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東北大、「ひらめき」の兆しとして脳の中の「ゆらぎ」が上昇することを解明

2013-12-12

「ひらめき」の兆しとしての脳の中の「ゆらぎ」上昇
―問題解決における前頭前野神経回路の相転移としての思考過程の解明―



【研究概要】
 東北大学電気通信研究所ブレインウェア実験施設実世界コンピューティング研究部の坂本一寛(さかもとかずひろ)助教、および東北大学大学院医学系研究科生体機能学講座生体システム生理学分野の虫明元(むしあけはじめ)教授らのグループは、問題解決課題を遂行中の動物が具体的な解決手順を思いつく際の前兆として、脳の前頭前野神経細胞活動のゆらぎが上昇することを新規に見出しました。さらに、このゆらぎは様々な複雑系で認められる相転移前の臨界ゆらぎとして捉えられることを世界で初めて明らかにしました。本研究の成果を発展させ、人間の意思決定に伴う脳の状態変化の前兆を捉える技術の開発が進めば、精神疾患患者における病的な意思決定の診断法や、ユーザーの心に素早く反応する革新的な脳・機械インターフェースの開発につながると期待されます。この研究成果は、米国オープンアクセス科学雑誌PloS ONE に現地時間12月4日(水)午後5時(日本時間12月5日午前7時)に掲載予定です。本論文はオープンアクセスですので、http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0080906よりどなたでもご覧いただけ
ます。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「伝達創成機構」、科学技術振興機構「CREST」、内閣府・最先端研究開発支援プログラム「FIRST」、および東北大学・学際科学フロンティア研究所・領域創成研究の支援を受けました。


【研究背景】
 株価の変動や感染症の伝搬など大規模で複雑なシステムは、時として急激な状態の変化を示します。そのような急激な変化を相転移(注1)と呼ぶことがあります。
 もし、大地震、株価の暴落、伝染病の発生といった急激な状態変化の前兆を的確に捉えることができるならば、深刻な事態に対して事前に対処したり準備したりすることができます。
 代表的な相転移の前兆として、「ゆらぎ」(または、不規則性、ばらつき)が増大することが知られています。例えば、状態Aから状態Bに相転移する場合、一度状態Aが不安定になるため、ちょっとした外乱に弱くなり、「ゆらぎ」の増大として現れるのです。このような、相転移を起こす直前の「ゆらぎ」の増大は、複雑なシステムにおける「臨界ゆらぎ」と呼ばれています。

 それでは、人の脳や思考といった複雑なシステムにおいても、相転移や「臨界ゆらぎ」が観察されるのでしょうか?私たちが日常生活では、問題解決する場面で、様々な考えが浮かんだり消えたりする心の状態から“ハッ!”と解決法をひらめいた状態に移ることを体験することがあると思います。私達はこの問題に取り組むために、思考や問題解決などをつかさどる重要な脳の部位、大脳の前頭葉の一部である前頭前野(図1)の神経細胞活動を、訓練されたニホンザルにおいて研究しました。その結果、問題解決法を思いつく前兆現象としての大脳皮質の神経細胞活動の「ゆらぎ」上昇を世界で初めて発見しました。今回、私達が発見した前頭前野神経細胞活動の「ゆらぎ」の上昇は、私たちの日常体験に対応する現象が、神経細胞活動レベルで存在することを意味しています。すなわち、(1)問題解決法を思いつく前後では、前頭前野における神経細胞活動の状態が大きく変化(相転移)すること、(2)その大きな変化の直前に、つまり、問題解決法を思いつく直前に、解決法をひらめく前兆(臨界ゆらぎ)が見られることを示唆しています。


【研究内容】
 まず、ニホンザルにコンピューター画面で簡単な迷路を見せ、ゴールまでカーソル(目印)を移動させる迷路課題を訓練しました。一度見つけた経路上に障害物をおいても、訓練されたサルは途中の障害物を避けてゴールまで辿り着く経路を思いつくことができます(図2)。つぎに、迷路課題遂行中に、問題解決を司ると考えられている大脳の外側(がいそく)前頭前野から神経細胞活動を記録し、行動計画期間(課題が提示されてから具体的な行動を開始するまでの期間)の神経細胞活動とゆらぎの程度を解析しました。その結果、以下の2点が明らかになりました。

 (1)ある細胞グループでは、行動計画期間の初期では、ゴールの位置に応じて、活動が変化します。(初期安定状態)。この状態のことを“神経細胞活動が最終ゴールの位置の情報を符号化している”と呼びます。一方、後期では、同じ細胞グループが、サルが1手目で具体的にどの方向にカーソルを動かすかに応じて、活動が変化するようになります。(後期安定状態)。こちらの状態は、“具体的な行動を符号化している”と呼びます。これらのことは、サルが迷路課題を解決しようとしている間に、神経細胞活動の状態が“最終ゴール位置を符号化している”初期安定状態から“具体的な行動を符号化している”後期安定状態へと大きく変化することを意味します。
 (2)神経細胞の活動のゆらぎの程度として、神経細胞活動の不規則さの程度を解析したところ、神経細胞活動が、“最終ゴール位置を符号化している状態”から“具体的な行動を符号化している状態”(つまり、最終ゴールまで到達するための解決法を思いついた状態)へと大きく変化する以前に、神経細胞活動の不規則さの程度が上昇しました。つまり、解決を「ひらめく」直前に、神経活動の「ゆらぎが上昇」したのです。

 この神経細胞活動の「ゆらぎ」の特性を明らかにするために興奮細胞、抑制細胞から構成される神経回路モデルをコンピューター上で構築し、回路の状態が変化する時の細胞活動のゆらぎの特性を検討しました。特に、神経細胞の入出力の性質(入力‐出力の比、回路の安定性、細胞活動のゆらぎの関係)を詳細に調べました。その結果、わずかな入力‐出力比の変化が回路の安定性を大きく変動させ、その際に、回路の状態が相転移する直前に細胞活動の「ゆらぎ」が上昇することを突き止めました。この現象は前頭前野細胞活動の「ゆらぎ」の上昇と同様であり、複雑系で見られる臨界ゆらぎが、前頭前野細胞活動においても存在することを強く示唆しました。

 統合失調症をはじめとする様々な精神疾患では、シナプスと呼ばれる神経細胞の入出力を調節する部位の異常が関与していることが示されています。今回の結果は、たとえ、わずかなシナプスにおける入出力の変化でも、大規模な神経回路の「ゆらぎ」の異常を引き起こし、回路の安定性や柔軟性の特性を変えてしまうことを意味します。

 本研究の成果を端緒として、将来人間の意思決定に伴う脳の大きな状態変化の前兆現象を捉える技術の開発が進めば、精神疾患等に伴う病的な意思決定の診断法や、ユーザーの心の変化に素早く追従する革新的な脳・機械インターフェースの開発、状況に応じて自ら判断できるロボットの開発につながると期待されます。


【用語説明】
 注1.相転移:物質やシステムが、ある安定な状態から別の安定な状態へ移行すること。例えば、液体の水から固体である氷への変化は相転移の一つ(図3)。

 ※以下の資料は、添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1〜3
  ・論文題目


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