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ヤクルト、乳酸菌やビフィズス菌の代謝物が腸管上皮細胞の増殖に影響することを解明
乳酸菌やビフィズス菌の代謝物が腸管上皮細胞の増殖に影響
〜フランス パスツール研究所とヤクルト中央研究所の共同研究で解明〜
株式会社ヤクルト本社(社長 根岸 孝成)では、フランス パスツール研究所との共同研究の成果として、乳酸菌やビフィズス菌の代謝物が腸管上皮細胞の増殖に影響を及ぼしていることを明らかにしました。本研究結果は、米国で出版されているオンライン版の学術誌「PLOS ONE」(プロスワン)で4月30日に公開されました。
なお、本内容はヤクルト本社、パスツール研究所、ダノン・リサーチで継続している共同研究の成果です。
記
1.背景
ヒトの腸管内には多種多様な微生物が存在し、複雑な微生物生態系(腸内フローラ)が形成されています。これらの微生物群集は、食物の分解、生体内・生体外成分の代謝、ビタミンの産生、免疫力の活性化、病原微生物の増殖抑制等のさまざまな生理活性を有しており、ヒトの健康と密接な関係があると考えられています。
一方、腸管では、数日で新たな上皮細胞に入れ替わるターンオーバーが絶えず行われていますが、このことが腸管に感染する病原微生物の感染防御において重要とされています。これまで無菌マウスによる研究では、腸内フローラが腸管上皮細胞の増殖や分化の調節に重要な役割を担っていると考えられてきましたが、それらのメカニズムについては、ほとんどわかっていませんでした。
本研究では、腸内フローラが腸上皮細胞の増殖をどのように制御しているのかを解明するために、腸内フローラを有用菌が優勢な状態に導く乳酸菌やビフィズス菌と、腸管上皮細胞の共培養実験により、腸管上皮細胞の細胞周期に影響する因子の同定と、それに関与する遺伝子について解析を行いました。
2.研究内容と今後の展開
フランス パスツール研究所とヤクルト中央研究所が共同で行った研究内容は以下のとおりです。
まず、Caco−2細胞(ヒト結腸癌由来上皮細胞株)と乳酸菌やビフィズス菌を共培養し、遺伝子発現の変化を解析したところ、増殖(細胞周期)や細胞の分化に関与する遺伝子が影響を受けていることが明らかになりました。この結果は、乳酸菌やビフィズス菌が腸管上皮細胞の増殖・分化に影響を与えることを示唆しています。
次に、m−ICcl2細胞(マウス小腸由来上皮細胞株)との共培養実験の結果、乳酸菌はサイクリンE1を、ビフィズス菌はサイクリンD1の遺伝子発現を抑制して増殖速度を低下させること、サイクリンの発現抑制に関わる因子は乳酸菌やビフィズス菌が産生する酢酸および乳酸であること、乳酸・酢酸が腸管上皮の細胞周期に与える影響は周囲の酸性度(pH)により異なること、が明らかになりました。
今回得られた成果は、腸管上皮細胞の細胞周期における、乳酸菌やビフィズス菌単独での影響をみたものです。したがって、今後は、腸内フローラ全体として細胞周期の調節に関わる機構の解明や、生体内における影響にどのように関わっているかを検討することが必要となります。
なお、当社は、パスツール研究所に2008年から研究員を派遣し、パスツール研究所およびダノン・リサーチと共同研究を実施してきました。現在も研究員を1名派遣し、共同研究を進めています。今後も引き続き、腸内細菌やプロバイオティクスが宿主の健康に与える影響を解明するための基盤研究を推進していきます。
3.パスツール研究所 Phillipe J.Sansonetti教授のコメント
パスツール研究所 Phillipe J.Sansonetti(フィリップ・J・サンソネッティ)教授は、「我々は、プロバイオティクスとそのターゲットとなる腸管上皮細胞との間のクロストークの分子基盤を確立するために、細胞微生物学アプローチを取り入れて検討を行いました。このアプローチは、プロバイオティクスが含まれる微生物群集と腸管上皮細胞の間の共生関係の基礎的メカニズムを解明するために不可欠と考えています。乳酸菌が腸管上皮細胞の細胞周期をブロックして上皮細胞の成熟を早める可能性やこの過程に至るメカニズムを解明することは、腸管上皮の成熟におけるプロバイオティクスの重要な機能に光を当てるものであると考えています。」とコメントされています。
4.ヤクルト本社にとっての本研究の意義
当社中央研究所長の石川文保は、「ルイ・パスツール博士から続く世界有数の生物学・医学研究機関であるパスツール研究所と、ヤクルトの創始者である代田 稔 博士の考えを受け継ぎ、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスや腸内細菌等に特化した研究を発展させてきた当研究所は、お互いの利点を生かして協力して研究を継続しています。本内容は、プロバイオティクスの代謝物が腸管上皮細胞の増殖に及ぼす影響を細胞生物学的に明らかにした重要な基礎研究成果の一つです。我々は今後さらに研究を発展させ、腸内細菌と健康との関係の解明に繋げたいと考えています。」とコメントしています。
以 上
〔参考〕「PLOS ONE」(プロスワン)の当該論文掲載URL
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0063053