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理化学研究所、アトピー性皮膚炎の発症に関わる4つのゲノム領域を発見

2013-06-15

アトピー性皮膚炎の発症に関わる4つのゲノム領域を新たに発見
−3つの領域で日本人のアトピー性皮膚炎の発症との関連を確認−


<ポイント>
 ・免疫関連疾患を解析するイムノチップ解析でアトピー性皮膚炎の遺伝要因を解明
 ・2カ所のゲノム領域は日本・中国と欧州で遺伝要因が共通
 ・アトピー性皮膚炎における臨床研究の仮説立案や治療標的分子の絞り込みが進展


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、アトピー性皮膚炎の発症に関連する4つのゲノム領域を新たに発見しました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)の久保充明副センター長、呼吸器・アレルギー疾患研究チームの玉利真由美チームリーダー、広田朝光研究員を含む国際共同研究グループ[1]による成果です。

 アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な湿疹が特徴の疾患で、患者さんの多くはアトピー体質という遺伝要因を持っています。セーター、髪の毛、汗など、ちょっとした刺激にも敏感で、かゆみから皮膚を引っかき壊してしまうことが多いのも特徴です。専門家による治療ガイドラインの普及により、症状をコントロールできるようになりましたが、治療による効果が少ない難治性の症例も存在し、病態の解明や治療法の確立が急務となっています。

 今回の研究では、まず欧州の研究チームが、免疫関連疾患を詳細に解析するための「イムノチップ解析法[2]」を用いて、欧州人集団(アトピー性皮膚炎患者4,376人、非患者10,048人)のアトピー性皮膚炎の遺伝要因の探索を行いました。その結果、新たに4つのアトピー性皮膚炎に関連するゲノム領域(4q27、11p13、16p13.13、17q21.32)を発見しました。次に理研の研究チームが、その結果の検証を日本人集団(アトピー性皮膚炎患者2,397人、非患者7,937人)で行ったところ、4つの関連ゲノム領域のうち3つの領域(11p13、16p13.13、17q21.32)が日本人のアトピー性皮膚炎発症にも関連することを確認しました。

 発見した4つのゲノム領域とその近くの領域には、免疫応答に関与する遺伝子や自然免疫と獲得免疫を制御するタンパク質、抗体遺伝子の再構成に重要な働きをする遺伝子のほか、かゆみに関わる神経成長因子受容体が存在していました。これは、発見された遺伝要因がそれらの遺伝子発現量に影響する可能性を示唆しています。

 今回の知見は、今後の臨床研究の仮説立案や治療標的分子の絞り込みに役立つと期待できます。

 本研究成果は、科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるに先立ち、オンライン版(6月2日付け)に掲載されました。


<背景>
 アトピー性皮膚炎は、皮膚過敏、かゆみによる掻爬(そうは)行動が特徴的な皮膚の慢性炎症であり、アトピー体質という遺伝要因が関係する疾患です。発症や進行の仕組みについては、いまだによく分かっていません。近年の専門家による治療ガイドラインの普及により、多くの患者が症状を良好にコントロールできるようになりましたが、いまだに既存の治療法では効果が少ない難治例も存在し、アトピー性皮膚炎の科学的な病態の解明とそれに基づく予防法や治療法の確立が急務となっています。

 過去に行われた4つの国際的な大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)[3]により、すでに15カ所の疾患関連領域が同定されていました。一方、近年では、免疫関連遺伝子領域を中心にGWASでは解析されていない遺伝子の多型を解析できるイムノチップ解析という手法が開発されています。これは、免疫関連遺伝子に分布する一塩基多型(SNP)[4]を頻度の低い多型も含めて数多く解析できる高密度アレイを用いた手法で、さまざまな疾患で新たに疾患関連領域が同定されてきています。


<研究手法と成果>
 まず、国際共同研究グループは、欧州人のアトピー性皮膚炎の遺伝要因を明らかにするため、イムノチップ解析法を用いて計128,830個のSNPについて、アトピー性皮膚炎の発症と関連するSNPを探索しました。さらに、独立に収集された4つの欧州人集団で結果の検証研究を行い、欧州でアトピー性皮膚炎患者4,376人と非患者10,048人について解析結果の統合を行い、すでにGWASでの解析で関連が報告されている5つのゲノム領域に加え、新たに4つのゲノム領域を発見しました(図1)。

 次に、新たに発見した4つの関連ゲノム領域に対して、日本人集団(アトピー性皮膚炎患者2,397人、非患者7,937人)、中国人集団(アトピー性皮膚炎患者2,848人、非患者2,944人)について、追認解析を行い結果の再現性の確認をしました。その結果、新たな4つの関連ゲノム領域のうち、日本人では3つのゲノム領域(11p13、16p13.13、17q21.32)、中国人では2つのゲノム領域(16p13.13、17q21.32)が、それぞれ関連することを確認しました。なお、今回使用した日本人のDNA試料は、共同研究機関及び文部科学省委託事業「オーダーメイド医療実現化プロジェクト(個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト)」から配布を受けたものです。


<今回発見した4つのゲノム領域>
 4q27:この領域は、IL2、IL21遺伝子を含んでいます。IL−2は、さまざまな免疫細胞の活性化や調節性T細胞の維持に重要と考えられています。また、現在アトピー性皮膚炎の治療に使用されている薬剤(タクロリムス、シクロスポリン)は、T細胞におけるIL−2産生を抑制します。IL−21は、マウスの実験からIgE産生や気道アレルギー炎症に関与することが報告されています。

 11p13:この領域やその近くの領域には、PRR5L、TRAF6、RAG1、RAG2遺伝子が含まれています。TRAF6は、自然免疫と獲得免疫を制御するタンパク質であり、RAG1、RAG2は抗体遺伝子の再構成に重要な働きをします。

 16p13.13:この領域やその近くの領域には、CLEC16A、DEXI、SOCS1遺伝子が含まれています。CLEC16Aは、B細胞やNK細胞、樹状細胞に発現しており、免疫細胞の活性化に関与すると考えられています。また、SOCS1は、免疫反応に必要な情報伝達物質であるサイトカインの負の制御因子として重要な働きをします。

 17q21.32:この領域やその近くの領域には、ZNF652、NGFR遺伝子が含まれています。NGFRは、知覚神経の表皮への伸長を促進する神経成長因子(NGF)の受容体であり、動物モデルではかゆみとNGFとの関連がすでに報告されています。


<今後の期待>
 今回、アトピー性皮膚炎の発症に重要な役割を果たすヒトの4つのゲノム領域が明らかとなりました。それらの領域とその近くの領域には、感染や炎症で働く免疫に関連する遺伝子が多数含まれており、病態におけるそれらの遺伝子の重要性が示唆されました。アトピー性皮膚炎の特徴的な症状は、かゆみです。今回、かゆみに関連するNGFRの領域の近くに遺伝要因が存在することも明らかとなりました。今後、これらの領域に含まれる遺伝子多型について機能を詳細に調べることで、アトピー性皮膚炎の病態解明が進むことが期待できます。


<原論文情報>
 ・Tomomitsu Hirota,Mayumi Tamari,Michiaki Kubo,Young−Ae Lee,Andre Franke,Stephan Weidingeret al.
  "High−density genotyping study identifies four new susceptibility loci for atopic dermatitis".Nature genetics 2013;doi:10.1038/ng.2642


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 統合生命医科学研究センター 呼吸器・アレルギー疾患研究チーム
 http://www.riken.go.jp/research/labs/ims/respir_aller_dis/
 チームリーダー 玉利 真由美(たまり まゆみ)
 研究員 広田 朝光(ひろた ともみつ)


 ※以下の資料は添付の関連資料を参照
  ・補足説明
  ・図1 アトピー性皮膚炎に関連する4つのゲノム領域

この記事に関連するキーワード

ガイドライン 文部科学省 タンパク質 アトピー ゲノム

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