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広島大とインテックなど、現場で簡便に利用できる高感度アスベスト計測技術を開発

2012-10-01

現場で簡便に利用できる高感度アスベスト計測技術の開発に成功


<ポイント>
 ・古い建物に残るアスベスト建材は、国内で4000万トンにのぼる。
 ・従来のアスベスト判定は数日から1週間かかり、作業現場での検出は困難。
 ・アスベストを検出する蛍光たんぱく質を利用。蛍光画像を自動解析し1時間程度で正確な判定が可能に。


 JST 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム(以下、本プログラム)の一環として、広島大学、株式会社インテックと有限会社シリコンバイオは、誰でも簡単に大気中のアスベストを測定可能とする技術を開発しました。
 アスベストは発がん性物質として2006年に法律で使用が全面禁止されましたが、それ以前は主に建材として広く利用されていました。そのため、建築物の一部として国内に現存するアスベスト建材の総量は、4,000万トンにのぼるといわれています。古い建物の解体現場などでは、作業者の安全と周辺環境のため、アスベストの飛散の有無を現場で簡便に計測する技術が求められています。
 従来のアスベスト検出法では、大気に含まれる塵などをフィルターで採取し、前処理を行って位相差顕微鏡で観察していましたが、アスベストとロックウールなどの他の繊維との区別が難しいなどの問題がありました。さらに、大気1リットル中に1本以上の繊維が検出される場合、個々の繊維がアスベストか否かを電子顕微鏡で判定する必要があり、数日から1週間程度の時間がかかっていました。
 広島大学とシリコンバイオ社では、特殊な蛍光たんぱく質注1)を利用してアスベストのみを蛍光顕微鏡で簡便かつ高感度にとらえるバイオ蛍光法を開発し、アスベスト検出キット「アスベスターAir」として2010年6月から販売を開始しました(本プログラムの要素技術タイプでの開発成果)。この成果により容易にアスベストを検出できるようになりましが、実際のアスベスト判定は蛍光画像を目視で行っていたため、計測者によってアスベスト判定結果に違いが生じるという問題がありました。
 開発チームは今回、熟練の計測者でなくてもルールに従ってアスベストを自動で計測できるソフトウエアを開発しました。バイオ蛍光法によるアスベスト検出キットと自動計測ソフトウエアを組み合わせれば、採取済みの大気試料から1時間程度のスピードで、誰でもアスベストの検出と判定を行うことができます。
 本成果は、2012年10月10日からパシフィコ横浜で開催される「BioJapan2012」で展示します。


 本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

 事業名:研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)ソフトウェア開発タイプ
 開発課題名:「バイオ蛍光法によるアスベスト自動計測ソフトウェアの開発」
 チームリーダー:黒田 章夫(広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授)
 開発期間:平成22〜24年度(予定)
 担当開発総括:吉井 淳治(株式会社CLOUDOH 代表取締役)

 JSTはこのプログラムのソフトウエア開発タイプで、先端的な計測分析機器の実用化並びに普及を促進するためのソフトウエア開発を行うことを目的としています。


<開発の背景と経緯>
 アスベストは、耐熱性、断熱性などの物理特性に優れた安価な建築材料として広く使用されてきました。しかし、悪性中皮腫や肺がんを引き起こすことが明らかとなり、2006年に全面使用禁止となりました。日本にはアスベストを含む建材が約4,000万トンあるとされ、今後これらの建材が使われた古い建物の解体のピークを迎えます。その際、アスベストの飛散がないかどうかを現場で調べ、もし飛散が認められた場合、適切な飛散抑制措置をとる必要があります。
 現状の大気アスベスト検出の方法としては、大気を濾過したフィルターを透明化し、位相差顕微鏡により観察する方法が用いられていますが、この方法はアスベスト、非アスベスト繊維の判定が困難です。そのため、1リットルの大気中に含まれる総繊維の数が1本以上の場合は、計測対象繊維の全てについて電子顕微鏡でアスベストか否かの判定を行うことが、公定法として定められています。しかし、電子顕微鏡で観察する場合には煩雑な前処理などが必要であることに加え、アスベストの判定には繊維一本ずつをエネルギー分散型X線分析装置注2)で分析する必要があります。現在のアスベスト判定の公定法は、多くの時間と熟練した作業者が求められます。さらに電子顕微鏡での観察が必須であるため、アスベスト飛散の可能性がある現場でのモニタリングには対応できません(図1)。現在の日本における主なアスベスト発生源は、解体現場などの短期的に移動する現場であるため、その状況に対応した新たな検出法が必要となっていました。
 広島大学では、細胞内たんぱく質ライブラリーの中からアスベストに特異的に結合するたんぱく質を発見し、このたんぱく質を蛍光物質で修飾することでアスベストに結合する蛍光たんぱく質を作製しました。さらに、この蛍光たんぱく質でフィルター上のアスベストを染色することで、発光させたアスベストを蛍光顕微鏡でとらえる方法(バイオ蛍光法)を開発しました(図2)。染色の操作は簡単で、フィルターに数滴の蛍光たんぱく質溶液を垂らすだけで前処理が完結します(図1、3)。このフィルターを蛍光顕微鏡で観察すると、アスベスト繊維が光って見えるため、約30ナノメートル(ナノは10億分の1)幅の非常に微細なアスベスト繊維が、低倍率でも明瞭に観察できました(図4)。2007年10月からは、JST 先端計測分析技術・機器開発プログラムの要素技術タイプの開発課題でバイオ蛍光法を用いたアスベスト検出キットの開発に成功し、2010年6月にシリコンバイオ社から製品名を「アスベスターAir」として販売しています。本キットを用いたアスベスト検出法は、2011年、環境省アスベストモニタリングマニュアル第4.0版に、解体現場などでのアスベスト迅速計測法として紹介されています。
 一方、アスベストの定義は、長さ5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以上、幅(直径)3マイクロメートル未満で、アスペクト比注3)が3以上の繊維と定められています。また、実際の計測時には、アスベスト繊維に粒子が付着している場合や、枝分かれしているような場合があり、それぞれ環境省が定めた「アスベスト計測ルール注4)」に従って判定しなければなりません。50から100に及ぶ視野(画像)に対して人の目による判定と計測を行うため、計測者によって大きなばらつきを生じていました。そこで、2010年10月からは本プログラムのソフトウエア開発タイプにおいて、広島大学、株式会社インテックと有限会社シリコンバイオが共同で、誰にでもルールに従ったアスベスト判定を可能にする自動計測ソフトウエアの開発を開始しました。


<開発の内容>
 すでに開発したプロトタイプ(バイオ蛍光法によるアスベスト検出キットと携帯可能なLED蛍光顕微鏡、画像取り込み用コンピューターを組み合わせたもの)は、アスベスト繊維の形態と物性の両方をとらえることができ、これまで電子顕微鏡でしか見えなかった微細な繊維を「低倍率」で観察したり、画像を取得することができます(平成24年度文部科学大臣表彰、科学技術賞開発部門受賞)(図5)。
 実際のサンプルでは、粒子の付着や、交差、絡まり、湾曲などさまざまな状態の繊維が存在します。開発チームでは、それらに対して環境省が定めた「アスベスト計測ルール」に従って処理するための機能と、撮影条件やサンプルの違いにより生じる蛍光画像の輝度ムラや繊維輝度の違いを補正するための輝度補正機能を開発しました。さらに、蛍光を発する粒子状物質が存在する場合もあるため、粒子領域のマスク処理(粒子領域の切り取り)や、粒子領域ごとに局所的な輝度の再補正を行うことによって、正確に繊維認識が行えるような仕組みを備えました。その結果、従来のアスベスト計測法よりはるかに簡便な操作で、相関の高い結果が得られることから、迅速なアスベスト検査法として本ソフトウエアの有効性が確認できました(図6)。開発チームでは現在、さらに認識精度を向上させるとともに、より利便性の高いソフトとなるように開発を進めています。

 ソフトウエアを搭載したプロトタイプは、パシフィコ横浜で開催される「BioJapan2012」(10月10〜12日)で展示します。


<今後の展開>
 これまでのアスベスト検査では、電子顕微鏡による同定まで含めると、数日から1週間と非常に時間がかかっていました。また、従来の検査法は熟練を要するため、検査機関や測定者間で検査時間や検査結果に大きなばらつきが生じていました。バイオ蛍光法では、アスベストを特異的に見分けるたんぱく質を利用しているため、従来は電子顕微鏡X線分析で行っていたアスベスト識別の操作が不要となります。また、複雑な「アスベスト計測ルール」はソフトウエアに組み込まれているので、初心者でも熟練者と同じようにアスベスト検査を行うことができるようになりました。しかも本開発技術を用いれば、特殊な設備を必要とせず、採取された試料のアスベスト検出から判定までを1時間程度という短時間で行うことができるため、どのような現場でもアスベスト検出が可能となります。
 今回開発したアスベスト自動計測ソフトウエアは2013年2月に販売開始予定です。現在販売中のアスベスト測定検出キット「アスベスターAir」と組み合わせることで、アスベストの発生が疑われるような現場でも、簡易かつ迅速な大気アスベストの検査を可能にします。今後、自治体による立入検査や、アスベスト関連解体工事現場をはじめ、東日本大震災のがれき処理に利用できれば、より安全に作業を進めることが可能になると期待されます。


※参考図・用語説明などは、添付の関連資料「参考資料」を参照

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