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並木精密宝石と岐阜大など、多自由度で大把持力50kgf以上を両立する多指ハンドを開発

2016-03-10

多自由度で大把持力50kgf以上を両立する多指ハンドを開発
〜災害現場から産業分野まで、タフ環境で性能を発揮〜


<ポイント>
 ○多自由度な機能を持ちながら、50kgf以上の把持力を発生でき、さらに、消費電力ゼロで50kgfの保持力を維持できる多指ハンドを開発した。
 ○コア技術:超小型無通電ロック機構付高出力アクチュエータ、および指ユニット型小型高効率リンク機構


 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所 諭)の一環として、並木精密宝石株式会社の中村 一也(同NJC技術研究所 MC開発 統括マネージャ)、岐阜大学 工学部機械工学科知能機械コースの毛利 哲也 准教授(同川崎・毛利研究室)らは、50kg以上の物体を通電すること無く保持可能な多指ハンド(注1)を開発しました。
 多指ハンドは、人間の作業の代替を目的として、さまざまな分野で研究開発が進められてきました。しかし、小型軽量・高出力・高い巧緻性・高い耐候性を兼ね備えた多指ハンドは実現されておらず、単純作業などの限定的な実用に留まっています。
 一方、特に災害現場などの屋外環境では、ロボットのバッテリー消費を抑える必要がありますが、一般的な電磁モータを駆動源としたロボットハンド(ロボット本体も含む)では、その姿勢を維持するだけでも電力を必要とします。例えば、ロボットハンドが電動ドリルを把持し、壁に穴をあける作業を行う場合、この把持姿勢を維持するだけでも電力を消費していることになります。また、より重い物体の保持には、より多くの電力を必要とします。
 今回、本研究開発グループは、屋外環境で低消費電力駆動を実現できる直径12mmの無通電ロック機構付高出力電磁モータと指本数・指配置を自由に変更可能な指ユニット型の小型高効率リンク機構の開発をしました。
 本研究開発成果は、“精密ロボット=工場内での稼働”という概念を変えるものであり、災害現場、屋外プラント、工事現場などで、人間の行う作業をロボットが代替することを期待できます。


 本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

 内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
 http://www.jst.go.jp/impact/#index1
 プログラム・マネージャー 田所 諭
 研究開発プログラム タフ・ロボティクス・チャレンジ
 研究開発課題 脚ロボット用ハンドの研究開発
 研究開発責任者 中村 一也
 研究期間 平成27年度〜平成28年度
 本研究開発課題では、極限環境下で動作する小型・高出力・巧緻な脚ロボット用ハンドの開発に取り組んでいます。


<田所 諭 プログラム・マネージャーのコメント>
 ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創りだし、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

 これまで世界中で数多くのロボット多指ハンドが開発され、商品化されてきましたが、そのほとんどは器用な作業はこなせるものの、把持力があまりにも小さく、タフな用途では実用にならないものばかりでした。並木精密宝石株式会社と岐阜大学 川崎・毛利研究室との共同研究によって開発された多指ハンドは、この限界を新しい発想によって打ち破った非連続イノベーションであり、大きな把持力で器用な作業を可能にすることから、災害現場(福島第一原発など)はもとより、産業用(自動車製造,建設現場など)としても、広い適用先が期待されます。


<研究の背景と経緯>
 災害現場では、崩落や崩壊、放射能による被ばく、有毒ガスなどの危険性が高く、ロボットによる被害状況の調査や災害拡大の抑止作業などが求められています。このようなロボットには、ドローンのような飛行型ロボット、車輪やキャタピラなどで移動するクローラ型ロボット、多肢多脚を持つ脚型ロボットなどがあります。
 これら災害対策用ロボットの中で、脚型ロボットは、多肢多脚を駆使し、不整地やはしごを通り抜けて目的地に到達します。例えば、壊れて開閉不能となった扉があった場合、レスキュー隊や消防隊が使用する工具(チェーンソー、切断機、ハンマードリルなど)を操作して扉をこじ開ける必要があります。そのためには、人の手のサイズに近く、人の握力に近く、人の手に近い器用さを持つロボットハンドが必要になります。また、有毒ガスが噴出している災害現場で、災害拡大を抑止するため、配管上のバルブを閉める作業をしなければならない場合にも同様のロボットハンドが必要になります。
 これら災害現場で働くロボットは、有線給電では活動範囲が制限されるので、バッテリーを搭載する必要があります。近年、高容量で軽量なバッテリーが開発されていますが、このような高出力ロボットを十分に活動させるには、まだまだ容量が不足しているのが現状です。よって、特に災害現場で働くロボットでは、“低消費電力での動作”が必要条件となります。
 ロボットハンドの研究開発の歴史は古く、世界中の研究機関・企業で行われており、(1)各関節にアクチュエータを内蔵して駆動させる機構と(2)ワイヤーや各種リンクなどにより外部から伝達駆動させる機構の2種類があります。前者は機構を小型・軽量化できますが、高出力を実現するためにはアクチュエータの大出力化が必要であり、大型化・重量増となります。また、後者は、アクチュエータを外部に配置することによりアクチュエータの寸法に制限されないため高出力化が可能ですが、外部に配置されるアクチュエータの大型化が避けられません。
 以上のような背景から、小型軽量で高出力なアクチュエータと小型高効率リンク機構を開発し、上記(1)機構でも、小型・軽量で高出力で巧緻なロボットハンドを実現することを目標とし、また低消費電力なロボットハンドを実現する為、独自機構の直径12mm超小型無通電ロック機構の開発を進めました。


<研究の内容>
 今回、本研究開発グループは独自機構の超小型無通電ロック機構を持つ高出力電磁モータと小型高効率リンク機構を開発し、多指ハンドの試作を行い、50kgf以上の物体の無通電保持に成功しました。

・超小型無通電ロック機構付高出力電磁モータ(図1参照)
 無通電時の一般的な電磁モータでは、出力軸に外力(回転モーメント)が加わった場合、容易に回転してしまいます。この外力に抗って回転しないように姿勢を維持するためには、相応の電力をモータに通電する必要があります。
 今回、開発した無通電ロック機構は、モータが無通電の状態で、出力軸に外力が加わった場合でも機械的なロック機構により出力軸は回転しない機構です。
 一般的に、モータの出力軸をロックする無通電の機構としては、ワンウェイクラッチ機構やウォームギヤ機構などがありますが、機構が複雑で大型化してしまいます。今回、開発したロック機構は、独自機構の採用により小型・省部品を実現でき、直径φ12mmの多段遊星歯車型減速機との一体化に成功しました。
 また、高強度希土類磁石(既開発品)、高占積率コイル(注2)仕様、低うず電流損構造などの採用により、PWR【出力(W)/重量(g)】=0.33W/gを達成しました。

・小型高効率リンク機構(図2参照)
 多くのロボットハンドに採用されている歯車を組み合わせた減速機構では、高速回転する小型モータの出力を多段の減速機構により高出力化します。しかし、多段の減速機構では伝達損失が大きく、高い伝達効率を実現することは困難です。また、歯車間の隙間が指先のバックラッシ(機構のガタ)として高精度な位置決めも困難です。
 今回開発したリンク機構では、上記の無通電ロック機構付高出力電磁モータ、平歯車、ボールネジを用いたスライダークランク機構となっています。モータの出力は、高精度なボールネジを介して関節トルクに変換するため高い伝達効率と低バックラッシを実現しています。また、リンク機構の寸法は目標となる指先力に基づいて最適化設計を行い、ロボットハンドの指関節間への内蔵が可能になるように小型化も実現しています。

・多指ハンドの試作(図3参照)
 上記、無通電ロック機構付高出力電磁モータと小型高効率リンク機構を搭載した、多指ハンドを試作し、最大長さ(全開時):328mm、最大幅(全開時):340mm、総重量:1,992g、関節:3関節×4指=12関節、自由度:3DOF(注3)×4指=12DOF、指先力125N/指以上を達成しました。また、56.1kg(土嚢+グリップボール)の重量物の無通電保持を実現しました。
 また、試作過程において、無通電ロック時に指先力を維持するための弾性体の介在について着目し、その有効性から、特許を出願しました【特願2015−221976】。


<今後の展開>
 本研究開発によって、無通電ロック機構付電磁モータと小型高効率リンク機構の組合せによる多指ハンドの指先力の高出力化および保持性能を確認することができました。
 今後は、災害現場から産業分野までの幅広い分野での多指ハンドの活用を目標に研究開発を継続します。特に、産業分野においては、近年、電子機器や自動車部品の組立作業は、人間の作業からロボットの作業に移行しつつありますが、実際には、まだほとんどの作業は人間が担っています。これら電子機器や自動車部品はモデルチェンジが頻繁に行われるため、完全自動化工程には不向きな作業といえます。しかし、世界的な労働人口の減少、賃金コストの高騰などの理由により、人間に替わるロボットの導入に対するニーズは非常に高い状況です。
 現在、日本を中心とする産業用ロボットメーカでは、これら組立作業向けに小型で安全なロボットアーム(多関節ロボット)を開発・上市しており、人間の腕に相当する部分は、移動速度・位置精度の点で人間を凌駕するものが実用化されています。
 しかし、人間の手に相当する部分は、2指ないし3指による平行的な動作のみの簡素なグリッパが使用され、かつ、部品の形状に合わせて複数のグリッパを交換しながら使用しているのが現状です。また、これらグリッパでは、人間が使う工具をそのまま取り扱う事もできません。研究レベルでは、多指ハンドも存在し、人間に近い巧緻な動作が可能ですが、特に自動車部品の組み立てなどに使われるような数kg程度の部品を把持する事はできません。
 以上のような産業分野への応用を目的とした多指ハンドの開発と並行し、災害現場で使用する振動・衝撃の大きな電動工具を把持・操作可能な巧緻で高出力な多指ハンドの開発を行います。具体的には更なる高出力化機構/高耐久機構の開発と力センサと無通電ロック機構の組み合わせによる、力制御を伴う巧緻な動作制御アルゴリズムの研究開発を行う予定です【目標仕様】全長:300mm/重量:2,000g。


<参考図>

 ※図1〜図3は添付の関連資料を参照


<用語解説>
 注1)多指ハンド
  人の手の構成、動きに近い多指・多関節・多自由度で、巧緻な動作が可能なロボットハンド。

 注2)高占積率コイル
  電磁モータの出力特性を左右する電磁コイルは、電線を高密度に巻き込む程、高特性が得られる。この高密度に巻き込まれたコイルを高占積率コイルと呼ぶ。

 注3)DOF(degree of freedom)
  自由に動く事のできる軸の数。人間の指は、第1関節:曲げ1軸、第2関節:曲げ1軸、第3関節:曲げ1軸/左右開閉1軸で、合計4自由度(4DOF)となり、自由度が大きい程、複雑で巧緻な動作が可能となる。





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