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東大、ナノワイヤ量子ドットレーザーの室温動作に成功
「世界最小量子ドットレーザの室温動作に成功」
〜高効率ナノレーザの実用化に弾み〜
●発表のポイント
◆ナノワイヤ量子ドット(注1)レーザの室温動作に初めて成功
◆結晶成長の高度な制御により、径290nmのナノワイヤ中に高品質量子ドットを積層化
◆ナノレーザが高効率・温度高安定の量子ドット時代を迎え、シリコンフォトニクス(注2)など、光回路集積用光源の実用化に弾み
●発表概要:
東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦教授、舘林潤特任助教らの研究グループは、このほど、ナノワイヤ量子ドットレーザの室温発振に世界で初めて成功しました。今回の成功は、世界最小体積の量子ドットレーザを実現したものであり、量子ドット本来の超低消費電力、すぐれた温度安定性などを備えた高性能ナノレーザの集積化が可能となり、シリコンフォトニクスなどへの応用展開を加速するものと期待されます。
本研究は、文部科学省・イノベーションシステム整備事業・先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」、内閣府・最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「フォトニクス・エレクトロニクス融合システム基盤技術」、及び新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術」の支援で行われました。
●発表内容:
本研究グループは、ナノワイヤ量子ドットレーザの室温発振に世界で初めて成功しました。このレーザは、直径290nm(ナノメートル)、長さ4.3μm(マイクロメートル)のナノワイヤ中に50層積層された量子ドットの光利得を利用し、単一のナノワイヤの両端をミラー
とした共振器構造を有するもので、結晶成長の高度な精密制御技術と先端的レーザ設計手法を駆使することにより実現しました。半導体レーザの性能指標である特性温度でも133K(ケルビン)とナノワイヤレーザとして最高値を達成し、量子ドットによる性能向上を裏付けました。
ナノレーザは少なくとも一つの寸法がナノメートルオーダーの微小な半導体レーザとして、近年、シリコンフォトニクス、ナノフォトニクス、ナノバイオ向けの高性能なコヒーレント微小光源として注目されています。中でも単一ナノワイヤを用いたナノレーザは、最も小さい体積を実現し得るレーザです。今回の成功により、量子ドット本来の超低消費電力、すぐれた温度安定性などを備えた高性能ナノレーザを高密度集積可能となり、シリコンフォトニクスなど、幅広い分野への応用が期待されます。今後、本成果については、NEDOプロジェクトにおける研究開発等において、その展開を図る予定です。
●発表雑誌:
雑誌名:「Nature Photonics」(英国時間2015年6月29日)
論文タイトル:Room−temperature lasing in a single nanowire with quantum dots
著者:Jun Tatebayashi, Satoshi Kako, Jinfa Ho, Yasutomo Ota, Satoshi Iwamoto, and Yasuhiko Arakawa
DOI:10.1038/nphoton.2015.111
●用語解説:
(注1)ナノワイヤ量子ドット:
ナノスケールの直径を持つ1次元の半導体細線構造の中に、3次元に電子を閉じ込める量子ドットを縦方向に積層したナノ構造。様々な材料系でナノワイヤレーザのレーザ発振が報告されているが、そのほとんどはナノワイヤの母材(バルク)によるもの。なお、ナノワイヤの形状は、太めの鉛筆の寸法を数万分の1にしたものに対応。
(注2)シリコンフォトニクス:
LSIで成熟したシリコン技術を利用して、シリコンチップ上に微細な光導波路や光スイッチ、光増幅器などの光デバイスと電子デバイスを融合した光集積回路の総称。中でも光源の半導体レーザの小型・高性能化が大きな課題となっている。この分野は現状のコンピューターなどの電気配線による高密度・高速化の限界を破る技術として、近年、実用化が求められている。