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茨城大、環礁国ツバルに最適な生活排水の処理方法を考案

2014-07-22

環礁国ツバルに最適な生活排水の処理方法を考案
海水中の硫酸塩、潮の干満を利用して低コスト化も実現


<ポイント>

 >環礁国のツバルでは、底なしの合併浄化槽、ピット式トイレから汚染水が海岸に流れ出し、その汚染が有孔虫(ホシズナ)(注1)の生育にも大きな影響を及ぼしていました。
 >本研究は、こうした生活排水が、海水中の硫酸塩を利用することで処理できることを実験で確かめました。さらに、潮の干満を利用すれば、従来の処理方法と比べてコストがかなり安く抑えられる見込みです。
 >ツバルの底なしの合併浄化槽、ピット式トイレが、工夫すればそのまま有効な処理設備になります。また、これらのノウハウをシステム化した仕組みを特許として出願し、環礁国だけでなく他の開発途上国や日本での適用も模索します。

 茨城大学工学部都市システム工学科の藤田昌史准教授らの研究グループは、生活排水に含まれる有機物を分解するため、海水を用いる新たな処理システムを考案しました。このシステムは、生活排水中の有機物を、海水中に含まれる硫酸塩を用いて分解するもので、酸素の少ない状態で行うことから汚泥を出さず、潮の干満を利用して流入・排水を行う機構のため、開発途上国向けの低コスト技術として注目を集めています。
 南太平洋の環礁国ツバルでは、フォンガファレ島の狭い土地に行政機関や住宅、ホテルなどが集中し、生活雑排水やトイレなど生活排水の処理には合併浄化槽やピット式トイレなどを用いています。しかし、それらの底部にふたなどはなく、そのまま下排水が土壌中に浸透していく方式でした。
 藤田准教授のグループは、東京大学の茅根創教授らSATREPSプロジェクトの研究グループから「海岸の水質汚濁と有孔虫の生育の関係を調べて欲しい」と依頼され、2010年春から現地で活動を開始しました。これまでの調査で、汚濁の原因が底なしの合併浄化槽にあり、満潮時に底部から海水が浸透し、干潮時に汚水が漏れ出していることを突き止めました。こうした汚濁が、ホシズナとして知られる有孔虫の生育にも影響を及ぼしている可能性が高いと考えられています。
 さらにグループでは、ツバルの環境に適合した生活排水処理システムについて研究を進め、底なしの合併浄化槽をそのまま活かした新しいシステムを考案し、実験室での検証を行いました。海水に含まれる硫酸塩を利用することにより有機物の分解が確かに進むこと、この細菌を担体に吸着させれば海水と一緒に漏出しないことを実証しました。
 茨城大学は国内特許を申請し、ツバルのような環礁国だけでなく、衛生施設が普及していない開発途上国や日本の沿岸部でも利用できないか、企業とも相談しながら利用先の模索を続けていきます。


<研究の背景と経緯>

1.環礁国の沿岸水質汚濁・汚染と国土形成維持の危機

 中部太平洋にはツバルなどに属する環礁が数多く存在します。小さな島国ツバルは、9つの環礁・島から構成されており、最大標高が3m程度のとても低平な地形です。そのため、近年の地球温暖化にともなう海面上昇により、水没の危機に瀕していると懸念されています。ツバルの国土の3分の2は石灰質の殻を作るホシズナなどの有孔虫の死骸から構成されており、有孔虫やサンゴなどによる砂生産が国土の形成維持に大きな役割を果たして来ました。
 しかしながら、調査を続けるうちに、近年の人口増加や経済発展を背景に、海岸地形の人工的な改変に加え、生活排水や廃棄物などのローカルな問題が有孔虫生産力の低下を招いていることがわかってきました。

2.ツバルの沿岸水質汚濁・汚染の現状と機構

 ツバルには沿岸における水質データがほとんどありませんでした。そこで、高人口密度地域のフォンガファレ島中央部のラグーン側の海岸で、水質汚濁・汚染の現況やメカニズムを調査しました。多項目水質計を用いて連続観測したところ、水深約1m程度の海底付近では海水の酸化還元電位が−61mVに達するほどの水質汚濁が見られました。このような負の酸化還元電位は下水処理施設の嫌気槽で見られるレベルですので、清澄なはずのサンゴ礁海岸でこのような値が観測されたのは極めて驚きです。また、この砂の中の微生物を調べたところ、自然の海岸の砂よりも約5倍も微生物含有量が多いことや、どのような微生物がどの程度の割合で存在するかを意味する微生物相は実質的に異なるうえに多様性も相対的に低いことがわかり、水質汚濁が慢性化していることがわかりました。ラグーン海岸で糞便汚染指標である大腸菌を測定したところ、潮位変動と連動して最大で約27,000MPN/100mLも検出されました。これは日本の環境基準(大腸菌群1,000MPN/100mL)を大幅に超えるものであり、健康リスクの観点でも注意を要することが示されました(図−1)。
 フォンガファレ島の人口は4,492人であり、639軒の住居があることが報告されています。下水処理場のような集合処理施設はありませんが、424軒(67%)は生活雑排水とトイレ排水を受け入れるSeptic tank(腐敗槽)(注2)と呼ばれる簡易浄化槽が地中に埋設されています。ただし、日本のように送風して好気性処理(注3)を行う装置ではなく、沈殿処理のみを行っているに過ぎません。残りの163軒(26%)はPit toilet(ピット式トイレ)と呼ばれる土壌浸透式トイレが使用されています。つまり、92%の住居は国連ミレニアム開発目標(注4)に記載されている衛生施設を所有していました。しかしながら、Septic tank(腐敗槽)の底部は施工されておらず、ピット式トイレも含めてすべてボトムレスでした。
 大潮の干潮時にラグーン側の海岸で硫化水素臭のする灰色砂が観察されました。また、この地点と住居の間の砂浜を約50cm掘ったところ、同様の灰色砂が出現しました。海水に含まれる硫酸塩と生活排水に含まれる有機物により硫酸塩還元反応が起こった結果と考えられます。環礁の地盤は透水性が高いことから、満ち潮のときにSeptic tank(腐敗槽)内に海水が浸入し、引き潮のときに地中を通じて生活排水が海岸に流出しており、これが主要な水質汚濁の機構であると結論づけました。
 さらに、この生活排水の流出経路の灰色砂の重金属含有量を調べました(表−1)。Cuは160.0−564.0ng/g、Znは87.3−1440ng/g、Pbは240.0−680.0ng/gを示しました。一般的な重金属汚染と比べると濃度は低いですが、環礁の自然砂の重金属含有量は極めて低い(Cu=9.6ng/g、Zn=34.9ng/g、Pb=20.7ng/g)ことに留意する必要があります。そこで、HakansonのContamination Factor(CF)といった既存の指標を用いて重金属汚染度を評価したところ、著しい汚染があると判定されました。もともと環礁の砂は、岩盤由来の砂ほど重金属が含まれておりませんが、流出した生活排水に含まれる重金属により汚染されたものと考えられました。


3.気候風土に適した排水処理技術の可能性

 先進国では、一般的に下水処理施設が導入されています。下水管を整備することにより発生源から排水を集めて処理されます。効率よく処理するためにエアレーション(注5)が行われますが、ランニングコストがかかるとともに、好気性処理のため余剰汚泥(固形廃棄物)が発生します。環礁国では、低平な地形のため下水管の勾配が確保できないため、自然流下による下水の輸送が困難です。また、エアレーションに要するエネルギー・コストの確保や生成した固形廃棄物の処理・処分、運転管理スキルなどの問題もあります。そのため、下水処理施設は現段階の環礁国には向かないと考えられます。
 南太平洋地域の環礁国では、オーストラリアなどの支援を受けてSeptic tank(腐敗槽)を導入しているケースが多く見られます。ツバルで見られたように、本来の仕様書に反し、維持管理上の簡便性からボトムレスで施工されている例も多くあると考えられますが、この不完全な既存インフラをマイナーチェンジして有効活用できれば、この地域の風土に適した排水処理技術が完成する可能性があります。

 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
 ・研究の内容
 ・今後の展開
 ・プロジェクトの概要
 ・参考図
 ・用語解説
 ・論文タイトル
 ・特許出願


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