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富士通研究所、テレビ映像から携帯電話でURLなどの情報が取得できる通信技術を開発
テレビ映像を携帯電話で撮影するだけで情報の取得を可能にする新しい通信技術を開発
テレビコマーシャルなどから簡単にURLなどの情報を取得可能に
株式会社富士通研究所(注1)は、映像を媒介した新たな情報通信技術を開発しました。テレビやデジタルサイネージ(注2)の映像の中に、人間の目にはわからない通信情報を埋め込むことで、従来は困難であった映像と携帯電話間での通信を実現しました。従来技術では、受信用の専用機器が必要であったり、ノイズを映像に埋め込むために画質が劣化するという課題がありました。本技術により、たとえば広告主があらかじめテレビのコマーシャル(以下、CM)に情報を埋め込んでおき、視聴者がテレビ画面を携帯電話で撮影するだけで、CMに関連したクーポンやサイトのURLなどの情報を取得することができます。その他、電子商取引、放送と通信の融合、秘匿通信など幅広い分野での利用が期待されます。
<開発の背景>
近年、ネットワークの高速化やデジタルサイネージの普及などにより、さまざまな場所で映像を目にする機会が増えてきています。しかし、そのほとんどは視聴者に向けて一方的に流されているだけで、画面に映っている映像に関連した情報を直接受け取る手段はなく、視聴者はテレビやデジタルサイネージで映像を視た後にインターネットでその映像に関連した情報を自らキーワードなどを入力し検索しているのが現状です(図1)。
※図1 現状の課題は添付の関連資料を参照
一方、多くの人は携帯電話を日常的に持ち歩いており、携帯電話に情報を集めることによっていつでもどこでもその情報を利用することができる環境にあります。そこで、自宅のテレビや街中のデジタルサイネージなど、さまざまなディスプレイに表示される映像を媒介して、携帯電話に情報を直接送る新しい通信技術を開発することで、映像と携帯電話を連携させた新たな仕組みを提案します(図2)。たとえば、テレビやデジタルサイネージで気になったCMを視聴者が携帯電話で撮影すると、映像に埋め込まれた情報にもとづきCMに関連したクーポンを携帯電話に取得することができ、取得したクーポンを店舗で提示することで割引サービスなどを受けることができます。また、買い物番組でほしい商品が表示されているときに画面を携帯電話で撮影すると、商品購入するステップに早く進むことができます。デジタルサイネージで表示している映像に関連した情報を取得することもできます。海外の映像が表示されているときに撮影すると旅行の予約の関連情報を入手できたり、周辺にある店舗の案内図を撮影すると店舗情報が取得できます。
※図2 映像と携帯電話との通信による新しいサービスの例は添付の関連資料を参照
<課題>
映像と携帯電話との通信をテレビやデジタルサイネージへ適用する場合、二つの要件を満たす必要があります。一つは「映像の画質に与える影響が小さいこと」であり、もう一つは「.離れた距離でも情報を受信できること」です。映像と携帯電話を連携させるには四つの従来技術がありますが、それぞれ以下の課題があります。
・可視光通信
光の点滅で、0、1の情報を送信する技術です。光が届く範囲であれば情報を送信できるため、通信距離が数十m程度と長い点が特徴です。しかし、映像に情報を埋め込む(多重化)ことができず、また、数メガヘルツ(MHz)の高速な点滅を受信するためには特殊な受信装置が必要になるため、映像読み取り頻度(フレームレート)が毎秒30フレーム(fps)の携帯電話のカメラでは受信できません。
・電子透かし
映像にノイズを加えて、0、1の情報を送信する技術です。しかし、ノイズを映像に埋め込むために画質が劣化するという課題があります。
・無線LAN
無線LAN経由でテレビやデジタルサイネージの端末から情報を携帯電話に配信する技術です。映像を表示する端末と携帯電話を接続するための認証設定が複雑であるため、導入にはある程度の専門知識が必要という課題があります。
・QRコード
画面の一部にQRコードを表示して、それを携帯電話で読み取ることで情報の送受信を行います。画面内に映像とは別にQRコードを表示する場所が必要であり、画面にカメラを近づけないと読み取れないという課題があります。
<開発した技術>
開発した技術は、可視光通信と電子透かしの両方の特徴と利点を兼ね備えた新しい通信技術です。映像に微小な灯りを埋め込み、その微小な灯りの数を増減することにより光通信のような明暗を緩やかに発生させ、情報を送信します。一つ一つの灯りの明るさは人間の目には認識できない程度ですが、これらの数が変わることによって、実際には一つ一つの灯りの総和は大きく変化しています。しかし、時間をかけて徐々に変化させることで急激な明るさの変化を抑えているため、人間の目には知覚できません(図3)。
※図3 開発した技術の原理は添付の関連資料を参照
人間は画像の一部が急激に変化した場合はすぐに気がつきます。その一方で徐々に時間をかけて変化をさせた場合は気がつきにくく、開発技術はこの原理を明るさの明暗に応用することで画質の劣化を抑制しています(図4)。
※図4 人間の目に知覚されにくくなる仕組みは添付の関連資料を参照
情報を携帯電話に送るためには、明暗のタイミングの異なる2種類の波を用意し、送りたい情報に応じて切り替えながら発信します(図5)。2種類の波の一方が0、もう一方が1を表しており、たとえば通信する情報が「0110」であれば図5のように2つの波を切り替えます。携帯電話側では、撮影した映像から画面の明るさの変化を抽出し、2種類の波が発信されている順番を判定することで情報を読み取ります。1秒で16bitの情報を送ることができ、2〜3秒程度の撮影で受信可能です。
※図5 2種類の波で情報を送受信は添付の関連資料を参照
画面全体の明暗が人間の目には気づかれにくいため、明暗の変化を大きくすることができます。明暗の変化を大きくすると、より遠い場所から撮影しても検知できるため、たとえば、テレビを視聴中に気になるCMを見つけた時に、テレビ画面に近づくことなく、携帯電話のカメラをテレビ画面に向けることによって情報を受信できます(図6)。
※図6 リビングでテレビからクーポンを受信する様子は添付の関連資料を参照
表1は開発技術と従来技術の比較をまとめたものです。開発技術は、(1)専用の受信装置が不要で既存の携帯電話で利用可能、(2)画質劣化が少ない、(3)難しい設定が不要、(4)離れた距離でも読み取れる、といった特徴を兼ね備えています。
※表1 開発方式と従来方式の比較は添付の関連資料を参照
<効果>
本技術により、広告事業者は(1)自社ホームページURLへの誘導、(2)クーポンによる集客、(3)CM効果の測定、(4)イベントに連動した新サービスなどを実現でき、一方、視聴者には(1)簡単に映像に連動したホームページにアクセス可能、(2)映像の視聴をゲーム感覚で楽しめる、(3)ほしいものが携帯をかざすだけで購入できるといったメリットがあります。その他、電子商取引、放送と通信の融合、秘匿通信など幅広い分野での利用が期待されます。
<今後>
今後は、テレビ映像から携帯電話へ配信する通信速度を改善し、2013年度中の実用化を目指します。
<商標について>
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
「注釈」
注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 デジタルサイネージ(Digital Signage):
電子的な表示装置を用いて、情報を発信するシステム。