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JSTなど、脳の低酸素状態の防御機構に生体ガス分子が関係することを発見

2012-01-14

脳の低酸素状態の防御機構に生体ガス分子が関係
脳梗塞など脳虚血病態の制御法開発へ道−


 JST 課題達成型基礎研究の一環として、慶應義塾大学 医学部の末松 誠 教授と、梶村 眞弓 専任講師らのグループは、マウスの脳内で生成されている一酸化炭素(CO)が、脳梗塞などの低酸素時の脳血管拡張反応と脳のエネルギー代謝の維持に重要な働きをしていることを発見しました。

 私たちの体の中では、さまざまなガスが作られており、血流を増やしたり、炎症を抑えたりと生体内で重要な働きをしています。これらのガスは「ガスメディエータ」と呼ばれ、一酸化窒素(NO)やCO、硫化水素(H2S)が代表分子です。脳や肝臓は、COを最も多く生成する臓器ですが、脳で生成される大量のCOの生理的な役割は不明でした。

 今回の研究では、COと結合するたんぱく質として「シスタチオニンβ合成酵素(CBS)注1)」に着目し、マウスを用いてCOやH2Sの量の変化と連動して、血管の口径や、脳のエネルギー代謝がどのように変化するかを検証しました。その結果、脳では、CBSが血管拡張作用のあるガス分子H2Sを生成しており、正常時の脳では、COがCBSの働きを阻害してH2Sの量を抑えているため、血管が少し収縮した状態にあることが分かりました。そして、低酸素時にはCO濃度が低下し、CBSへの抑制が解除され、H2Sが増加することによって血管が拡張することを明らかにしました。さらに、COを生成する酵素のないマウスでは、低酸素時に脳の微小血管がうまく拡張しないため、脳のエネルギー代謝の要になるアデノシン3リン酸ATP)注2)の維持ができなくなることが、質量顕微鏡の技術によりエネルギー代謝物の分布と局所濃度を測定することで分かりました。このことから、COは、急激な酸素(O2)の供給低下にうまく対応できるように、血管拡張性や脳のエネルギー産生の「予備能」(正常時は少し抑え気味、しかし、一度ピンチになった時は、より効果的に血流を増加させたり、エネルギーを産生したりする能力)を与えるガスメディエータであることが明らかになりました。

 今回の「O2濃度が低下するとCO濃度が低下し、さらにH2S濃度が増加して、血管が拡張する」という情報伝達経路の発見は、低酸素時のリスクマネジメントを、複数のガス分子が代謝システムを精妙に制御することによって実行している証明となります。さらにこの発見は、脳梗塞などの病態の制御や、治療の開発へとつながると期待されます。

 本研究は、慶應義塾大学 医学部と米国のジョンズ・ホプキンス大学との共同研究で行われ、本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で2012年1月9日の週(米国東部時間)に公開されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域によって得られました。

 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
 研究プロジェクト:「末松ガスバイオロジープロジェクト」
 研究総括:末松 誠(慶應義塾大学 医学部 医化学研究室 教授)
 研究実施期間:平成21年10月〜平成27年3月

 JSTはこのプロジェクトで、生体内にあるガス分子がどのようなメカニズムで生理的な役割をもつのかを解明し、病気の治療に役立てることを目指しています。


 ※以下、研究の詳細は添付の関連資料を参照

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