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東北大学、薬による二日酔いのメカニズムを解明
薬による二日酔いのメカニズムの解明
―分子イメージングによる画像化に世界で初めて成功―
処方箋なしで購入できるOTC薬(注1)によく含まれている鎮静性抗ヒスタミン薬を前夜に服用すると翌日まで影響するのでアルコールと同じ二日酔いと同じ状況になるが、東北大学大学院医学系研究科の谷内一彦教授(機能薬理学)とサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代学准教授(核医学)はPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)を用いて前夜に服用した鎮静性抗ヒスタミン薬(注2)による「二日酔い」の分子イメージング(注3)に成功し、そのメカニズムをヒトで初めて明らかにした。特に車の運転や重要な試験を受けるなどの高い能力を発揮する必要がある時は前日の夜に鎮静性抗ヒスタミン薬などは服用しないように十分に注意が必要であることを科学的に証明した。本研究は12月に米国の専門誌Journal of Clinical Psychopharmacologyに掲載された。
【研究内容】
二日酔い、宿酔(ふつかよい)とは、主にエタノールにより脳機能が低下した状態であり、基本的には、夜間に酒を飲み、翌朝の起床後、顕著に現れる現象を指し、12月の忘年会シーズンでは注意が必要である。アルコールのみでなく、薬も前夜に服用すると翌日まで眠気や脳機能障害などの副作用が持ち越す「薬の二日酔い」が知られている。特に処方箋なしで購入できるOTC薬によく含有されている鎮静性抗ヒスタミン薬を前夜に服用すると翌日まで影響し、アルコールと同じ二日酔いと同じ現象になることが一部の研究者では知られていた。東北大学大学院医学系研究科の谷内一彦教授と東北大学サイクロトロン・RIセンターの田代学准教授はPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)を用いて前夜に服用した鎮静性抗ヒスタミン薬が、12時間後にどれだけ脳に残っているか調べたところ、眠くなる鎮静性抗ヒスタミン薬を服用すると受容体の約50%が占拠されていたのに対し、眠くならない抗ヒスタミン薬は15%程度であった。以前の研究から50%の受容体が占拠されるとひどい眠気と脳機能障害が起きることが分かっている。眠くなる鎮静性抗ヒスタミン薬はOTC薬として睡眠補助薬、花粉症薬、風邪薬、乗り物酔い止めに含まれているので、特に車の運転や重要な試験を受けるなどの高い能力を発揮する必要がある時は前日の夜にも服用しないように十分に注意が必要であることを科学的に証明できた。本研究は米国の専門誌Journal of Clinical Psychopharmacologyに掲載されて、世界中で注目を集めている。本研究はNEDOマイクロドーズプロジェクトによって、サポートされた。
◇図.前日の夜に服用した薬による翌日の"二日酔い"
※添付の関連資料を参照
【用語説明】
注1:OTC薬
一般用医薬品。薬局・ドラッグストアなどで販売されている医薬品のこと。OTCは、Over The Counterに由来。
注2:抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬(こうヒスタミンやく)(Antihistamine)は、ヒスタミンの作用を抑制する薬品である。特にH1受容体拮抗薬を指す。抗ヒ剤と略称することもある。用途として、花粉症・アトピー性皮膚炎などのアレルギーの諸症状を緩和、風邪の諸症状緩和、睡眠改善薬、乗り物酔いなどがある。
注3:分子イメージング(Molecular imaging)
生物が生きた状態のままで外部から生体内の遺伝子やタンパク質などの様々な分子の挙動を観察する技術のことをさす。
参考
マイクロドーズ臨床試験:
通常の薬理効果が現れる用量よりもはるかに少ない用量で体内動態を調べることを主な目的に行う臨床試験のこと。極めて微量であるために毒性試験が軽減でき創薬の初期で行えば開発費用の無駄を省くことができる。
PET機器
PET(ポジトロン断層法:Positron Emission Tomography)における放射能検出器のことで、通常光電子倍増管を用いるが、最近半導体素子を用いた検出器が東北大学で開発されて注目されている。他のイメージング装置とのfusionも将来性が高い。がんと認知症の超早期診断法として期待されているほか、創薬への応用も期待されている。
【論文題目】
Next−Day Residual Sedative Effect After Nighttime Administration of an Over−the−Counter Antihistamine Sleep Aid, Diphenhydramine, Measured by Positron Emission Tomography(Journal of Clinical Psychopharmacology Volume 30, Number 6, December 2010)
「(タイトルの日本語訳)ポジトロン・エミッション・トモグラフィーで測定されたOTC睡眠補助薬ジフェンヒドラミンを前日の夜に服用した場合の翌日の残存鎮静作用について」
ジャーナル・オブ・クリニカル・サイコファーマコロジー30巻6号12月号:694−701ページ