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NICT、テラヘルツ波で尾形光琳作「八橋図屏風」の下地が全面金箔など解明

2012-11-03

尾形光琳作「八橋図屏風」には 全面金箔 が貼られていた!
テラヘルツ波により、文化財の見えない歴史や価値を明らかにする〜


 独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、尾形光琳(*1)作「八橋図屏風」(1710年頃制作、メトロポリタン美術館(*2)所蔵)の内部状態の調査を実施しました。今回の調査では、テラヘルツ波(*3)を用いたイメージング技術により、絵の具で描かれた花や橋の部分の下を含む、屏風全面に金箔下地が施され、その金箔の上には銅系を中心とした顔料で彩色されていることが明らかになり、江戸時代の絵画・工芸の技法の解明に貢献しました。


【背景】
 NICTは、世界に先駆け、テラヘルツ波帯の電磁波を文化財の非破壊調査に応用する研究を行っています。テラヘルツ波は、X線透過撮影や赤外線.紫外線の反射測定では困難な絵画の下地層の状態を非破壊非接触で観測でき、これまでに、ルネッサンス期の板絵や壁画の構造調査等に利用されています。NICTは、これらの調査結果を超高解像度画像や顔料分析結果などと共に、ナレッジキャピタル(*4)のトライアルイベント等で発表してきました。


【科学調査結果】
 今回NICTは、メトロポリタン美術館と共同で、尾形光琳作「八橋図屏風」(図1)のテラヘルツ波による調査を、2012年3月にメトロポリタン美術館の収蔵庫内で行いました。この調査の結果、花や橋が描かれた絵の具の下の部分にも金箔があり、屏風全面に金箔下地が施されていることが明らかになりました(図2)。さらに、使われている絵の具は、顔料の粒度が細かいものから粗いものへ重ねられており、その厚さは約0.6mmほどであることも判明しました。また、断面の観測から、表面部分に金箔の欠損があっても、内部の紙には影響が及んでいないことが分かりました(図3)。
 一方、光琳が同じテーマで描いた国宝「燕子花かきつばた図屏風」(1701年頃制作、根津美術館所蔵)は、近年の修復時に燕子花の花の下に金箔は無いことが報告されています。つまり、これら2作品では下地構造が異なるという事実を新たに確認できました。本研究結果については、10月1日(月)にメトロポリタン美術館で開催された美術史研究者向けのワークショップで発表されました。


【今後の展開】
 今回、テラヘルツ波を用いた調査により、尾形光琳が屏風絵の制作に異なる技法を用いていたことが明らかになりました。このテラヘルツ波の技術は、非破壊非接触で、貴重な文化財の内部構造を可視化することが可能です。NICTは、今後も、国内外の機関とのコラボレーションにより、「八橋図屏風」以外にもこの技術を適用し、今まで明らかにされてこなかった文化財の歴史や価値を明らかにすることに貢献していきます。
 なお、今回の調査対象となった「八橋図屏風」の映像は、「けいはんな情報通信フェア2012(*5)」にて、“200インチ裸眼立体ディスプレイ(*6)”を用いて紹介します(図4)。


<用語解説>

*1:尾形光琳
 尾形光琳(1658−1716)は江戸時代を代表する、画家・工芸家である。京都の呉服商の家に生まれ、先人の俵屋宗達や本阿弥光悦の作品を学び、鮮やかな色彩と金箔を多用した装飾性の高い絵画や工芸品を創作した。弟の陶芸家、尾形乾山(1663−1743)とともに、琳派を代表する作家である。他の代表作に国宝八橋蒔絵螺鈿硯箱(東京国立博物館)、国宝紅白梅図(MOA美術館)がある。

*2:メトロポリタン美術館
 メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)は、米国ニューヨークにある世界最大級の私立の美術館で1870年に開館した。コレクターからの寄贈等により300万点以上を収蔵しており、コレクションの幅は考古資料、原始美術から近代美術に至るまでの絵画や彫刻の他、楽器・家具・写真の部門も充実している。また、科学部門を持ち、収蔵品の調査、新しい手法の開発等も行っている。
http://www.metmuseum.org/

*3:テラヘルツ波
 テラヘルツ波は、おおむね0.1THz〜10THz(テラヘルツ)の周波数帯の電磁波を示す。その波長は3mm〜30μmであり、電波と光の境界に位置する。テラヘルツは、1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012Hz)で、THzと記述する。
 テラヘルツ波は、紙・プラスティック・繊維等を透過し、また、多くの物質固有の吸収スペクトルがテラヘルツ領域にあるため、X線よりも安全な検査装置として、また、次世代の材料分光分析技術として注目されている。しかし、テラヘルツ波は、これまで未開拓周波数帯の電磁波と呼ばれ、光源やセンサといった要素技術の確立は、ほかの周波数帯の技術に比べて発展途上にあった。

*4:ナレッジキャピタル
 ビジネスパーソン、研究者、クリエイター、学生、子どもから大人まで幅広い生活者が参加して、未来を共創する複合施設。それぞれが持ち寄る「感性」と「技術」を融合させ、新たな知的価値を生み出すことを目的とし、2013年4月、大阪“うめきた”にオープン予定。
 http://www.kmo-jp.com/

*5:けいはんな情報通信フェア2012
 けいはんな学研都市の情報通信関連機関が協力し、情報通信技術の研究成果を発信するとともに、関係機関の相互連携の促進を目的とする地域に根ざしたイベント。

 ・開催日時:2012年11月8日(木)〜10日(土)
 ・開催場所:けいはんなプラザほか(京都府相楽郡精華町)
 ・詳細情報:http://www.nict.go.jp/univ-com/plan/fair/

*6:200インチ裸眼立体ディスプレイ
 特殊な眼鏡をかけずに、映像を立体的に見られるディスプレイ。等身大の人物や実寸大の車などの大型立体映像を、200インチサイズの大画面にハイビジョン画質で表示するため、多人数で映像を共有できる。


【過去の報道発表】
 2011年1月25日 http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h22/110125/110125.html

 「世界初「200インチの自然な裸眼立体表示技術」の開発に成功 〜特殊な眼鏡が不要な迫力ある大画面ハイビジョン立体映像を実現〜」


 ※補足資料は添付の関連資料を参照

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