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東大とNTTなど、新たな仮想網構築と新世代ネットワークアプリケーション実験に成功

2015-04-04

グローバルなマルチドメインプログラマブル高機能仮想網の実現と新世代ネットワーク
アプリケーション実験に成功
〜日米欧連携強化で新世代ネットワーク技術の実用化に向けた研究開発を加速〜


 国立大学法人東京大学大学院情報学環(情報学環長:須藤 修/以下、東京大学情報学環)、日本電信電話株式会社(代表取締役社長:鵜浦 博夫/以下、NTT)、株式会社KDDI研究所(代表取締役所長:中島 康之/以下、KDDI研)、株式会社日立製作所(代表執行役 執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)、日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長:遠藤 信博/以下、NEC)及び富士通株式会社(代表取締役社長:山本 正已/以下、富士通)は、米国ユタ大学(The University of Utah、ソルトレイクシティ市)の協力を得て、独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT)がJGN−X(*1)上で運用するネットワーク仮想化テストベッド(*2)と米国科学財団(以下、NSF)が推進するGENI(*3)テストベッドの一つであるProtoGENI(*4)、欧州テストベッドの一つであるFed4FIRE*5とを相互接続した広域仮想網「日米欧ネットワーク仮想化(*6)テストベッド」を用いて、グローバルなマルチドメイン環境でソフトウェアによってプログラマブルに制御できる新たな仮想網の構築および新世代ネットワークアプリケーション実験に成功しました。
 今回のグローバルなネットワーク仮想化テストベッドの相互接続および新世代ネットワークアプリケーション実験の成果により、従来のインターネットでは実現することのできなかった新しいネットワークサービスに関する新世代ネットワーク技術(*7)の実用化に向けた研究開発の加速が期待されます。
 なお、本成果は、NICTの委託研究「新世代ネットワークを支えるネットワーク仮想化基盤技術の研究開発」の一環によるものです。


1.本研究の背景
 近年、次世代ネットワークとして、ソフトウェアによってプログラマブルに仮想的なネットワークを実現するSDN(Software−Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)の研究開発が盛んに行われています。SDNやNFVを実現する技術の一つであるネットワーク仮想化技術では、ネットワークの構成や機能をソフトウェアにて実現することにより、キャリアネットワークにおいて提供するサービスを柔軟かつ迅速に構成することができる大きなメリットがあります。そのため東京大学情報学環、NTT、KDDI研、日立、NEC、富士通は、NICTの委託研究「新世代ネットワークを支えるネットワーク仮想化基盤技術の研究開発」を共同で進めており、JGN−X上でのネットワーク仮想化技術を用いたテストベッド(ネットワーク仮想化テストベッド)運用を開始しています。
 一方、このようなネットワーク仮想化テストベッドは日本国内だけでなく、北米のProtoGENIや欧州のFed4FIREなど国外でも盛んに研究開発がすすめられています。グローバルな仮想ネットワークの実現に向けて、JGN−X上のネットワーク仮想化テストベッドと米国ProtoGENIネットワーク仮想化テストベッドの相互接続を進めてきました[1]が、さらに広域なグローバルネットワーク仮想化テストベッドの構築と、ネットワーク仮想化技術を生かした新世代ネットワークアプリケーションによる新たなネットワークサービスの創出が課題でした。
 [1]「世界初、プログラマブルな高機能仮想網を日米間でのマルチドメイン環境で実現」 http://www.ntt.co.jp/news2013/1307/130718a.html


2.今回の成果等
 今回、NICTと共同研究を結ぶ米国ユタ大学のキャンパス内に設置されたネットワーク仮想化テストベッドを構成する装置(仮想化ノード(*8))を用いて、ProtoGENIに加えてFed4FIREとの相互接続を行い、日米欧にまたがるグローバルなマルチドメイン網をプログラマブルに制御することに成功(実験<1>)するとともに、5つの新世代ネットワークアプリケーション実験に成功(実験<2>〜<6>)しました。

(1)各組織における実験内容

 ※添付の関連資料を参照


(2)実験結果

<1>日米欧3大陸スライス相互接続(KDDI研/日立/東京大学)(図1)
 複数のネットワーク仮想化基盤を相互に接続するSEPをKDDI研と日立が開発し、3大陸(北米:ProtoGENI、欧州:Fed4FIRE、日本:JGN−X)を跨がるスライス・エクスチェンジを可能にし、世界規模のスライスの即時構築に成功しました。この結果、将来のインターネット利用者に対して、世界規模に跨がる3つのスライスの継ぎ目を感じさせない接続性や利便性を提供できる可能性を実証しました。

<2>次世代映像配信技術(NTT)(図2)
 相互接続された日米間のスライスにて、NTTが中心となり端末やネットワークの状況に応じて映像の圧縮やマルチキャスト機能を仮想ネットワーク上に自動配備する次世代映像配信技術の実証実験を行いました。これは映像視聴端末の増加に応じて自動的にマルチキャスト機能をネットワークに配備したり、トラフィックが混んでいる状況に応じて自動的に映像圧縮機能をネットワークに配備することにより、映像配信サーバやネットワークの負荷を減らすとともに、サービスの中断を最小限にした映像配信サービスを可能とします。今回はJGN−Xにある仮想化ノードと米国ProtoGENIテストベッド内のノードそれぞれに映像圧縮機能とマルチキャスト機能を自動配備し、端末やトラフィックの状況に応じて映像圧縮やマルチキャスト機能が自動的にON/OFFされることを確認しています。

<3>アプリケーション特化QoS制御(東京大学)(図3)
 端末からのパケットに対し、端末デバイス内でユーザが使用しているアプリケーション識別タグを自動的に付加する仕組みを東京大学が中心になって開発し、その識別タグをネットワーク仮想化ノードで検出し、アプリケーションごとに仮想化スライスに収容するネットワーク・アーキテクチャを実現しました。本機能をネットワーク仮想化ノードのスライスに適用し、各スライスでアプリケーションに応じて、QoS制御やトラフィック・エンジニアリングがSDNのフレームワークを使用して実現できることを実証しました。

<4>IPON:IPアドレスによるスイッチング実験(日立)(図4)
 ネットワーク仮想化テストベッド上のスライスにてIPONプロトコルで動作するスイッチからなるIPONネットワークを構成し、そのネットワークに接続した仮想端末間でのIP通信実験を成功させました。IPONプロトコルは冗長なアドレスをIPアドレスに統一するだけでなく、Ethernetとは異なりループ(冗長性)のあるネットワークでも正常に動作することを確認しました。また、IPONスイッチはネットワーク仮想化テストベッド内にある機能を使用して実現したもの、およびネットワーク仮想化テストベッドの機能を拡張するためのハードウェアとソフトウェアからなるプラグイン・アーキテクチャを使用して実現したもの双方を使用し、共に正常動作を確認しました。

<5>スライス内でのIPSによる通信制御実験(NEC)(図5)
 ネットワークのプログラマビリティの検証のために、JGN−X上の仮想化テストベッドにてスライスを作成し、そのスライス内で1Gbpsを超える通信トラフィック環境において、クライアントからの動画ストリーミングアクセスに対する、ソフトウェアベースIPSと仮想OpenFlowスイッチvOFSによる経路制御の実証実験を行ないました。
 今回は動画ストリーミングサービスへのアクセスに対して経路制御を実施しています。ソフトウェアベースのIPSにてURL中の文字列をチェックして正常なアクセスであるか否かを判断し、判断情報を基にして正常であれば正しいコンテンツサーバへ接続し、不正アクセスの場合は別コンテンツを提供するサーバへ接続するよう、vOFSにより経路制御を実施します。さらに、IPSによって判定済みのトラフィックについては、それ以降IPSを経由しないような経路制御も実施します。今回の実証実験により、Gbpsレベルの通信トラフィック環境において、IPSとvOFSとの組み合わせによるトラフィック識別と経路制御が正しく行われ、正常な場合に問題無く動画ストリーミング再生ができることを確認しました。

<6>ユーザ移動先を追随するデータ配置機能による応答性能の向上実験(富士通)(図6)
 ユーザの位置を検知して、ユーザが利用するデータをユーザの近くの仮想化ノードに事前配置することで、ユーザアクセスの応答性能の向上を図る技術の検証実験を行いました。
 実験では、JGN−X上の仮想化ノードを使って、通信キャリアの無線アクセスポイント、エッジノードおよびコアノードを模擬したネットワーク環境を構築し、ユーザのモバイル端末が無線アクセスポイント間を移動するケースを想定した実験を行いました。各仮想化ノードには、“ユーザ移動先の検出”と“移動先を追随してデータ再配置”を行う通信制御アプリケーションを配備しました。この通信アプリケーションの連携により、ユーザが移動した場合に移動先の仮想化ノードを検出し、ユーザに近い仮想化ノードにすばやくデータを移動・配置することができ、ユーザがデータにアクセスできることを確認しました。

 なお、これらの成果は、2015年3月16日〜17日に電子情報通信学会主催のネットワーク仮想化研究会[会場:NICT小金井]および2015年3月24日16:30(米国現地時間)にGENI主催のネットワーク仮想化テストベッドに関する研究者向けカンファレンスGEC22(The 22nd GENI Engineering Conference)[会場:米国ジョージワシントン大(ワシントンDC)]において、デモンストレーションにて紹介しました。


3.今後の取り組み
 2015年3月までの委託研究期間において、先進的ネットワーク仮想化基盤技術の確立を達成しました。今後は更なる広域なグローバル相互接続実験および高度な次世代ネットワークアプリケーション実験について関係組織の連携のもと研究開発に取り組んでいくとともに、標準化を通してSDN/NFV技術への貢献を行っていきます。


■用語解説

*1 JGN−X
 NICTの整備する新世代ネットワークのためのテストベッド(実際の運用環境に近い試験用のプラットフォーム)。NICTでは前身の通信・放送機構の頃(1999年度)から研究開発テストベッドネットワーク『Japan Gigabit Network』(JGN)の運用を開始し、一貫してネットワーク技術の実証を志向したネットワークテストベッドを整備してきており、2011年4月、NICTのネットワーク研究の柱となる新世代ネットワーク技術の実現とその展開のための新たなテストベッド環境として、新世代通信網テストベッド『JGN−X』(JGN eXtreme)を構築、運用を開始している。
参考URL:「JGN−Xとは?(NICT)」http://www.jgn.nict.go.jp/ja/info/what-is-jgn-x.html

*2 ネットワーク仮想化テストベッド
 ネットワーク仮想化技術の技術開発・実証実験のためのテストベッド。JGN−X上のネットワーク仮想化テストベッドは、ネットワークを構成するルータやスイッチ等のハードウェアの計算機資源(通信帯域、メモリ、CPU等)を論理的に分割して仮想的に複数のネットワークを生成する機能を有する。このテストベッドを用いて広域ネットワーク実験や既存のネットワークでは実現できない環境(非インターネットプロトコル環境等)でのネットワーク技術の検証が可能である。

*3 GENI(Global Environment for Network Innovations)
 2005年に基本設計の検討を開始したNSFが支援する長期的ネットワークテストベッドプロジェクト。新しいインターネット構成やネットワークサービスの研究開発を促進するため、複数のネットワーク実証実験が同時かつ独立に遂行できるネットワーク共通基盤テストベッドの開発を目指している。

*4 ProtoGENI
 GENIの主要なプロジェクトの一つであり、ユタ大学を中心に研究開発された全米に広がるInternet2にバックボーンを持つテストベッドプロジェクト。仮想ネットワーク(スライス)を動的に構築し、プログラムを自由に導入することで、新世代ネットワークの実証実験が可能。日本の仮想化ノードとは、構成技術は異なる。

*5 Fed4FIRE
 イギリス、ドイツ、フランス、ベルギー、スペイン、ギリシャ、アイルランド、ハンガリー、オーストラリア、韓国が参加するヨーロッパを中心とした将来インターネットに関する研究や実証実験を行うプロジェクトである。欧州を中心とする様々な研究組織やネットワークとの連携(フェデレーション)を推進するための枠組みが一つの特長となっており、この枠組みの延長として、今回、方式の異なる日本の仮想化基盤とも連携を実証した。

*6 ネットワーク仮想化(技術)
 仮想化技術等を用いてネットワークを構成するルータやサーバ等のハードウェアのCPU処理能力や記憶容量等の物理資源を論理的に分割し、これらの資源を任意に組み合わせることで、独立で自由に通信プロトコルを書き換え可能な論理ネットワークを複数共存させる技術。この発表資料においては生成された論理ネットワークをスライスと呼ぶ。

*7 新世代ネットワーク(技術)
 今後新たに出現するであろう、技術的更には社会的要求にこたえられる、現在のインターネット技術にかかわらない、新しい概念に基づくネットワーク。顕在化する社会問題を解決し、人や社会の潜在能力を開花させ生活の質や生産性を向上させる新しい価値観を創造することを目指した、未来社会を支えるネットワークで、現在のインターネット技術にとらわれず、白紙から解法を検討するアプローチで研究開発が行われている。
 参考URL:「新世代ネットワークプロジェクト(NICT)」http://www.nict.go.jp/nrh/index.html

*8 仮想化ノード
 仮想ネットワークを複数独立に構築するためのシステム。具体的にはルータ、スイッチ、サーバやネットワークプロセッサ等から構成される。2008年度から2010年度に、NICT、東京大学、NTT、NEC、日立及び富士通研究所の共同研究により研究開発が行われ、2011年度からは、NICTの委託研究としてKDDI研究所が加わって、次世代の仮想化ノードの研究開発を行っている。
 参考URL:新たなネットワークの実現を支えるネットワーク仮想化ノードの実証実験を産学官で開始(2010年3月30日)http://www.nict.go.jp/press/2010/03/30-1.html

*9 スライス
 ネットワーク仮想化技術を用いて生成される論理的なネットワーク。

*10 SEP(Slice Exchange Point)
 インターネットにおけるIX(Internet eXchange)の様に、複数の異なるネットワーク仮想化基盤の間において、スライスを相互に接続するためのスライス接続機構。KDDI研、日立、東大が2012年にGECで提唱を始め,2014年よりGENIで同様の機構の普及が開始。

*11 IPS(Intrusion Prevention System)
 ネットワークを流れるパケットを監視し、不正侵入を防止するシステム。専用アプライアンス機器によるものと、ソフトウェア制御によるものに大別される。

*12 vOFS(virtual OpenFlow Switch)
 仮想ネットワーク上に構築したOpenFlowネットワークにおける、仮想的なOpenFlowスイッチ。


■日米欧ネットワーク仮想化テストベッドの相互接続
 日米欧のネットワーク仮想化テストベッドの相互接続のために、日本の仮想化ノードシステムの一部を、ユタ大学キャンパス(米国ユタ州ソルトレイクシティ市)に設置して、米国ProtoGENIテストベッドおよび欧州Fed4FIREテストベッドとの接続を実現するとともに、複数の新世代ネットワークアプリケーション実験に成功しました。
 これにより、一つの物理ネットワーク上で複数の異なるネットワークサービスが相互に影響を与えず、あたかも別々のネットワークが存在するような状況を日米欧間に作ることが可能となり、今後、ネットワークの新しい利用のための研究開発が国際的な視点で進展することが期待されます。


 ※図1〜図6は添付の関連資料を参照




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