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理化学研究所、C型肝炎ウイルスが肝線維化を進行させるメカニズムを解明

2013-12-03

C型肝炎ウイルス(HCV)が肝線維化を進行させるメカニズムを解明
−ウイルスタンパク質が宿主タンパク質に代わり線維化シグナルを活性化−


<ポイント>
 ・HCVのNS3プロテアーゼが宿主のTGF−βと同じ役割を果たす
 ・NS3プロテアーゼとTGF−β受容体との結合を中和する抗体が肝線維化を抑制
 ・肝線維症の発症メカニズムの理解や、新しい診断法、治療・予防法の開発に貢献

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、C型肝炎ウイルス(HCV)[1]が持つタンパク質の1つ「NS3プロテアーゼ[2]」が、宿主(肝細胞)の形質転換成長因子(TGF−β)[3]に代わって、肝臓内の結合組織を増加させるシグナルを活性化させ肝線維化が進行するという新たな分子メカニズムを解明しました。これは、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター(CLST、渡辺恭良センター長)微量シグナル制御技術開発特別ユニットの小嶋聡一特別ユニットリーダーと坂田幸大郎連携促進研究員、CLST構造・合成生物学部門、理研創薬・医療技術基盤プログラム(DMP)と、国立感染症研究所、山梨大学、浜松医科大学東京慈恵会医科大学慶應義塾大学、湧永製薬による共同研究グループの成果です。

 肝線維症は、肝臓内でコラーゲンなどの細胞外基質が過剰に蓄積し、それらが結合した組織が増加(肝線維化)する疾患です。肝線維化が進行すると肝硬変や肝がんになり、死に至る場合もあります。肝線維症の多くは、HCV感染が原因とされていますが、これまでHCVが肝線維化を進行させる仕組みは十分に解明されていませんでした。

 共同研究グループは、TGF−βが特定のタンパク質分解酵素(セリンプロテアーゼ)の作用により不活性な潜在型から活性型へと変換される仕組みを解明する過程で、HCVが持つNS3プロテアーゼそのものがTGF−βによく似た活性(TGF−β疑似活性)を示すことを発見しました。さらに、NS3プロテアーゼがTGF−β受容体と直接結合して肝線維化を進行させるシグナルを活性化することも明らかにし、この結合を中和する抗体をHCVに感染させたヒト肝細胞移植キメラマウス[4]に投与した結果、肝線維化の進行を抑制することを見いだしました。

 今回の発見は、HCVによる肝線維症の発症メカニズムの理解や、新しい診断法、治療・予防法の開発に貢献すると期待できます。

 本研究成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(11月22日付け:日本時間11月22日)に掲載されました。


<背景>
 肝線維症は、主に肝炎ウイルス(主にB型とC型)の感染やアルコールの過剰摂取、肥満による脂肪肝などが原因で発症し、肝臓内にコラーゲンなどの細胞外基質が過剰に蓄積し、それらが結合した組織が増加(肝線維化)する疾患です。肝線維化が進行すると、肝硬変や肝がんになり、死に至る場合があります。肝線維症の多くはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染に起因することが報告されています(出典:国立感染症研究所ホームページ)。しかし、HCVが肝線維化を進行させるメカニズムについては十分に解明されていませんでした。

 近年、HCVに対する抗ウイルス剤が盛んに使用され一定の成果は得られていますが、ウイルス制圧後の肝がん発症の問題や、肝線維化の進行度によって肝がん発症リスクが高まることなどが報告されていることから、HCVが関わる肝線維症の詳細な発症メカニズムの解明や新たな治療法、予防法の開発が求められています。


<研究手法と成果>
 肝線維化を進行させる「TGF−β」が知られています。TGF−βは、まず不活性な潜在型として産生されます。その後、特定のタンパク質分解酵素(セリンプロテアーゼ)などによって活性型へと変換されます。

 共同研究グループは、セリンプロテアーゼがTGF−βを活性型へと変換するメカニズムに基づく肝線維症の新規診断法、治療・予防法の開発を行っています。その過程で、「HCVが持つセリンプロテアーゼNS3(NS3プロテアーゼ)がTGF−βの活性型への変換に作用し、肝線維化を進行させているのではないか」という仮説を立てました。しかし、その仮説を検証したところ、間違っていることが分かりました。

 しかし、さらに検証を進めたところ、NS3プロテアーゼそのものが、TGF−βによく似た活性(TGF−β疑似活性)を示すことが分かりました。また、NS3プロテアーゼが肝細胞表面にあるTGF−βII型受容体と直接結合し、肝線維化を進行させるシグナル(Smad)を活性化することも分かりました(図1)。

 次に、NS3プロテアーゼのTGF−β疑似活性がTGF−βI型受容体の機能を阻害する薬剤によって抑制されたことから、NS3プロテアーゼがTGF−βI型受容体とどのように相互作用するのか調べました。その結果、肝細胞にHCVが感染した後、NS3プロテアーゼがTGF−βI型受容体と結合することが分かりました。

 続いて、NS3プロテアーゼの結合様式について、分子シミュレーションを行ったところ、NS3プロテアーゼとTGF−βI型受容体は3つの部位で結合することが予測されました(図2)。そこで、この予測結合部位を認識し、NS3プロテアーゼとTGF−βI型受容体との結合を阻害する抗NS3抗体を作製しました。ヒトの肝細胞を移植したキメラマウスにHCVを感染させて、上記抗体がHCV感染による肝線維化を抑えることができるのかを調べました。その結果、HCVを感染させたヒト肝細胞移植キメラマウスに見られたコラーゲン線維の蓄積が抗NS3抗体を投与することで抑制されました(図2)

 以上の結果から、(1)HCVが肝細胞に感染した後、(2)NS3プロテアーゼがTGF−β受容体と結合(TGF−β疑似活性)して、(3)線維形成シグナル(Smad)を活性化し、(4)コラーゲン、TGF−βの遺伝子発現が上昇することで、(5)肝線維化が進行するというメカニズムが分かりました(図1)。


<今後の期待>
 今回、HCVが持つNS3プロテアーゼが宿主(肝細胞)の病因タンパク質であるTGF−βに代わって、線維形成シグナルを活性化し、肝線維化が進行するという、新たな分子メカニズムを解明しました。

 今後は、HCV感染患者における血中のNS3濃度を検出する測定系の開発や、抗NS3抗体を臨床応用することで、肝線維症の早期発見や予防・治療の確立に寄与すると期待できます。


<原論文情報>
 ・Kotaro Sakata,Mitsuko Hara,Takaho Terada,Noriyuki Watanabe,Daisuke Takaya,So−ichi Yaguchi,Takehisa Matsumoto,Tomokazu Matsuura,Mikako Shirouzu,Shigeyuki Yokoyama,Tokio Yamaguchi,Keiji Miyazawa,Hideki Aizaki,Tetsuro Suzuki,Takaji Wakita,Masaya Imoto and Soichi Kojima,“HCV NS3 protease enhances liver fibrosis via binding to and activating TGF−β type I receptor”,Scientific Reports,2013,doi:10.1038/srep03243


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 ライフサイエンス技術基盤研究センター http://www.riken.jp/research/labs/clst/
 生命機能動的イメージング部門 http://www.riken.jp/research/labs/clst/biofunct_dyn_img/
 イメージング応用研究グループ http://www.riken.jp/research/labs/clst/biofunct_dyn_img/img_app/
 微量シグナル制御技術開発特別ユニット http://www.riken.jp/research/labs/clst/biofunct_dyn_img/img_app/microsignal_reg/
 特別ユニットリーダー 小嶋 聡一(こじま そういち)


 ※以下の資料は、添付の関連資料を参照
  ・補足説明
  ・図1 C型肝炎ウイルスの感染による肝線維化の進行メカニズム
  ・図2 HCV感染マウスにおける抗NS3抗体のコラーゲン蓄積抑制作用


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