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慶大、SBMLの言語に完全準拠した生化学シミュレーターのソフトウェア開発に成功

2013-04-24

Systems Biology Markup Language(SBML)を完全準拠した
生化学シミュレータ「LibSBMLSim」の開発に世界で初めて成功
オープンソースとして公開、生命現象の仕組み解明の強力ツールに−


 慶應義塾大学理工学部生命情報学科 舟橋啓准教授ら研究グループは、Systems Biology Markup Language(SBML)の言語を完全準拠した生化学シミュレータのソフトウェアの開発に世界で初めて成功しました。これにより、SBMLで書かれた生化学反応の数理モデル(現在1000種以上(*1))を利用し、細胞の様々な現象(シグナル伝達、代謝、細胞周期、生体リズム、免疫、がん等)をシミュレーション可能となりました。
生命現象の仕組みの理解や研究に不可欠なツールである生化学シミュレータは、SBMLの登場以来この10年で170以上開発されてきましたが、生化学反応の複雑な数理モデルに加え、それを記述する統一フォームのSBMLの仕様が膨大であることから、SBMLを完全準拠できず、どこかに不具合や欠陥を残したものでした。
 今回の研究では、SBMLの完全準拠を目指して、複数のシミュレーションエンジン(微分方程式ソルバ)の実装を施すなどの改良を加えました。その結果、SBMLの準拠具合を試すテストケース(全980種)に合格する、すなわちSBMLを完全準拠したといえるシミュレータの開発に成功しました。
 この生化学シミュレータ「LibSBMLSim」は、オープンソースとしてhttp://fun.bio.keio.ac.jp/software/libsbmlsimに公開中のほか、英国科学誌『Bioinformatics』(*)に2013年4月5日にAdvanced Accessとして掲載されました。
 bioinformatics.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/btt157?ijkey=ztApZpUZ9dMrNZk&keytype=ref" target="_blank">http://bioinformatics.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/btt157?ijkey=ztApZpUZ9dMrNZk&keytype=ref

 *論文タイトル:”LibSBMLSim:A reference implementation of fully functional SBML simulator”(LibSBMLSim:SBMLに完全準拠した生化学シミュレータの実装)
 著者:瀧沢大夢(慶應義塾大学理工学研究科 修士課程 2年(論文作成当時))、
     中村和成(慶應義塾大学理工学研究科 修士課程 1年(論文作成当時))、
     田平章人(慶應義塾大学理工学研究科 修士課程 2年(論文作成当時))、
     近原鷹一(慶應義塾大学理工学部 生命情報学科 4年(論文作成当時))、
     松井達広(慶應義塾大学理工学研究科 修士課程 1年(論文作成当時))、
     広井賀子(慶應義塾大学理工学部 専任講師)、
     舟橋啓(慶應義塾大学理工学部 准教授)
     (*1 BioModels Databaseにて公開:http://www.ebi.ac.uk/biomodels-main/


1.背景
 近年、生命現象を司る動作メカニズムの理解を目標としたシステム生物学的アプローチをとった研究が隆盛を誇っています。生命現象を司る動作メカニズムの理解には、対象とする生命現象に関わる分子の特定、及びそのダイナミクスを理解する必要があります。一般的にダイナミクスは遺伝子制御、シグナル伝達、代謝等、分子間反応として表現され、ダイナミクスの特性の記述には反応方程式が用いられます。反応方程式の記述は大別して
 (1)分子濃度を記述した常微分方程式
 (2)分子濃度の空間的分布を記述した偏微分方程式
 (3)分子数のゆらぎを考慮した確率モデル
に大別されます。これら異なる記述方法は適用する生命現象に依存します。現在、様々な細胞シミュレーション手法が提案されていますが、ここ10年間、論文等で最も多く利用されているのが(1)の常微分方程式を用いたシミュレーションです(*2)。常微分方程式を用いたシミュレーションでは細胞内の各分子反応を化学反応方程式の形で表し、その濃度変化を1つずつ計算し、未来の予測を行います(図1)。

 ※参考画像1は添付の関連資料を参照


細胞シミュレーションを行う際に、シミュレーションしたい現象(シグナル伝達、代謝、細胞周期、生体リズム、免疫、がん等)を記述したものを「モデル」もしくは「数理モデル」と呼びます。システム生物学の分野では、この数理モデルを記述する言語であるSBMLが普及しています。SBMLを利用することで、異なるシミュレータ上で同じ数理モデルのシミュレーションが可能です。これは、HTMLで記述された様々なwebページが様々なwebブラウザで閲覧できるのと同じイメージです。SBMLの登場以降、10年間以上で170以上のSBML対応シミュレータが開発されてきました。しかし、SBMLの仕様が膨大であること、またSBMLの抽象度が高いことから様々な現象を表現可能であり、SBMLの仕様に完全準拠したシミュレータは存在しませんでした。一方で、細胞シミュレーションは未来の生命科学に必須な技術となってきています。
また、SBMLで記述された1,000種以上の数理モデルが世界の公的データベースにて公開、また論文とともに出版されています。
 (*2“Applications and trends in systems biology in biochemistry.”FEBS J 278:16,2767−857)


2.研究成果
 研究チームはこういった現状を踏まえ、SBMLの膨大な仕様に完全準拠するシミュレータの開発を目標としてプロジェクトを開始しました。SBMLの仕様に対応するためには様々なシミュレーションエンジン(微分方程式ソルバ)の実装が必須となります。具体的には、一般的な常微分方程式ソルバに加え、微分代数方程式ソルバ、遅延微分方程式ソルバの実装を行いました。それに加え、シミュレーション中にある条件を満たした場合にのみ発生する「イベント」に対応する必要がありました。これらすべての要件を満たすシミュレータを実装し、シミュレータが正しく動作しているか1,000種近くのテストケースにて確認を行いました(図2)。SBMLに完全準拠したシミュレータの開発に成功したのは世界初となります。またこのシミュレータはライブラリの形式として開発されたため、既存のソフトウェアに容易に組み込むことが可能です。またC,C++,Java,Python,Ruby,C#等のプログラミング言語の関数群を提供しているので様々なプログラミング言語にてシミュレータを開発することが可能となっています。

 ※参考画像2は添付の関連資料を参照


3.今後の展開
 生命現象の仕組みを理解するためには細胞シミュレーション技術は強力なツールとなります。
 一方で、生物学者にとって数理モデルの構築、シミュレータの開発は大きな障壁となっていました。数理モデルの構築はSBMLの普及により容易になって来ていますが、SBMLに完全準拠したシミュレータが存在しないこともあり、ユーザは数理モデルに応じて使用するシミュレータを使い分けるか、自分の手で開発を行う必要がありました。今回開発されたシミュレータを用いることで既存の数多くの数理モデルの正確なシミュレーションを行うことが可能となりました。また、このシミュレータをライブラリとして利用することで、わずかなプログラミング(例えばPythonでは3行)で独自のシミュレータを開発することが可能となりました(図3)。

 現在の生命科学では生物学、物理学、化学、数学、計算機科学の融合が必要となってきています。様々な分野の研究者が容易に、かつ正確なシミュレーションを実行できる技術基盤を提供することで分野融合的な生命科学の研究を促進することが期待されます。

 ※参考画像3は添付の関連資料を参照


 この研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号 23136513“超高速生化学ネットワークシミュレーションの基盤構築”)の支援を受けて遂行されました。


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