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島根大など、ディジタルホログラフィを用いた非接触乾燥硬化評価装置を製品化

2016-06-21

塗料の乾燥硬化過程の定量的評価と可視化を実現
〜ディジタルホログラフィを用いた非接触乾燥硬化評価装置の製品化に成功〜


<ポイント>
 ・塗料の乾燥や硬化過程を「非接触」かつ「定量的」に評価する装置を製品化
 ・平面だけでなく立体面に対する測定や、乾燥度分布の可視化もほぼ実時間で実現
 ・塗料に加えて、接着剤やインクなどの乾燥硬化過程の評価も可能


 株式会社東洋精機製作所(本社:東京都北区 代表取締役社長 秋山 秀雄 以下、東洋精機製作所)、島根大学(学長 服部 泰直)は、科学技術振興機構(理事長 濱口 道成)の研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)による研究開発成果を元に、ディジタルホログラフィ(注1)を応用し、塗料の乾燥硬化過程を非接触かつ定量的に評価する装置「商品名:キュアテスタ」の開発と製品化に成功しました。
 本製品の原理として、塗料面にレーザ光を照射し、反射光を参照光と干渉させたホログラム(干渉縞)として逐次記録します。逐次ホログラムを記録して得られた塗膜の再生像において、位相の変化を解析することで、塗料の乾燥硬化過程を評価します。従来のスペックルパターン(注2)を用いた技術では難しかった、立体面(奥行きのある3次元物体)に対する測定や、乾燥度の分布の可視化も実現しました。塗料だけでなく、接着剤やインクなどの乾燥硬化過程の評価も可能です。東洋精機製作所は、平成28年6月15日から本製品の販売を開始します。また、平成28年9月14日〜16日にパシフィコ横浜で開催される「最先端光技術の国際展InterOpto2016」でも製品の展示を行う予定です。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  事業名:研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)
●探索タイプ
 開発課題名:ディジタルホログラフィーを用いた塗料乾燥評価装置の開発
 研究代表者:島根大学 大学院総合理工学研究科 横田 正幸 教授
 コーディネータ:島根大学 産学連携センター 丹生 晃隆 准教授
 研究開発期間:平成23年12月〜平成24年7月
●シーズ顕在化タイプ
 開発課題名:ディジタルホログラフィによる乾燥・硬化評価装置の開発
 研究代表者:島根大学 大学院総合理工学研究科 横田 正幸 教授
 参画企業:株式会社東洋精機製作所
 研究開発期間:平成25年9月〜平成26年8月

 A−STEPは大学・公的研究機関等で生まれた国民経済上重要な科学技術に関する研究成果を基にした実用化を目指す研究開発フェーズを対象とした技術移転支援プログラムです。


<本製品の概要>
 本製品は、ディジタルホログラフィを応用し、塗料の乾燥硬化過程を非接触かつ定量的に評価し、乾燥分布を可視化する装置です(図1)。レーザ・ダイオード(LD)から照射されたレーザ光は、ビームスプリッタ(BS)によって光路が分けられ、記録する物体(サンプル)に照射された反射光と、偏光子(P)(注4)とPZT鏡(注5)を介した参照光がつくられます。これらを干渉させて出来る干渉縞(ホログラム)をCCDで記録し、記録したホログラムを数値計算(回折積分)すると物体像が3次元で再生できます。
 本製品では、2.0秒間の塗膜変化を位相変化量として捉えて画像化し、各時点での乾燥状態を調べることができます。図2は、40×40mm2の銅板上に水性クリア塗料を刷毛で塗布したものを評価対象とした実験結果です。測定開始直後に得られた再生像の強度画像(注6)(左図)と、開始直後の再生像の位相分布と2秒後に得られた再生像の位相分布との差である位相差画像Δφ(右図)を示しています。強度画像は写真と同様に塗膜の像を表し、位相差画像は塗膜の変位や変形を表します。また、位相差画像において白く明るい部分は変化の大きい部分を表し、全体としては塗膜の変位や変形の分布を表しています。これが乾燥中に変化を知る鍵となります。図3は、測定終了後に2.0秒間隔での位相変化Δφから計算した標準偏差σの時間変化を示したものです。このσの値の変化より、値が収束する、すなわち表面の変位・変形が収まる時間が分かります。この結果から、400秒後には、塗膜はほぼ半硬化乾燥(注7)に至っていると評価できます。
 本製品によって、塗料やインクなどの開発だけでなく、塗装や乾燥を必要とする製造ラインに、さらなるイノベーションを起こす可能性があります。秒単位で乾燥状態の管理が可能になることによる製造ラインの効率化、また、達成すべき塗装状態から逆算した必要な塗料の量や、乾燥時間の設定も可能になります。さらには、光硬化型の接着剤の硬化過程評価や、インクドットなどの乾燥・硬化解析からプリンタブルエレクトロニクスへの応用も期待されます。


<本製品の仕様等>

●主な仕様
 測定原理:位相シフトディジタルホログラフィ法
 測定範囲:φ20mm
 測定間隔:2秒/回
 カメラ:白黒 1280×960画素 30fps 画素サイズ3.75×3.75μm 接続:USB3.0
 レーザ:波長:650nm 最大出力30mW クラス3B
 画像処理:専用GPU基板によりソフトウエアにて演算
 パソコン:デスクトップパソコン、専用GPU基板、モニタ:21インチ以上
 電源:AC100V 50/60Hz 5A(PCを除く)
 本体寸法:本体:488×300×160mm
 質量:約10kg

●販売開始日 平成28年6月15日

●製品価格(税別) 6,500,000円


<参考図>

 ※図1〜図3は添付の関連資料を参照


<参考文献>
 1.M.Yokota,T.Adachi and I.Yamaguchi,“Monitoring and evaluation of drying of paint by using phase−shifting digital holography,”Optical Engineering,49(1),015801(February 01,2010).
 2.丹生 晃隆・石倉 賢・横田 正幸・小林 幸一:「産学連携による塗料乾燥評価装置の研究開発」、産学連携学会第13回大会講演予稿集、pp.68−69、2015。


<用語解説>

注1)ディジタルホログラフィ
 レーザ光を2光路に分けて、記録する物体からの反射光と鏡で反射させた参照光を作る。参照光の波面(等位相面)は既知のものを用いるので、通常は鏡で反射させた平面波を用いる。これを干渉させて出来る干渉縞をCCDで記録する。記録した干渉縞(ホログラム)を数値計算(回折積分)すると物体像が3次元で再生できる。従来はホログラムの記録には写真乾板を用いていたが、ディジタル化することで、数値データとして取り扱うことが可能となる。ホログラムを一度記録すれば、その再生計算時に焦点距離を変えるだけで別々の奥行における結果が得られるため、レンズや光学系の調整は不要である。

注2)スペックルパターン
 粗面に対してレーザ光を照射すると、粗面で散乱された光がランダムな位相関係で干渉して粒状のパターンを形成する。これをスペックルパターンと呼び、表面の変形前後で記録されたスペックルパターンからその変形を得ることができる。スペックルパターンを用いた塗装乾燥硬化評価では、表面の可視化のためにはレンズによる結像系が必要であり、3次元の物体では、焦点深度の問題からレンズの走査も必要になる。

注3)JIS規格
 規格番号:JIS K 5600
 規格名称:塗料一般試験方法

注4)偏光子(P)
 光を、光波の電気ベクトルの振動方向が直線的である直線偏光に変える素子。

注5)PZT鏡
 通常の光学研磨された鏡にピエゾ素子を用いた移動ステージをつけたもの。鏡に数10nmの微小変位を加えることで光の光路長を変化させて位相のシフトを導入するために用いる。

注6)強度画像
 ディジタルホログラフィでは、合焦位置で計算して得られる再生像は振幅と位相からなる。振幅は物体像を表し、位相は物体形状に関連した情報を与える。振幅を二乗すると光強度分布が得られるので、写真と同じ物体画像が得られ、これを強度画像としている。

注7)半硬化乾燥
 塗料の乾燥状態の一つ。塗った面の中央を指先でかるくこすってみて塗面にすり跡が付かない状態(dry to touch)になったときをいう。JIS K 5600−1−1を参照。




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