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東大、南太平洋でのウナギ属魚類の産卵・回遊生態と資源変動メカニズム解明へ海洋調査開始
南太平洋におけるウナギ属魚類の産卵・回遊生態と資源変動メカニズムの解明へ
〜学術研究船白鳳丸による大規模海洋調査の開始〜
■発表のポイント
◆世界に生息するウナギ属魚類のうち7種が分布する南太平洋において、各種仔魚(レプトセファルス、注1)の分布を把握し、それぞれの回遊経路を明らかにする。
◆南太平洋、および北西太平洋、ミクロネシアの広大な海域(北緯17度〜南緯25度、東経137度〜西経140度)において行われるウナギ属魚類の大規模海洋調査はこれまでに例が無く、海洋調査における歴史的航海になるものと期待される。
◆本航海で得られる科学的知見は、ウナギ属の資源管理と保全に役立てられる。また、ウナギの完全養殖技術の開発研究にも重要な基礎情報を供給することが期待される。
■発表概要:
2016年7月11日から10月4日の86日間、南太平洋およびミクロネシアにおけるウナギ属魚類の産卵・回遊生態ならびに海洋環境の解明を目的に、学術研究船白鳳丸(注2、図1)による大規模海洋調査を実施する。また、体サイズ、日齢、海流データを総合解析して産卵場を特定する。さらには、地球温暖化が海洋生態系に及ぼす影響に関して海洋環境の基礎データを集積する。
この広大な海域で、計画的なグリッド調査(注3、図2)を大規模に実施することは前例がない。なお、本研究航海は日本、フランス、ニューカレドニア、フィジー、タヒチ、オーストリア、ニュージーランド、アメリカ、台湾の計9カ国/地域の研究者からなる国際研究チームで実施される総合的、学際的な国際共同研究である。本研究航海において国際的な共同研究体制を構築することにより研究者間の連携が強化され、今後国際資源である各種ウナギの保全・管理を進める際に大いに貢献するものと期待される。またウナギ産卵地点探索の新機軸として、仔魚の地理的分布を効率的に把握するための環境DNA法(注4)やウナギ仔魚の餌開発に役立つ安定同位体比(注5)を用いた食物網の解析法などの先端的研究手法を導入する。
本航海により、南太平洋に生息するウナギ属魚類の卵や仔魚が採集され、未だ明らかにされていない各種の産卵場の発見や回遊経路の特定など新知見が得られることや、ウナギ属の生態および資源に関する研究が飛躍的に進展することが期待される。
■発表内容:
近年、東アジアに分布するニホンウナギについては天然受精卵や産卵親魚が採集され(図3)、西部北太平洋における本種の産卵生態に関する知見は急速に蓄積されつつある。これらの成果は、ウナギの資源管理や完全養殖(注6)の技術開発に役立てられている。こうした日本における40年以上にもおよぶ学術研究船を中心とする調査航海から得られた成果は、IUCN(注7)の絶滅危惧種に指定された北大西洋のヨーロッパウナギやアメリカウナギが分布する欧米諸国からも大いに注目されている。ヨーロッパウナギについてはすでに国際商取引を規制するワシントン条約の付属書IIに記載されているが、地球規模のウナギ資源の激減は、乱獲や生息環境の破壊といった人為的影響だけでなく、全球的な気候変動や海洋構造の変化による影響も大きいとみられており、その生態研究の進展が大いに期待されているところである。
一方、地球上に生息するウナギ属魚類全19種・亜種のうち7種が分布(図4)する南太平洋においても、ウナギ資源の減少が危惧されている(図5)。しかしながら、南太平洋外洋域におけるウナギの産卵・回遊生態に関する研究は極めて少なく、特に南太平洋中央部の島嶼域ではこれまで調査が行われたことはない。したがって、南太平洋の熱帯ウナギの産卵・回遊生態についての知見は、皆無といってよい。そのため、南太平洋に分布するウナギ属については、資源の評価さえできない種が多く、これらの基本的な生態情報の収集が緊急の課題となっている。
本研究航海により、南太平洋で空間的・時間的に広く網羅する大規模な海洋学的調査を国際研究チームが一致団結して実施し、ウナギ属魚類の産卵生態と回遊生態を明らかにすると同時に海洋環境に関する情報を計画的に集積することができれば、これらの成果は南半球の熱帯ウナギの資源管理と保全に貢献するだけでなく、ウナギ属魚類全般の資源変動メカニズムの解明にも大いに資するものと期待される。
■用語解説:
注1 レプトセファルス:ウナギの仲間の幼生(仔魚)。透明で扁平な柳の葉状の特異な形態をしている(図3右)。
注2 学術研究船「白鳳丸」:海洋研究開発機構が保有・運航し、文部科学省の共同利用・研究拠点である大気海洋研究拠点(東京大学大気海洋研究所)が全国の研究者の共同利用・共同研究に提供する研究船で、1989年に建造されて以来、2016年3月までに125航海、5628日、5069名の研究者による乗船研究が行われ、数々の優れた研究成果が得られてきている。
注3 グリッド調査:海域に調査測点を碁盤の目状に配置し、全ての測点において同じ方法で調査する科学的・計画的調査法。
注4 環境DNA法:環境中に存在する生物のDNAを増幅してその環境に分布する生物種を明らかにする新しい研究手法。
注5 安定同位体:放射線を出さず、自発的には他の核種に変化しない同位体。餌生物の同位体比との間に一定の関係があることから、体組織の同位体比から餌生物、あるいはその生物の栄養段階を推定することができる。
注6 完全養殖:人為的に成熟させた親から採った受精卵より稚魚を得て、これを育てて次世代の子を得る養殖サイクル。
注7 IUCN:国際自然保護連合。International Union for the Conservation of Nature and Natural Resourcesの略。
■添付資料:
※図1〜5は添付の関連資料を参照