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東大、「太陽の影」が太陽活動の11年周期と相関して変化していることを発見

2013-07-18

銀河宇宙線中の「太陽の影」でさぐる太陽磁場構造



【発表者】
 湯田 利典(東京大学 名誉教授)
 瀧田 正人(東京大学 宇宙線研究所 准教授)
 大西 宗博(東京大学 宇宙線研究所 助教)
 川田 和正(東京大学 宇宙線研究所 特任助教)


【発表のポイント】
 ◆銀河宇宙線が太陽によって遮られる現象「太陽の影」が、太陽活動の11年周期と相関して変化していることを発見した。
 ◆「太陽の影」を利用して太陽近傍の磁場構造の検証を行った世界で初めての成果である。
 ◆私たちの住む太陽圏の磁場構造の理解は、人類の宇宙進出を支える基礎知識を構築する上で重要であり、本研究成果は、太陽圏の磁場構造を探るための新手法を提供するものである。


【発表概要】
 人類の宇宙進出には、地球と太陽間の磁場構造を理解することが重要である。しかし、太陽表面から地球の間の磁場は直接観測することは難しく、これまでユリシーズボイジャーなどの宇宙探査機による観測があるものの、太陽近傍は高温・高放射線の過酷な環境であるために最新の宇宙探査機であっても近づけず、その理解が十分ではない。
 東京大学宇宙線研究所を中心とする国際研究グループ(チベットASγ実験)(注1)は、地球に届く銀河宇宙線(注2)が太陽によって遮られる現象、「太陽の影」を1996年から2009年まで観測して解析し、その大きさが11年の太陽活動周期(注3)と相関して変化していることを発見した。また、「太陽の影」の変化を利用して、太陽近傍の磁場構造を予測する2つの理論モデルを検証した結果、太陽近傍の電流(注4)が磁場構造に与える影響を考慮したCSSSモデルが「太陽の影」の実験結果をよく再現することが分かった。これは、銀河宇宙線中にできる「太陽の影」を用いて太陽近傍の磁場構造の検証を行った世界で初めての成果である。
 この成果は、太陽磁場構造をさぐるための新しい手法を提供するものであり、今後、観測精度をあげることで、より詳細に太陽の磁場構造を診断できるようになると期待される。
 なお、本研究は、14年間にわたる宇宙線データの蓄積と、電荷(注5)を持つ宇宙線が磁場中で曲げられることを利用したもので、長期間の宇宙線の連続観測により可能となった。


〔設置場所:中国チベット自治区羊八井(ヤンパーチン)標高4300メートル〕

 ※添付の関連資料「参考資料」を参照


【発表内容】
<研究背景>
 地球に磁場があるように、太陽にも北極と南極をもつ強大な磁場が存在する。さらに太陽−地球間を含む惑星間空間(注6)には、太陽から吹き出る太陽風と呼ばれるプラズマ流(注7)とそれに付随する大規模な磁場構造が存在し、ほぼ11年の太陽活動周期で南北の極を入れ替えながら変動を繰り返している。この太陽圏の磁場構造は、1958年にパーカーの提唱によって、太陽表面から出た磁場が太陽風に乗って惑星間空間を伝わり太陽圏全体を複雑に満たしているものと考えられている。太陽表面の磁場は、特殊な光学望遠鏡で詳細に観測することができ、近年の「ひので衛星」などの観測で目覚ましい成果を挙げている。また、人工衛星によって地球衛星軌道上の磁場の直接観測も行われている。しかし、太陽表面から地球の間の磁場は直接観測が難しく、様々な理論モデルよって推定されているのが現状である。惑星間空間の磁場の観測としては、宇宙探査機であるユリシーズボイジャーなどにより、太陽から離れた場所の観測があるものの、特に太陽近傍は高温・高放射線の過酷な環境であるために最新の宇宙探査機であっても近づくことができず情報が不足している。

<研究内容>

 ※図1は添付の関連資料「参考資料」を参照


 東京大学宇宙線研究所を中心とする国際研究グループ(チベットASγ実験)は、中国チベット自治区の標高4300メートルの地点に、高エネルギーの宇宙線を観測する「チベット空気シャワーアレイ」(図1)を設置し、宇宙線の方向とエネルギーを常時モニターしている。これらの高エネルギー宇宙線は、私たちの住む"天の川銀河"で生成され何百万年もかけて地球に到来する(銀河宇宙線)。太陽方向から到来する銀河宇宙線を観測すると、太陽によって遮られるために、宇宙線の数の減少が見られる。これを「太陽の影」と呼ぶ(図2)。

 ※図2は添付の関連資料「参考資料」を参照


 通常私たちの見る太陽は明るく輝いて見えるが、太陽方向を宇宙線観測装置で観測するとダークスポット「太陽の影」として観測されるのである。この「太陽の影」を1996年から2009年まで連続的に解析した結果、「太陽の影」の大きさが11年の太陽活動周期と相関して変化していることを発見した(図3)。これは11年周期の太陽活動の変化とともに太陽磁場構造も変化している可能性が高い。

 ※図3は添付の関連資料「参考資料」を参照


 銀河宇宙線の主成分である陽子はプラスの電気を帯びているために、電気的に中性な光とは異なり、太陽の近くを通るとその強大な磁場によって曲げられる。つまり、太陽磁場構造に変化があると、銀河宇宙線中にできる「太陽の影」にも変化が現れる。一方で、地球からはほぼ同じ大きさに見える月によっても宇宙線が遮られ「月の影」が観測される。しかし、月にはほとんど磁場が存在しないために「月の影」の大きさは常に一定である。本研究では、この太陽磁場構造の変化に伴う「太陽の影」の変化を利用し、太陽近傍の磁場構造を予測する2つの理論モデルの検証を行った。一つは太陽近傍を流れる電流は局所的には磁場構造に影響しないとするPFSSモデルで、他方は電流が磁場構造に反映するように構築されたCSSSモデルである(図4)。

 ※図4は添付の関連資料「参考資料」を参照


 これらの2つの磁場モデルを用いて、地球太陽間の銀河宇宙線の軌道をコンピュータ・シミュレーションした結果(図5)、CSSSモデルの方が「太陽の影」の実験結果を良く再現することが分かった(図6)。宇宙探査機ユリシーズが観測した太陽から遠く離れた磁場構造もCSSSモデルの方がよく再現することが知られており、この結果を強力にサポートする。

 ※図5、6は添付の関連資料「参考資料」を参照


 これは銀河宇宙線中にできる「太陽の影」を利用して、太陽近傍の磁場構造の検証を行った世界で初めての成果である。今回の成果は、14年間に渡る宇宙線データの蓄積と、電荷を持つ宇宙線が磁場中で曲げられることを利用したもので、長期間の宇宙線の連続観測が鍵となった。

<社会的意義と今後の予定>
 地球−太陽間の磁場構造の理解は、人類の宇宙進出を支える基礎知識の構築にとって重要である。太陽活動に伴う太陽風の擾乱や太陽フレアに伴う高エネルギー放射線の到来などを予測する宇宙天気予報や、それらが地球環境に及ぼす影響などの研究が盛んに行われている。本研究成果は、まだ謎の多い惑星間空間の太陽磁場構造をさぐるための新手法を提供する。本研究では銀河宇宙線中にできる「太陽の影」の大きさの変化に注目したが、「太陽の影」の位置や形の変化からも、太陽磁場構造の情報を引き出すことが可能である。今後、更に観測精度をあげることで、多様な太陽磁場構造の理論モデルの検証が可能となると期待される。


 ※以下、発表雑誌・用語解説などは添付の関連資料を参照

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