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JSTと東北大、バイオテンプレート極限加工で高密度の量子ドットを作成し発光に成功

2012-08-22

バイオテンプレート極限加工により損傷がなく10倍高密度の量子ドットを作製して、発光に成功
−高速通信用量子ドットレーザーの実現に前進−


<ポイント>
 >従来の自己組織的な結晶成長では量子ドットサイズや密度の制御が困難。
 >画期的な加工技術を開発して、高密度で配置・サイズ制御された無欠陥量子ドットを実現。


 JST 課題達成型基礎研究の一環として、東北大学 流体科学研究所(兼 原子分子材料科学高等研究機構)の寒川 誠二 教授らは、トップダウン加工でガリウムヒ素の高密度・無欠陥の量子ドット(注1)を作製し、その量子ドットからの直接発光を確認しました。

 量子ドットは、ナノメートル(nm:10億分の1m)の微小な半導体のことで、この半導体ナノ構造を用いた量子ドットレーザーは、温度による影響が少なく低消費電力などの特長を持つことから、従来の半導体レーザーを凌駕するものとして注目されています。しかし、これまでの光リソグラフィーとプラズマエッチングを用いたトップダウンの加工技術では、ナノメートルオーダーの加工は難しく、また、量子ドット表面に欠陥が多量に生成し、発光効率が著しく劣化するという問題点がありました。そこで、この損傷を回避するために自己組織的な結晶成長による量子ドット作製法が開発されましたが、材料が限定され、サイズ、位置などの制御も難しく、また、形成される量子ドットの密度が低いため、量子ドットレーザーが本来持つ高効率な発光強度を多様な波長で実現することが困難でした。

 本研究チームはこれまで、たんぱく質を用いて配置させた金属微粒子を加工マスク(バイオテンプレート(注2))として、中性粒子ビーム(注3)を用いた無損傷エッチングにより、高密度・無欠陥のガリウムヒ素の量子ドットを作ることに成功していました。今回、そのガリウムヒ素量子ドット上に、アルミニウムガリウムヒ素を界面制御して結晶成長させることにより、量子ドット側壁表面を補修して活性層を作製し、トップダウンで加工した量子ドットが発光することを初めて確認しました。

 本研究により作製されたガリウムヒ素量子ドットは、自己組織的な結晶成長により形成された従来の量子ドットに比べて10倍以上の高密度な量子ドットを簡易に配置制御して形成できるため、量子ドットレーザー構造として画期的なものです。理論的には、従来に比べて10倍以上のレーザー光強度と単色化やフレキシブルな材料選択による波長制御が実現でき、高速通信用レーザーとして大いに期待されます。究極のグリーンテクノロジーとして期待される高効率・量子ドットレーザーの実現に向けて前進したといえます。

 本研究成果は、2012年8月20日〜23日まで英国・バーミンガムで開催されるナノテクノロジー分野の最高峰の1つである「IEEE International Conference on nanotechnology 2012」で発表されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

  研究領域:「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
         (研究総括:曽根 純一 物質・材料研究機構 理事)
 研究課題名:「バイオテンプレート極限加工による3次元量子構造の制御と新機能発現」
 研究者   :寒川 誠二(東北大学 流体科学研究所 教授)
 研究期間 :平成21年10月〜平成27年3月

 JSTはこの領域で、フォトリソグラフィなどのトップダウンプロセスと自己組織化に代表されるボトムアッププロセスの高度化と統合化を進めることによって、革新的な機能を発現する次世代ナノシステムを創製することを目標としています。上記研究課題では、超低損傷中性粒子ビームエッチングと、球穀状たんぱく質を用いた高密度ナノテンプレート配置技術を組み合わせることで、超高効率量子ドットレーザーおよび超高効率量子ドット太陽電池の実現を目指します。


<研究の背景と経緯>
 化合物半導体を用いた量子ドットレーザーは効率の良い低消費電力レーザー素子として、また超高速光スイッチとして、飛躍的に高まる通信需要に応えユビキタス情報化社会を支える重要な技術であり、広く研究されてきています。このデバイスを実現するにはナノメートルオーダーでサイズや密度、位置などの制御された構造を作製することが求められますが、従来のトップダウンリソグラフィー技術とエッチング技術に依存した微細加工技術では大きな困難が予想されます。現状のリソグラフィー技術では光源やレンズ系の設計において22nmよりも微細なパターン形成することは技術的・経済的に大きな壁があります。また、プラズマエッチングでは、ナノメートルスケールの構造形成においてはプラズマからの紫外線照射による表面欠陥生成が大きな問題となっています(プラズマダメージ(注4))。特に化合物半導体はシリコンに比べて不安定な材料でプラズマに対して脆弱であるため、プラズマエッチングによる欠陥のないナノ構造作製は不可能であるといわれています。一方、ボトムアップによる量子ドットを形成する手法としては、格子歪みを利用したStranski−Krastanow(S−K)成長モード(注5)による自己形成量子ドット作製法が一般的ですが、この手法では、(1)寸法のばらつきを十分に抑えることができない、(2)ドットの密度に限界(10の9乗〜10の10乗cmの−2乗)がある、(3)サイズに制限がある(数10nm程度)、(4)材料を自由に選択することができない、(5)歪みに伴う格子欠陥が不可避であるなどの問題があります(図1)。そのため、十分な性能の量子ドットレーザーの実現には、良好な量子効果(注6)を持つ欠陥の無い高密度ナノ構造を再現性よく作製可能なトップダウン加工技術の確立が急務となっています。

 現在、その最有力な手法として、ボトムアップ技術とトップダウン加工技術の融合(プロセスインテグレーション)が注目され、多くの提案がされています。ボトムアップ技術の中でも、バイオテクノロジーは極めて急速に進歩しており、奈良先端技術大学院大学の山下 一郎 教授らは遺伝子操作により改質されたフェリチン変異体などを用いてナノサイズの金属を内包したたんぱく質を作製し、それらの自己組織化によるナノ構造作製を実現しています。一方、トップダウン加工技術では、プラズマから放射される電荷や紫外線を抑制し、超低損傷で高精度のエッチングを可能とする中性粒子ビーム技術(図2)を世界で初めて東北大学の寒川教授らが開発し、その効果を最先端超LSIで実証しています。


<研究の内容>
 今回、寒川教授は、山下教授によるたんぱく質+金属複合体(バイオコンジュゲート)の自己組織化による均一・高面内密度・高均一加工マスク(バイオテンプレート)を用いてガリウムヒ素の中性粒子ビーム無欠陥エッチング技術により作製された高密度・配置制御・ガリウムヒ素量子ドット構造(図1)に、東京大学 岡田 至崇 教授の結晶界面構造制御技術によりアルミニウムガリウムヒ素を界面制御してエピタキシャル成長(注7)することで、トップダウンで加工した量子ドットの極表面に存在するダングリングボンド(注8)(未結合手)を補修して活性層を形成し、初めて発光を観察しました。

 今回のガリウムヒ素量子ドットの作製プロセスは、次の通りです。

 金属微粒子を内包したたんぱく質が、特殊な処理をした表面に自発的に規則正しく配列した構造を作る性質を用いて、金属微粒子を内包したたんぱく質を約20nm程度の間隔でガリウムヒ素の基板上に高密度(10の11乗cm−2乗以上)に等間隔に配置しました(図3、図4)。その後、たんぱく質だけを除去して7nm径の均一な金属微粒子を加工マスクとして中性粒子ビームによる無損傷エッチングを行うことにより、室温にて量子効果を示す厚さ数nm、直径を10〜20nmに制御した円板構造を、無欠陥、高密度、等間隔(約20nm)で制御して配置しました(図5左)。この加工した円板構造表面に残留するダングリングボンド(未結合手)を、結晶界面構造制御技術を用いたアルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)エピタキシャル成長により原子レベルで補修して埋め込むことでガリウムヒ素量子ドット構造による活性層を形成しました(図5右)。この活性層構造において、北海道大学 村山 明宏 教授グループのレーザー分光技術により形成した量子ドットからの強い発光を初めて確認しました(図6)。

 本量子ドット作製手法を用いることで、フレキシブルな材料による量子ドット構造を無欠陥で高密度に配置できることから、従来の量子ドットレーザーに比べて10倍以上高強度で広範囲な波長によるレーザー発振が期待できる画期的な研究成果といえます。


<今後の展開>
 これらの結果を基に、今回作製した活性層上にクラッド層(注9)および電極層を積層して実際に量子ドットレーザーを試作し、従来に比べて発光効率が高く単色化されたレーザー発振を実現する予定です。この構造を用いることで理論的には、従来に比べて10倍以上のレーザー光強度と単色化が実現でき、また、材料を選択することで広範囲な発振波長が実現できる高速通信用レーザーとして大いに期待されます。


 ※参考図、用語解説は添付の関連資料を参照



<論文名>
 “High−density and Sub−20−nm GaAs Nanodisk Array Fabricated Using Neutral Beam Etching Process for High Performance QD Devices”
(中性粒子ビームによる高密度Sub−20nmガリウムヒ素ナノ円板アレイ構造の作製)

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