イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

九大、先天性免疫不全症候群(ICF症候群)の原因遺伝子を解明

2015-08-03

先天性免疫不全症候群(ICF症候群)の原因遺伝子を発見!
−90%以上のICF症候群患者の原因遺伝子特定で早期確定診断が可能に−


<概要>
 九州大学生体防御医学研究所エピゲノム制御学分野の佐々木裕之所長(副学長・主幹教授)らの研究グループは、同研究所情報生物学分野の須山幹太教授らのグループ、オランダのLeiden大学メディカルセンターのSilvere M.van der Maarel教授らのグループ、およびフランスの Paris Diderot大学のClaire Francastel教授らのグループとの共同研究により、常染色体劣性遺伝病(※1)であるICF症候群の新しい原因遺伝子として、CDCA7とHELLSの2つを発見しました。ICF症候群は抗体を作り出せない先天性の免疫不全症ですが、それには染色体のある領域のDNA低メチル化(※2)が関わることが知られています。ICF症候群の患者は、感染に対する抵抗力が低下するため重症感染症にかかります。感染を予防するには、早期に確定診断をして治療を開始することが重要です。今回の研究成果はICF症候群の確定診断の早期化に役立つばかりではなく、その原因に関与するDNAメチル化制御の理解を深めるものと期待されます。
 本研究成果は、2015年7月28日(火)午前10時(英国時間)に、英国科学誌『Nature Communications』にオンライン掲載されました


■背景
 先天性免疫不全症候群に分類されるICF(immunodeficiency,centromeric instability,facial anomaly)症候群は、免疫不全、染色体の不安定性、軽度の顔貌異常を特徴とした常染色体劣性遺伝病です。先天性の免疫不全症候群に分類され、この患者では免疫応答に必要な成熟したBリンパ球ができず、多くの方が重度の感染症により幼少期に亡くなります。適切な診断で早期に発見し、抗体補充療法などをおこなうことで、感染症を防ぐことができます。これまでの研究で、ICF症候群で見られる染色体の不安定性は、動原体領域(※3)のサテライト配列と呼ばれる反復配列の低メチル化が原因となって引き起こされることがわかっていました(図(1))。

 *図(1)は添付の関連資料を参照


 ICF症候群の患者の約半数で、DNAメチル化酵素であるDNMT3B遺伝子に変異が見つかっており(1型ICF症候群という)、さらに約1/4では機能不明のタンパク質であるZBTB24遺伝子に変異が見つかっていました(2型ICF症候群)。しかしながら、残りの約1/4については原因遺伝子が不明で、これらの患者の原因遺伝子を見つけることで、早期のICF症候群の確定診断による適切な治療選択に貢献できることが期待されていました。


■内容・効果
 本研究グループは、すでに発見されているDNMT3BとZBTB24遺伝子に変異がないICF症候群の患者13人の血液からDNAを採取し、最新の次世代シーケンサー機器を用いたエキソーム解析(※4)で原因遺伝子を探索しました。その結果、CDCA7あるいはHELLSという遺伝子に変異を持つ患者が5人ずつ見つかりました。研究グループはCDCA7遺伝子の変異が原因のICF症候群を3型、HELLS遺伝子の変異が原因のICF症候群を4型と分類しました(表(1))。マウス胎仔の線維芽細胞(体の様々な組織を構成する基本的な細胞の一つ)で、これら2つの遺伝子の働きを抑制する実験をおこなったところ、動原体領域のDNA低メチル化が引き起こされました。この実験結果はCDCA7とHELLSがICF症候群の新たな原因遺伝子であることを示しています。残り数%の患者の原因遺伝子はなお不明ですが、今回の研究により90%以上のICF症候群患者の原因遺伝子がわかり、早期の確定診断ができるようになりました。

 *表(1)は添付の関連資料を参照


 また、動原体領域のDNAメチル化制御に関わる新たな因子を発見した点も重要な成果です。これまでの研究で、HELLSは植物やマウスでDNAメチル化に関与するクロマチンモデリング因子(※5)であることがすでに報告されていました。一方、CDCA7は胎生期の造血幹細胞(赤血球・白血球などをつくり出すもとになっている細胞)の発生や分化に寄与することが報告されているものの、DNAメチル化制御に関与することは解明されていませんでした。


■今後の展開
 ICF症候群の新たな原因遺伝子の発見は、本症候群患者の早期確定診断の精度向上と、免疫不全に対する適切な治療の選択につながることが期待されます。将来的には、遺伝子治療の開発へとつながる可能性もあります。今後、CDCA7がどのように動原体のDNAメチル化に関わるのかを解明することで、染色体の安定性や免疫細胞の分化の機構が明らかになると考えられます。


【本研究について】
 本研究成果は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A)(課題番号:26253020)の支援により得られました。また、この研究では九州大学大学院生の伊藤雄哉、総合研究大学院大学大学院生の新田洋久(現大阪大学)、生体防御医学研究所の鵜木元香助教が重要な役割を果たしました。


【論文】
 雑誌名:Nature Communications
 論文タイトル:Mutations in CDCA7 and HELLS cause Immunodeficiency,Centromeric Instability and Facial Anomalies Syndrome
 著者:Peter E.Thijssen,Yuya Ito,Giacomo Grillo,Jun Wang,Guillaume Velasco,Hirohisa Nitta,Motoko Unoki,Minako Yoshihara,Mikita Suyama,Yu Sun,Richard J.L.F.Lemmers,Jessica C.de Greef,Andrew Gennery,Paolo Picco,Barbara Kloeckener‐Gruissem,Tayfun Gungor,Ismail Reisli,Capucine Picard,Kamila Kebaili,Bertrand Roquelaure,Tsuyako Iwai,Ikuko Kondo,Takeo Kubota,Monique M.van Ostaijen−Ten Dam,Maarten J.D.van Tol,Corry Weemaes,Claire Francastel,Silvere M.van der Maarel,and Hiroyuki Sasaki


【用語解説】
 (※1)常染色体劣性遺伝病:
  常染色体劣性遺伝病とは、病気の原因となる遺伝子の異常を、両親からそれぞれ受け継いだ場合に発症するタイプの遺伝病です。どちらか一方の親からのみ受け継いだ場合は、発症しません。この場合、「保因者」と呼ばれます。常染色体劣性遺伝病の子供の両親は保因者であったと考えられます。

 (※2)DNAメチル化:
  DNAはアデニン、チミン、グアニン、シトシンという4種類の塩基から構成されています。DNAメチル化とは、シトシン−グアニンという順番で並んでいるシトシンにメチル基が付加された状態を指します。遺伝子のプロモーターと呼ばれる領域がメチル化されると、その遺伝子の発現が抑制され、遺伝子の転写、翻訳によって作られるタンパク質の量が減少します。また、DNAメチル化は動原体(※3)などの染色体構造の安定性にも関わることがわかっています。

 (※3)染色体の動原体領域:
  動原体とは、染色体の長腕と短腕をつなぐ領域です。細胞分裂時には、この領域に微小管と呼ばれる細い管が結合します。染色体は微小管に引っ張られ、2つの娘細胞に均等に分配されます。この動原体領域はサテライトDNAと呼ばれる反復配列から成り立っていて、通常はメチル化されており、安定な構造をとっています。

 (※4)エキソーム解析:
  エキソーム解析とは、タンパク質をコードしている遺伝子の全エキソン(アミノ酸配列を規定する部分)の配列を特定する方法です。タンパク質をコードしている遺伝子が全DNA配列に占める割合はわずか2%程度で、遺伝病の多くはこれらの遺伝子の変異によって引き起こされます。エキソーム解析は、全DNA配列の解析をおこなうよりも、低コストで効率良く原因遺伝子を発見できる方法として注目されています。

 (※5)クロマチンモデリング因子:
  DNAがヒストンというタンパク質に巻き付いた構造をヌクレオソームと呼び、ヌクレオソームが集合してさらに高次の構造をとったもの(ヒストン以外のタンパク質も関わります)をクロマチン(染色質)と呼びます。クロマチンモデリング因子は、ヌクレオソームの配置替えをして、転写の状態を調節する因子です。



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版