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理研と東大、糖・脂質代謝に重要なアディポネクチン受容体の立体構造を解明

2015-04-15

糖・脂質代謝に重要なアディポネクチン受容体の立体構造を解明
メタボリックシンドローム・糖尿病の治療薬の開発へ前進−


【要旨】
 理化学研究所(理研)横山構造生物学研究室の横山茂之上席研究員と、東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授、山内敏正准教授らの共同研究グループ(※)は、メタボリックシンドローム(内臓性脂肪症候群)の「鍵」分子であるアディポネクチン受容体[1]の立体構造の解明に成功しました。
 細胞膜に存在する膜タンパク質は、細胞外からのシグナル(情報)を細胞内へと伝達する重要な役割を担い、創薬の標的として注目されています。アディポネクチン受容体(AdipoR1、AdipoR2)は、メタボリックシンドロームの「鍵」分子として注目されている膜タンパク質です。アディポネクチン受容体は、脂肪細胞から分泌されるホルモンであるアディポネクチン[2]により活性化され、細胞内において、糖と脂質の代謝を促進し、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用を発揮します。しかし、アディポネクチン受容体は、試料調製の困難さからその立体構造情報が得られていませんでした。
 共同研究グループは、大型放射光施設「SPring−8[3]」を用いたX線結晶構造解析により、アディポネクチン受容体の立体構造の解明に成功しました。その構造から現在までに知られている膜タンパク質の構造とは異なる、新規の構造をしていることが分かりました。この結果は、アディポネクチン受容体の情報伝達メカニズムの解明につながるだけでなく、メタボリックシンドローム・糖尿病の予防薬や治療薬の開発に有益な情報となることが期待できます。
 本研究は、文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム、創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業、橋渡し研究加速ネットワークプログラム、科学研究費助成事業などの支援を受けて行われました。成果は英国の科学雑誌『Nature』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(4月8日付け:日本時間4月9日)に掲載されます。


1.背景
 タンパク質の立体構造を知ることは、薬の設計に有用な情報を得ることにつながります。特に細胞膜に存在する膜タンパク質は、細胞外からのシグナル(情報)を細胞内へと伝達する重要な役割を担っているため、薬の標的分子として注目されています。現在使用されている薬の約50%は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)[4]という7回膜貫通型(細胞膜を7回貫通する構造)の膜タンパク質群を標的にしています。
 日本では、高脂肪食や運動不足といった生活環境の変化により肥満者が増加しています。肥満はメタボリックシンドローム(内臓性脂肪症候群)や糖尿病を引き起こす原因になっていると考えられています。日本のメタボリックシンドロームの該当者・予備群は推計で約2,000万人と言われています(注)。
 2003年に東京大学の門脇孝教授らのグループにより発見された膜タンパク質「アディポネクチン受容体(AdipoR1、AdipoR2)」は、メタボリックシンドロームの「鍵」となる分子です。脂肪細胞から分泌されるホルモンであるアディポネクチンのシグナル(情報)を、細胞内に伝える機能を担っています。そのシグナルが細胞内に伝えられると、細胞内で糖や脂質の代謝が促進され、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用が発揮されます。また、アディポネクチン受容体のホモログ(相同体)は酵母からヒトまで広く保存されており、生物全般にとって重要なタンパク質と言えます。
 アディポネクチン受容体の構造は、7回膜貫通型でありながらGPCRとは全く異なるファミリー(共通の祖先を持つタンパク質の集まり)に属し、膜に対する配向性が正反対(タンパク質を構成するアミノ酸の末端が、GPCRでは細胞外であるのに対し、アディポネクチン受容体では細胞内)と推定されていました。また2013年には、門脇教授らにより、アディポネクチンの代わりにアディポネクチン受容体を活性化する低分子化合物が発見され、今後の創薬開発に大きな期待が寄せられているところです。ヒトのアディポネクチン受容体の立体構造や情報伝達機構を解明することは、メタボリックシンドロームの予防薬や治療薬の開発に有益な情報となります。しかし、試料調製の困難さから、立体構造は解明されていませんでした。

 注)厚生労働省ホームページ
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/tounyou/counte.html


2.研究手法と成果

 *添付の関連資料を参照


3.今後の期待
 全く新規の構造を持つ膜タンパク質、アディポネクチン受容体の立体構造情報は、アディポネクチン受容体の作用メカニズムの解明に重要な基礎となると考えられます。また、この立体構造情報に基づいた、メタボリックシンドローム・糖尿病の予防薬や治療薬の研究・開発が進展すると期待できます。


4.論文情報
 <タイトル>
 Crystal structures of the human adiponectin receptors

 <著者名>
 Hiroaki Tanabe, Yoshifumi Fujii, Miki Okada−Iwabu, Masato Iwabu, Yoshihiro Nakamura, Toshiaki Hosaka, Kanna Motoyama, Mariko Ikeda, Motoaki Wakiyama, Takaho Terada, Noboru Ohsawa, Masakatsu Hato, Satoshi Ogasawara, Tomoya Hino, Takeshi Murata, So Iwata, Kunio Hirata, Yoshiaki Kawano, Masaki Yamamoto, Tomomi Kimura−Someya, Mikako Shirouzu, Toshimasa Yamauchi, Takashi Kadowaki, and Shigeyuki Yokoyama

 <雑誌>
 Nature

 <DOI>
 10.1038/nature14301


5.補足説明
 [1]アディポネクチン受容体
 アディポネクチンのシグナルを細胞内へ伝える分子。アディポネクチン受容体には、AdipoR1、AdipoR2が存在し、それぞれ骨格筋、肝臓などに多く発現している。

 [2]アディポネクチン
 脂肪細胞から分泌されるホルモン。抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗炎症作用を併せ持つ分子。肥満では、その血中濃度が低下し、生活習慣病の一因になっている。

 [3]SPring−8
 兵庫県佐用郡の播磨科学公園都市にある世界最高性能を有する大型放射光施設。
 http://www.spring8.or.jp/ja/

 [4]Gタンパク質共役受容体
 ホルモン、神経伝達物質、光や匂いなどのセンサーとして働き、細胞外からの情報を受け取り、細胞内へ伝達する。7回膜貫通型の膜タンパク質である。

 [5]脂質メソフェーズ結晶化手法
 人工脂質二重膜中で膜タンパク質の結晶化を行う新しい技術。生体外で不安定な膜タンパク質の結晶化に適している。理研では、膜タンパク質などの結晶化の難しいタンパク質を対象に、ターゲットタンパク研究プログラムや創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業などにおいて開発を進めてきた。


6.発表者・機関窓口

 *添付の関連資料を参照





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