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広島大と産総研、ルテニウム酸化物の超伝導電子対を形成するための「のり」の強さと成分を解明
超伝導のメカニズム解明に大きな手がかり
−ルテニウム酸化物の電子の運動状態を選択的に可視化することに成功! 電子対を形成する「のり」の起源を初めて解明−
ポイント
●直線偏光放射光を活用した高分解能角度分解光電子分光により、電子の運動状態を選択的に可視化
●ルテニウム酸化物の超伝導電子対を形成するための「のり」の強さと成分を初めて解明
●超伝導電子対の「のり」の起源として、結晶の原子の振動が関与していることを強く示唆
■概要
国立大学法人 広島大学【学長 浅原利正】放射光科学研究センター【センター長 谷口雅樹】(以下「HiSOR」という)の岩澤英明特任助教、島田賢也教授、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口有】(以下「産総研」という)エレクトロニクス研究部門【研究部門長 金丸正剛】機能性酸化物グループの相浦義弘主任研究員を中心とする共同研究グループは、放射光の直線偏光特性を活用するため、放射光の光軸のまわりに回転可能な高分解能角度分解光電子分光装置を開発し、ルテニウム酸化物超伝導体の超伝導機構解明に重要な手がかりをつかみました。
超伝導は低温で物質の電気抵抗が完全にゼロになる物理現象であり、実用的にもリニアモーターカーや医療用核磁気共鳴画像装置(MRI)などで利用されています。1994年に日本で発見されたルテニウム酸化物超伝導体はユニークな超伝導状態を示し、世界の注目を集めてきました。これまで数多くの研究が行われてきましたが、いまだにその超伝導のメカニズムは謎に包まれたままです。超伝導が生じるためには、電子と電子を「のり」で結びつけ、「電子対」にする必要があります。本来、反発しあう電子と電子を結びつける「のり」の正体が何かを明らかにすることは、超伝導がどのようにして生じるのかを理解するうえで大変重要です。ところがルテニウム酸化物超伝導体には超伝導を担っている電子に複数の運動状態があるため、従来の実験手法では電子対の形成に必要な「のり」の正体を調べることが極めて困難でした。
研究グループが開発した新装置を用いると、ルテニウム酸化物超伝導体の異なる運動状態にある電子を選択的に分離しながら、精密に分析することが初めて可能となりました。その結果、この物質の電子対を形成するための「のり」として、結晶を作っている原子の振動が重要な役割を果たしていること、さらに、その「のり」がどのくらい強く働いているのかを初めて明らかにしました。
本研究成果は、米国物理学会誌(Physical Review Letters)にて、11月19日(米国東部時間)出版予定であり、オンライン電子版に11月16日(米国東部時間)に公開される予定です。
※参考画像・リリース詳細は、添付の関連資料を参照