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九大、有機EL素子の高耐久化の実現と劣化メカニズムの解明に成功

2016-03-07

有機EL素子の高耐久化の実現と劣化メカニズムの解明に成功


<概要>
 九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の安達千波矢センター長、Daniel Ping−Kuen Tsang研究員の研究グループは、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料(※1)を発光層に含有する有機EL素子において、デバイス構造の最適化により初期劣化を十分に抑制し、連続素子寿命を大幅に向上させることに成功しました。本研究では、有機分子である8−hydroxyquinolinato lithium(Liq)を有機層界面に数ナノメーターの膜厚で挿入することにより、素子の初期発光強度が5%減少するまでの時間(LT95)を最大16倍程度伸ばすことが可能になりました。このような素子寿命の大幅な改善は、Liq超薄膜の挿入によって、界面に形成される電荷トラップ(※2)濃度の大幅な減少に起因しています。この改善により、モバイルディスプレーに必要とされる素子寿命を十分に確保する道筋が得られたことになります。
 本研究成果は、平成28年3月1日(火)午前10時(英国時間)に英国国際学術誌Nature姉妹誌のオンラインジャーナルである『Scientific Reports』に掲載されます。


■背景
 有機ELは電気を光に変換する素子であり、次世代のディスプレーや照明への応用が期待されています。一般の有機EL素子は、陽極と陰極の間に約100ナノメートル程度の厚さを有する有機薄膜層から成り、その有機層は、発光機能の中心となる発光層と複数の電荷輸送層薄膜の積層構造から構成されています。そして、電極から電荷輸送層を経て発光層に注入された正孔(ホール)と電子(エレクトロン)が再結合することでEL発光が生じます。OPERAでは、2012年12月に新しい発光体であるTADF材料の開発に成功し、第一世代の発光材料である蛍光材料や第二世代のリン光材料を凌駕する性能を実現し、ほぼ100%の量子効率で電気を光に変換することが出来るようになりました。これにより、高効率と低コストの両方を合わせ持つ有機EL素子の実現が可能となりましたが、実用化のためには有機EL素子の耐久性の向上が求められていました。


■内容
 緑色発光を示すTADF材料(4CzIPN)を用いた有機EL素子において、従来、LT95は85時間程度に留まっていましたが、今回、周辺材料の最適化に加え、新しい素子構造の構築により素子の長寿命化に成功しました。有機層中に、Liqを1.3ナノメートルの超薄膜の厚さで挿入することにより、発光層への電子と正孔の注入バランスの向上等を図り、素子寿命を>1300時間(最大16倍)まで伸ばすことに成功しました。素子寿命の改善のメカニズムは、Liq層を挿入することで、素子中における電荷トラップ濃度が著しく減少したことが起因していると考えられます。熱刺激電流法(※3)の計測から、Liq層を挿入した素子においては、電荷トラップ濃度の著しい減少が確認出来ました。本手法は、りん光素子においても同様にLiq層の挿入により長寿命化が可能であることから、ユニバーサルに有機EL素子の耐久性の向上を可能とする技術であることが示されました。


■今後の展開
 本研究で解明された新しい素子構造を有機EL素子に適用することで、ディスプレーにおいて要求される初期劣化を大幅に改善することができました。今後は、現在りん光材料でもその実現が難しい、安定かつ高効率な青色TADF素子を含め、各発光色の高耐久化を進めていきます。そのために、さらなる新材料開発と素子構造の改善を進めていきます。


■論文情報
 論文タイトル:Operational stability enhancement in organic light−emitting diodes with ultrathin Liq interlayers
 本研究成果は、地域イノベーション戦略支援プログラム−くまもと有機エレクトロニクス連携エリア−(文部科学省事業 総合調整機関:(公財)くまもと産業支援財団)の支援の元に実施された研究成果です。


【用語解説】
 (※1)熱活性化遅延蛍光(TADF):励起三重項状態から励起一重項状態への逆エネルギー移動を熱活性化によって生じさせ、蛍光発光に至る現象を示します。励起三重項経由で発光が生じるために一般に寿命の長い発光が生じることから遅延蛍光と呼ばれます。

 (※2)電荷トラップ:
有機薄膜の構造欠陥や界面において、局所的に低いエネルギー準位が形成されることで、正孔や電子が空間的に捕捉された状態を指します。トラップにより捕獲された電荷がトラップから再び逃れるためには、外部から光、熱エネルギー、電場等の外力が必要となります。
 (※3)熱刺激電流法:
(有機)半導体中の電荷トラップを測定する手法です。極低温下においてトラップに電荷を蓄積し、一定速度で温度を上昇させることで、各温度で観測される電流値を計測し、トラップの深さと濃度を見積もることができます。


【参考図面】

 *添付の関連資料を参照



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