになぜ有性生殖が一般的に行われているのかは、進化生物学の最大の謎の一つとされています。有性生殖から単為生殖への進化が起こりにくい要因の一つとして、オスによる強制授精の影響が考えられています。有性生殖を行っている動物では、メスにとって単為生殖が好ましい状況であっても、オスに交尾されると授精して有性生殖の子が産まれるので、単為生殖できなくなるという仮説です。これまで二倍体の昆虫では、産卵する際に受精嚢(*1)の中の精子が自動的に送り出されて卵が受精するので、メスによる受精の制御はできないと考えられてきました。


2.研究手法・成果
 私たちは女王が有性生殖と単為生殖の両方を使い分けているシロアリを用いて繁殖様式のスイッチの仕組みを調べることで、二倍体の昆虫のメスが受精を制御できることを初めて明らかにしました。シロアリの巣は、オスとメスの羽アリがペアになり、一夫一妻で創設されます。このはじめのペアが創設王と創設女王になり、産まれる子は働きアリ、兵隊アリ、そして新たな羽アリとなります。北海道から九州まで日本に広く分布しているヤマトシロアリなどでは、女王が働きアリや羽アリなどを有性生殖で産む一方で、自分の後継者となる女王を単為生殖で産むという特有の繁殖様式をもっていることが知られています(図1)。女王の受精嚢を調べると、どの女王も精子を保有しており、王と交尾をしていました。では、女王は受精嚢に精子を貯えていながら、どうやって単為生殖の子を産むのでしょうか。

 ※図1は添付の関連資料を参照

 昆虫の卵の表面には、卵門と呼ばれる精子を通すための孔が開いています(図2)。ヤマトシロアリの卵の表面には平均9個の孔が開いていますが、大量の卵の卵門を調べたところ(60の巣から100個ずつ計6000個の卵)、卵門の数にはばらつきがあり、一部の卵には卵門が全くないことが判明しました。卵の中で発育中の胚の遺伝子解析を行ったところ、卵門の無い卵は単為生殖、卵門がある卵は有性生殖で発生していることが明らかになりました。さらに、卵門の数は女王の年齢によって異なり、女王が若いうちは卵門の多い卵を産み、老化とともに卵門の無い卵を産むようになることが分かりました(図3)。また、卵門数を季節的にも制御していることが明らかになりました。つまり、シロアリの女王は、通常は有性生殖によって働きアリや羽アリを生産しているが、老化して死ぬ前に卵門の無い卵を産むようになり、自分の後継女王を単為生殖で生産していることが判明しました。

 ※図2は添付の関連資料を参照


3.研究成果の意義と波及効果
 今回、私たちは昆虫のメスが卵門を閉じて精子の侵入を阻止し、交尾していながら単為生殖にスイッチする仕組みを発見しました。これはメスによる有性生殖から単為生殖への切り替えが、オスの干渉を受けることなく可能であることを意味しています。これまで有性生殖の集団から単為生殖が進化するためには、単為生殖の集団が有性生殖の集団から隔離されることが必要と考えられていましたが、卵門を閉じて精子を通さないという仕組みは隔離を必要としないより迅速な単為生殖の進化経路が存在することを示しています。他の動物の分類群に比べて昆虫では単為生殖の種が多く存在しており、トンボ目、バッタ目、カメムシ目、チョウ目、ハチ目、ハエ目、コウチュウ目など、ほぼすべての目で産雌単為生殖(*2)の種が知られています。しかし、どのように有性生殖から単為生殖が進化したのか、受精制御の仕組みがどうなっているのか大部分は解明されていません。今後、卵門の開閉というメスの形質に着目した研究がさまざまな種で行われることにより、昆虫における性の意義と単為生殖の進化の理解が深まることが期待されます。

 ※図3は添付の関連資料を参照


<用語解説>
 *1 受精嚢:交尾によって雄から受け取った精子を一時的に蓄えておくための袋状の器官。



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カメムシ目 コウチュウ 京都大学 大学院 遺伝子 精子

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