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東大など、インフルエンザウイルスゲノムの核内動態に関わる宿主タンパク質を同定

2016-05-20

インフルエンザウイルスゲノムの核内動態に関わる宿主タンパク質を同定


1.発表者:河岡義裕 東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野 教授


2.発表のポイント:
 ◆従来、生理的な機能が十分に知られていない宿主のタンパク質CLUHを解析し、CLUHがウイルスゲノムの核内輸送に寄与することを明らかにしました。
 ◆本現象は、ウイルス感染時に特異的に生じるCLUHの核への局在と、それに伴うウイルスゲノムの核内輸送の制御機構が存在することを示唆するものです。
 ◆本研究により、ウイルス感染時に特異的なウイルスゲノムの核内輸送制御機構をターゲットとした新たな治療薬開発が期待されます。


3.発表概要:
 東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループは、細胞の核内で複製されたインフルエンザウイルスゲノムが複製された場所から輸送(核内輸送)されるのに関わる宿主のタンパク質としてCLUH(clustered mitochondria protein homolog)を同定しました。
 河岡義裕教授が2014年に発表した網羅的な解析から同定されたウイルス増殖に寄与する宿主因子を詳細に解析した結果、CLUHがウイルスゲノムの核内輸送に関わることを突き止め、核内におけるインフルエンザウイルスゲノムの核内動態の一端を初めて明らかにしました。
 これまで、ウイルスゲノムの複製とウイルスゲノムの核外輸送複合体(注1)の形成は、核内のクロマチン領域で起きると報告されてきました。ところが、ウイルスの増殖に必要な「複製」と「複合体形成」が細胞核内の同じ場所で起きているかどうかは不明でした。本研究において、クロマチン領域で新規に複製されたウイルスゲノムは、核内を移動した後に、核外輸送複合体が形成される領域へ到達することが明らかとなりました。
 通常は細胞質のみに存在するとされるCLUHはウイルス感染により核内へと移動し、複製されたウイルスゲノムを運ぶ役割に関わることがわかりました。
 本研究成果は、ウイルス感染細胞の核内でのみ見られる現象を明らかにしたものであり、特異的なインフルエンザ治療薬開発のターゲットになることが期待されます。本研究成果は、2016年5月16日(米国東部時間11:00)、英国科学雑誌「Nature Microbiology」のオンライン速報版で公開されます。本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業、文部科学省感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(平成27年度〜感染症研究国際展開戦略プログラム)などの一環として得られました。


4.発表内容:
(1)研究の背景
 インフルエンザウイルスは、細胞に感染すると、宿主のタンパク質を利用して複製・増殖することが知られています。インフルエンザウイルスのゲノムRNA(vRNA)は、感染した細胞の核内でウイルスタンパク質であるPB2、PB1、PAおよびNPと複合体vRNP(注2)を形成します。核内で新たに作られたvRNPは、ウイルスタンパク質M1およびNS2とともに核外輸送複合体を形成し、宿主の核外輸送を担うタンパク質CRM1依存的に核外に輸送されることが報告されています。しかし、新たに作られたvRNPが核外に輸送されるまでに、核内でどのような動きをするのかについての知見はありませんでした。
 本研究では、河岡教授らが2014年に行った網羅的解析により同定された、インフルエンザウイルスの増殖に関与する宿主タンパク質の中で、vRNPの構成因子の1つであるPB2と相互作用するものを選びました。さらに生理的な機能がほとんど明らかになっていない、宿主タンパク質CLUHに注目し、インフルエンザウイルス感染時の役割を解析しました。

(2)研究内容
 通常、細胞質に局在するCLUHは、ウイルスタンパク質PB2の単独発現により核に局在するようになりました(図中A)。また、ウイルスタンパク質M1の単独発現では、その局在が細胞質から核スペックル(注3)に変化しました(図中B)。PB2を単独発現させただけでは核スペックルへの局在は確認できませんが、PB2をM1と共発現させるとPB2は核スペックルに局在するようになり、M1およびCLUHとの共局在が観察されました(図中C)。このことから、PB2が核スペックルへ移行するためには、M1とCLUHが核スペックルに存在していることが重要であると考えられます。CLUHに対するsiRNA(注4)を用いてCLUHの発現を抑制すると、M1の核スペックルへの局在が低下するとともに、vRNPの核外への輸送も阻害されました。以上の結果から、クロマチン領域において新たに作られたvRNPは、核スペックルを通過した後に、核外輸送複合体が形成される領域に到達すること、またその移動にCLUHが必要であることが明らかになりました。

(3)社会的意義・今後の予定など
 本研究は、インフルエンザウイルスゲノムの核内輸送に関わる宿主タンパク質としてCLUHを同定しました。CLUHは通常細胞質のみに局在するタンパク質ですが、ウイルス感染により核に移行し、ウイルスゲノムの核内輸送に働きます。すなわち、ウイルスに特異的な核内局在の制御機構が存在することが示唆されます。このウイルス特異的な核内局在制御機構は、インフルエンザ治療薬開発の有望なターゲットとして期待されます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:Nature Microbiology 5月16日オンライン版
 論文タイトル:The host protein CLUH participates in the subnuclear transport of influenza virus ribonucleoprotein complexes
 著者:河岡義裕(*)
 DOI番号:10.1038/nmicrobiol.2016.62


■用語解説:
 (注1)核外輸送複合体
  核内で新規に合成されたインフルエンザウイルスのvRNPが、核外に輸送される際に形成する複合体。vRNPにウイルスタンパク質M1およびNS2が結合し、NS2に存在する核外輸送シグナルに核外輸送を担う宿主タンパク質CRM1が結合することで、形成される。

 (注2)vRNP
  インフルエンザウイルスのゲノムRNA(vRNA)と、vRNAの転写・複製に必要なウイルスタンパク質(PB2,PB1,PA)、核タンパク質(NP)からなる、タンパク質−RNA複合体。インフルエンザウイルス粒子には、8本のvRNPが存在する。

 (注3)核スペックル
  核内でクロマチンの間に存在する構造体。mRNAの編集に関与する因子が多く含まれる。

 (注4)siRNA
  siRNA(small interfering RNA)とは21−23塩基対からなる低分子二本鎖RNAである。siRNAはRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象に関わっており、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。


■添付資料:

 ※添付の関連資料を参照



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インフルエンザ クロマチン スペックル ウイルス

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