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九大、安全で効率的なCO2地中貯留を可能にする技術を開発

2016-04-14

CO2地中貯留によるCO2の削減・温暖化防止へ前進!
〜安全で効率的なCO2地中貯留を可能にする技術の開発〜


 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の辻健准教授、蒋飛学術研究員、米国ノートルダム大学のKenneth Christensen教授らの研究グループは、二酸化炭素(CO2)地中貯留において、限られた地層に効率的にCO2を貯留することのできる貯留層の条件(CO2の圧入方法)を明らかにする手法を開発しました。CO2地中貯留を行えば、近未来的にCO2を大幅に削減できると考えられています。
 本研究では、岩石の構成粒子の隙間の中を流れるCO2の挙動を様々な条件で精度良く計算し、最終的に貯留されるCO2の量が貯留層の圧力や温度などの条件に強く依存することを定量的に示しました。また、この手法を応用することで、貯留層に大量のCO2を貯留できる条件を明らかにすることに成功しました。
 本研究で開発した手法は、世界最高サイズ(計算グリッド数)の岩石間隙モデルに対して流体シミュレーションを実施することによって、初めて可能となりました。本研究成果は、2016年3月11日(金)にElsevier社の国際学術誌「Advances in Water Resources」のオンライン版で公開されました。


■研究者からひとこと:
 貯留層に圧入したCO2の挙動や飽和度は、温度など様々な条件に依存しますが、そのCO2挙動を大規模計算によって、シンプルな方法で定量的に表現できた点が面白いと思っています。将来的には、さらに大規模な計算により、貯留層内のCO2の挙動を正確に把握し、またコントロールすることで、効率的にCO2を貯留し、地球温暖化防止に貢献できればと思っています。


 *参考図は添付の関連資料を参照


■背景
 CO2の回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)プロジェクトでは、発電所といったCO2の大規模排出源においてCO2を分離・回収し、地中に貯留することで、大気中へのCO2の排出を削減します。既に海外では、いくつかのCCSプロジェクトが実施されています。国内では今月から、北海道の苫小牧市でCO2の地中貯留が実施される予定です。このCCSというアプローチは、近未来的にCO2を削減できる技術として注目され、昨年パリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においても、その重要性が指摘されています。日本周辺にもCO2を貯留できる地層があり、日本の総CO2排出量の約100年分を貯留できるという試算もあります。
 このようにCCSプロジェクトは、CO2の削減に寄与すると考えられていますが、日本周辺にはCO2を圧入・貯留できる地層(貯留層)が広域的に分布している場所は少ないとされています。そのため、限られた貯留層の中に、効率的にCO2を圧入・貯留する必要があります。本研究では、効率的に大量のCO2を貯留する上で最適な条件(例えば地層へのCO2の圧入速度)を明らかにできる手法を開発しました。


■内容
 研究グループは、天然の岩石の中にある微細な間隙(※1)の構造を、特殊なCT装置を用いて高解像度(〜μm)で抽出し(図a)、その間隙内部を流れるCO2と水(2相流)の挙動を、格子ボルツマン法(LBM)(※2)という数値シミュレーション手法を用いることで正確に計算することに成功しました(図b)。GraphicsProcessing Unit(GPU)を用いた並列大規模計算を行うことによって、世界最大の計算グリッド数の岩石間隙モデルに対してLBMを用いた流体計算を行うことが可能となりました(図b)。この岩石モデルの巨大化により、岩石内部に存在する多数の間隙を流れるCO2の挙動を正確に計算し、その水理特性を評価することが初めて可能となりました。
 本研究では、様々な貯留層の条件において岩石間隙内のCO2の挙動を計算し、岩石間隙の中にCO2をどれくらい貯留できるかを調べました。図cと図dに、CO2を圧入した速度の違いが間隙内部を流れるCO2の挙動に与える影響を調べた例を示しますが、CO2を圧入する速度が小さい場合のほうが、最終的に貯留されるCO2の量が大きくなること等が分かりました。この流体計算を様々な条件で実施すれば、貯留層の条件に依存したCO2の貯留量や、CO2の流れやすさを定量的に推定できます。本研究では、50を超える異なった貯留層条件の下で、CO2と水の挙動を計算しました(例えば図c,図d)。その結果、CO2の貯留量(飽和度)は、キャピラリー数(※3)と、水とCO2の粘性比の2つのパラメータで決定できることが明らかになりました。キャピラリー数と粘性比は、貯留層の状態やCO2の圧入方法で決定されます。つまり、本研究で開発した手法を用いれば、CO2を効率的に貯留することのできる貯留層条件を明らかにできます。さらに今回の手法を用いてCO2の圧入プロセスを工夫すれば、CO2の挙動や貯留量をコントロールできる可能性があります。


■効果
 ・CO2を貯留する地層の岩石(デジタル岩石モデル;図a)があれば、本研究で開発した手法を適用することで、その地層に最も多くのCO2を貯留できる条件を明らかにすることができます。
 ・本研究で開発した手法を用いれば、正確に貯留層内のCO2の挙動を把握できるため、安全なCO2地中貯留にも貢献することができます。
 ・本手法を用いれば、CO2を圧入する前に、CO2地中貯留で削減できるCO2の量を、これまでより正確に評価することができます。


■今後の展開
 今回の研究では、2種類の岩石に対して本手法を適用し、最適な貯留条件を明らかにすることに成功しました。今後は、実際のCO2貯留サイトで取得した様々な岩石に対して、本研究で開発した手法を適用したいと考えています。さらに本研究で開発した手法を用いて、CO2の挙動をコントロールすることで貯留層を有効に利用し、安全なCO2貯留に貢献したいと考えています。
 I2CNERCO2貯留研究部門では、大気中のCO2削減を目的として、安全にCO2を地下貯留するための技術開発を行っています。今回の研究のように貯留層内のCO2の挙動を予測するモデリング手法を開発するだけでなく、圧入したCO2をモニタリングする技術の開発も行い、時々刻々と変化する貯留層の状態を正確に把握することを目指しています。これにより、効率的で安全なCO2の貯留が可能となると考えられます。


■論文
 タイトル:Characterization of immiscible fluid displacement processes with various capillary numbers and viscosity ratios in 3D natural sandstone
 著者:辻 健、蒋 飛(九州大学)、Kenneth Christensen(ノートルダム大学)
 掲載誌:Advances in Water Resources(doi:10.1016/j.advwatres.2016.03.005)


■用語解説
 ※1 間隙:岩石は粒子の集合体で構成され、その粒子の間にある隙間のこと。CO2を圧入する貯留層では、岩石の全体の体積の20%ほどは間隙である。CCSでは、この間隙の中にCO2を貯留する。
 ※2 格子ボルツマン法(LBM):流体計算手法の一つ。この手法を使えば、複雑な形状をした間隙を流れる水やCO2の挙動を計算できる。
 ※3 キャピラリー数:流体の粘性係数、流速、表面張力で計算できるパラメータである。




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