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慶大など、小中学校の学級規模の縮小は必ずしも学力の格差解消にはつながらないなど研究成果を発表

2013-05-14

小中学校の学級規模の縮小は、必ずしも学力の格差解消にはつながらない
〜学力テストの得点分析による研究成果〜


 慶應義塾大学経済学部赤林英夫教授(教育経済学)と日本学術振興会特別研究員(PD)の中村亮介(2013年3月まで慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程)は、情報開示請求により提供を受けた全国学力・学習状況調査(全国学テ)と横浜市学習状況調査の学校別平均点データを利用して、学級規模の縮小が学力の伸びに与える影響を分析し、国際的専門誌で公表しました。
 分析の結果、小学6年生・中学3年生の国語と算数(数学)の中では、小学校の国語を除き、学級規模縮小の効果を確認することはできませんでした。また意外なことに、全国学テの得点(学年当初の学力)が低い学校と高い学校に分けて分析すると、小学校の国語で確認された学力向上効果は、当初の学力の高い学校でのみ確認できました。これは、少人数学級の推進が、学校間の学力格差を縮めるとは限らないことを示唆しています。
 本研究成果は、経済学の専門誌であるJapanese Economic Reviewに掲載される予定です。


1.研究の意義や背景
 OECDの調査によれば2010年における日本の小学校の1学級あたりの生徒数(学級規模)の平均は28.0人で、OECD諸国の平均学級規模21.2人と比べて大きくなっています(※1)。そのような中で我が国では2011年、小学校1年生の学級規模を40人から35人へと引き下げるよう法律が改正され、少人数学級教育推進への国民の期待が高まっています。一方、文部科学省は、学力低下や格差の拡大を防ぐために、2013年1月に「今後の少人数学級の推進については、(中略)その効果について平成25年度全国学力・学習状況調査等を活用し十分な検証を行いつつ、(中略)教職員定数の在り方全般について検討する」としています。(※2)
 しかし、少人数学級推進と子どもの学力向上との間の因果関係を統計的に立証することは必ずしも容易ではありません。秋田県は少人数学級をいち早く導入し、かつ全国学力・学習状況調査(全国学テ)でも常に上位にランクインすることで有名ですが、その両者に因果関係があるかどうかは自明ではありません。データでは見えない第3の要素が、両方に影響を与えている可能性があるからです。

 ※1:経済協力開発機構(OECD)(2012) 図表でみる教育OECD インディケータ(2012年版)明石書店
 ※2:文部科学省「平成25年度予算案における教職員定数の改善等について」
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hensei/003/1330999.htm

 本研究では、経済学で普及している統計的手法を用いて、少人数学級になることで学力がどの程度伸びるのか分析しました。この手法では1学年の人数が40人から41人へと変化するときに平均学級規模が40人から20.5人へと大きく変動するという制度の特徴を利用して、学級規模縮小が学力に与える効果を統計的に判別します。この方法を使うことで、第3の要素の影響を排除し、学級規模と学力との間の因果関係の立証が可能であることは世界的に認識されつつあるところです。本研究では情報開示請求を通じて横浜市から提供を受けた全国学テ(4月に実施)と横浜市独自の学力テストである横浜市学習状況調査(中学3年生は11月、小学6年生は2月に実施)の学校別平均点を用いて、ある年における学級規模が、学年を通じて学力向上に与える因果的効果を、全国学テを用いて我が国で初めて測定しました。


2.図による研究手法の説明
 本研究の分析の対象は横浜市の公立学校に通う小学校6年生と中学校3年生です。図は2009年度の小学校6年生、中学校3年生における学級規模と国語のテスト得点の伸びの関係を示したものです。横軸は1学年の在籍生徒数を、縦軸は学級規模とテスト平均点の変化(全国学テの得点から横浜市学習状況調査の得点への伸び)を表します。また、図中の点線は40人学級制度に従った場合に予定される学級規模を、実線は国語のテスト得点の変化を表しています。
 この図から、小学校6年生では、在籍生徒数が41人、81人、121人といった、学級規模が急に小さくなったときに、国語のテスト得点が大きく伸びていることが見て取れます。一方、中学校3年生の場合は、そのような明確な関係は見えません。

 図.予定される学級規模とテスト得点の変化の関係:小6(左)・中3(右)(2009年)

 *添付の関連資料「図」を参照


3.統計分析の結果
 本研究では図で示された関係を、厳密な統計手法を用いて検証し、次の結果を得ました。

 1.少人数学級は小学校6年生の国語の学力を向上させるが、算数の学力には影響を与えない。
 2.少人数学級が小学校の国語の学力を向上させる効果は、特に全国学テの得点(学年初めの学力)が高い小学校で顕著に観察されるが、その得点が低い小学校では観察されない。
 3.少人数学級は中学校3年生の学力向上には影響を与えない。

 これらの分析結果は、少人数学級の推進に学力格差の解消を期待する立場からは意外な結果かもしれません。本研究の分析結果は、一律に少人数学級を推進する政策が必ずしも学校間の学力格差の解消につながるわけではないこと、むしろ格差を拡大させる可能性すらも示唆しています。


4.今後の展開
 今回は横浜市の公立学校に通う小学6年生及び中学3年生という限られた地域と対象のデータを利用して分析を行いましたが、他の地域や学年においても同様の結果が得られるかどうかについては検討が必要です。少人数学級政策が他の政策と比較して費用対効果に優れるかどうかもさらなる検証が必要でしょう。最後に、今回の研究結果は教育政策推進の際に、先入観や素朴な期待ではなく、事実に基づいて政策の効果を検証することの重要性を示していると言えます。


5.付記
 この研究は科研費基盤(A)20243020、慶應義塾大学経済学部研究教育資金、慶應義塾大学京都大学連携グローバルCOEから助成を受けています。また中村は日本学術振興会特別研究員奨励費の助成を受けています。

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