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理研、不安定な共役イミンが起こす多様な環化反応を発見

2016-03-19

不安定な共役イミンが起こす多様な環化反応を発見
−光学活性物質合成や生体内機能発現機構の解明に大きな手がかり−


<要旨>
 理化学研究所(理研)田中生体機能合成化学研究室の田中克典准主任研究員、アンバラ・ラクマット・プラディプタ特別研究員の研究チームは、不安定であり、その特性がほとんど知られていなかった「N−アルキル共役イミン[1]」が、環境や置換基の存在により6員環化合物や8員環化合物に自在に構造を変化させていることを発見しました。

 N−アルキル共役イミンは窒素原子にアルキル基を持つ共役イミン[1]です。生体内に存在する共役アルデヒド(レチナール[2]や脂質代謝物など)と一級アルキルアミン[3](リジン、エタノールアミンなど)との反応によって速やかに生成される重要な化合物で、さまざまな生命機能に携わっています。しかし、N−アルキル共役イミンは、すぐに重合したり、加水分解を受けたりするため、その化学的な特性についてはあまり検討されていませんでした。また同じ理由から、有機合成の反応基質としてもほとんど利用されてきませんでした。

 研究チームは、系内にホルムアルデヒドを共存させると、不安定なN−アルキル共役イミンが、その置換基の種類によって6員環化合物や8員環化合物にほぼ100%変換することを見出しました。さらにこれらの化合物を新しい有機合成の反応基質として活用することにより、従来では合成することが難しかった多種類の光学活性[4]なジアミン誘導体[5]の合成に成功しました。一方、ホルムアルデヒドは細胞内でも産生することが知られています。研究チームが見出したN−アルキル共役イミンが起こす多様な環化反応は、生体内でも進行しており、さまざまな機能調節に関わっている可能性があります。

 今後、N−アルキル共役イミンを用いた新しい有機合成の発展や、N−アルキル共役イミンが携わる生命調節機構や疾患発症の究明に大きく貢献すると期待できます。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の研究領域「分子技術と新機能創出」(研究総括:加藤隆史)研究課題名「生体内合成化学治療:動物内での生理活性分子合成」(研究者:田中克典)の一環として行われました。本成果は、日本化学会の科学雑誌『Bulletin of The Chemical Society of Japan』(3月15日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(日本時間3月15日)に掲載されます。なお、この論文は同雑誌のSelected Paperに選出されました。


<背景>
 窒素原子にアルキル基を持つ共役イミン「N−アルキル共役イミン」は視覚をはじめ、さまざまな生命機能に携わっている重要な化合物と考えられています。

 共役アルデヒドに一級アルキルアミンを作用させると、N−アルキル共役イミンが生成されます。生体内でも共役アルデヒド(レチナールや脂質代謝物など)と一級アルキルアミン(アミノ酸のリジン、エタノールアミンなどのアミノアルコール[6]、ポリアミン[7]など)との反応により生成されています(図1)。

 しかし、N−アルキル共役イミンは、加水分解されやすく、酸や熱に対して非常に不安定であり、重合したり速やかに分解したりします。そのため、その反応性や化学的な特性について詳細には調べられておらず、有機合成の反応基質としてもほとんど利用されてきませんでした。


<研究手法と成果>
 研究チームは、これまでに、生体内に存在するアミノアルコールやジアミン化合物が共役アルデヒドと速やかに反応して、反応過程の中間で生じるN−アルキル共役イミンの[4+4]型反応(4原子と4原子が結合する過程)を経て、ほぼ100%の割合で8員環化合物が作られることを見出していました注1)。

 今回、研究チームが、アミノアルコールと共役アルデヒドに加えて、さらにホルムアルデヒドを共存させたところ、新しい6員環化合物や8員環化合物が生成されることを発見しました。この新しい環化合物の生成は、中間体であるN−アルキル共役イミンから、前例のない[4+2]型反応(4原子と2原子が結合する過程)や[4+2+2]型反応(4原子と2原子と2原子が結合する過程)を経て進行します。さらに、これらの6員環化合物と8員環化合物は、中間体のN−アルキル共役イミンの置換基の種類によって、完全に制御して作り分けられていることが分かりました。

 アミノアルコールと共役アルデヒド、そしてホルムアルデヒドの3化合物を室温で混ぜ合わせて得られる6員環化合物や8員環化合物は、共役アルデヒドの置換基に対して立体選択的[8]に生成されます。そこで研究チームは、これらの環化生成物にさらに数工程の反応を行うことにより、合成することが難しかった40種類以上の光学活性なジアミン誘導体の合成に成功しました(図2)。光学活性なジアミン誘導体は、金属触媒の配位子や生理活性物質の合成、さらに生体内アミンの挙動を調べるための標識分子の原料として大変重要な化合物です。

 このように研究チームは、これまで不安定であると信じられていたN−アルキル共役イミンが、実は化合物の構造や添加剤によって、環化構造を平衡条件下で自在に操っているということを解明しました。そして、この「見過ごされていた」共役イミンの反応性を有機合成化学における新しい方法論として開発しました。

 注1)A.Tsutsui,A.R.Pradipta,E.Saigitbatalova,A.Kurbangalieva and K.Tanaka,“Exclusive Formation of Imino[4+4]cycloaddition Products with Biologically Relevant Amines:Plausible Candidates for Acrolein Biomarkers and Biofunctional Modulators”Med.Chem.Commun.,DOI:10.1039/C4MD00383G(2015).


<今後の期待>
 これまで不安定であり、重合や分解すると考えられていたN−アルキル共役イミンが、思いもよらないユニークな反応性を示すことを見出しました。今回、研究チームが達成した光学活性なジアミン誘導体の合成は、従来注目されてこなかったN−アルキル共役イミンを今後、積極的に有機合成に利用できる可能性を示しています。

 一方、本反応で使用した、アミノアルコールと共役アルデヒドホルムアルデヒドの3化合物は、生体内でも存在・産生しています。研究チームが見出した速やかな6員環化合物や8員環化合物の形成反応は、生体内でも進行しており、生体内でのさまざまな機能制御や活性発現に関与している可能性を強く示しています(図3)。


<原論文情報>
 ・Ambara R.Pradipta and Katsunori Tanaka,"Unexplored Reactivity of N−Alkyl Unsaturated Imines:A Simple Procedure for Producing Optically Active 1,3−Diamines via a Stereocontrolled Formal[4+2]and[4+2+2]Iminocycloaddition",Bulletin of The Chemical Society of Japan


<発表者>
 理化学研究所
 准主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
 准主任研究員 田中 克典(たなか かつのり)
 特別研究員 アンバラ・ラクマット・プラディプタ(Ambara Rachmat Pradipta)


 ※補足説明・図1〜図3は添付の関連資料を参照




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