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JST、低い当選確率を高めに見積もるワクワク感に脳内ドーパミンが関与

2010-12-13

低い当選確率を高めに見積もるワクワク感に
脳内ドーパミンが関与
−脳内分子の画像化技術と経済理論から依存症に迫る−

独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴)
分子イメージング研究センター分子神経イメージング研究グループ
高橋英彦 客員研究員


【本研究成果のポイント】
  ●確率に関わる意思決定時のワクワク感を脳内分子の画像化技術で計測
  ●脳内の線条体と呼ばれる部位のドーパミンD1受容体の密度が低い人ほど低確率を高く見積もってしまい、ワクワクしやすい
  ●依存症の客観的診断や新たな治療戦略に貢献



 独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴、以下、放医研)分子イメージング(※1)研究センター分子神経イメージング研究グループ(須原哲也グループリーダー)の高橋英彦客員研究員(現、京都大学 大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学)講師)は、PET(※2)を用いて、宝くじに当たるなどの低い確率を、主観的には高く見積もってしまう(ワクワクしてしまう)傾向の強さに脳内ドーパミン(※3)が関与していることを世界で初めて明らかにしました。
 今回の研究では、健常者を対象に、経済理論を用いて、宝くじの客観的な当選確率を主観的にはどれだけ歪んで見積もるかを検証したところ、多くの被験者は、理論通り低い確率を高く見積もり、高い確率は低く見積もる傾向にあることが分かりました。さらに、その被験者の脳内ドーパミン受容体の密度をPET検査で調べた結果、線条体(※4)という部位のドーパミンD1受容体の密度が低い人ほど、低い確率を高く見積もり、高い確率は低く見積もる傾向がより強いという関係が見出されました。これらの成果は、意思決定障害への陥りやすさに対する事前評価、それらの病型としてのギャンブル依存症等の客観的な診断および新たな治療戦略につながるものと期待されます。
 本研究は、米国カリフォルニア工科大学日本医科大学慶應義塾大学、早稲田大学および玉川大学との共同研究による成果であり、また、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「脳情報の解読と制御」【研究総括:川人光男(株)国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長】研究領域における研究課題「情動的意思決定における脳内分子メカニズムの解明」(研究者:高橋英彦)の一環として行われたものです。
 本成果は、2010年12月8日(米国東部時間)、北米神経科学会誌『The Journal of Neuroscience』オンライン版に掲載されます。


【背景】
 放医研分子イメージング研究センター分子神経イメージング研究グループでは、精神神経疾患を対象に、その病態解明や早期診断法の開発を目標として、臨床研究と基礎研究の両面から取り組んでいます。今回の研究は、世界最高水準の分子イメージング技術を用いて、確率を歪んで見積もってしまう非合理な意思決定に、報酬の処理にかかわる神経伝達物質である脳内のドーパミンが、どのように関わっているかを調べた世界で最初の研究成果です。
 宝くじを買ったことがある人は多いはずです。毎年、年末ジャンボ宝くじを楽しみにしている人もいると思います。宝くじは、当たる確率が極端に低いため、当たる確率と賞金を掛け合わせた期待値(掛け金に対して戻ってくる見込みの金額)が、1枚300円のジャンボ宝くじの場合、約半分の150円程度に過ぎません。
 それにもかかわらず多くの人が、並んでまで宝くじを購入しようとします。伝統的な経済理論では、宝くじのような不利な期待値を持つものを買うことは、非合理的な意思決定であり、なぜ人々が喜んで買うのか十分に説明できませんでした。
 非合理的な意思決定には、社会生活を豊かにしたり円滑にするなどの面があると考えられますが、その度合いが行き過ぎると精神・神経疾患に認められる意思決定障害にもつながる可能性があります。
 そのため、実際の人々の消費行動や市場の動きを計算式からのみではなく、血の通った人々の行動や心理状態を考慮して、私たちの経済行動を研究する行動経済学(※5)という領域が発展してきました。
 行動経済学のパイオニアであるトベルスキーとカーネマンは、人々が、客観的な確率が低いほどその確率を高めに見積もり(当たる確率が極端に低い宝くじが当たるかもしれないと考える)、反対に、高い確率は低く見積もる(競馬で圧倒的に一番人気の馬がもしかしたら負けてしまうと考える)傾向があることなどを実験的に示し、新たな経済理論を提唱しました。このことは、低確率を高めに見積もってワクワクしたり、高確率を低く見積もってハラハラするなどの人間の情動が、意思決定に重要であることも物語っています。
 最近は、行動経済学からさらに進化して、神経経済学(※6)という経済的あるいは社会的な意思決定をしている際の脳活動を調べる学問も興隆しています。神経経済学の知見からも、血の通った人間の経済的意思決定は、常に合理的に計算しつくされたものではなく、情動に関わる脳部位が意思決定に重要な役割を担っていることがわかってきました。しかし、これまでの神経経済学は、fMRI(※7)を中心とした脳活動を調べるものにとどまっていました。


【研究手法と結果】
 健常男性を18名ずつのグループAとBに分け、A・Bグループともに意思決定課題に参加してもらいました。意思決定課題は、さまざまな当選確率と当選金額の組み合わせの複数の宝くじをそれぞれいくらなら買ってもよいか答えてもらう、という内容です。その結果から、各個人が宝くじの客観的な当選確率と当選金額を主観的にはどのように見積もっているかを推定します。低確率を高めに見積もり、高確率は低く見積もる程度をモデル式に当てはめて、その度合い(変数)を推定しました。
 次にA・BグループともにPET検査を受けてもらいました。グループAは、脳内の線条体とよばれる部位のドーパミンD1受容体の密度を検討できる薬剤([11C]SCH23390)を用いてPET検査を行いました。グループBは、線条体のドーパミンD2受容体の密度を検討できる薬剤([11C]raclopride)を用いてPET検査を行いました(図1)。
 グループA・Bともに、被験者の多くは低確率ほどその確率を高めに見積もり、高い確率は低く見積もる傾向にあり、その度合いはグループA・Bとも同じような結果でした(図2)。
 各グループで低確率を高めに見積もり、高確率は低く見積もる度合いを表す変数と線条体のドーパミン受容体との関係を調べたところ、線条体のD1受容体の密度が低い人ほど、低確率を高めに見積もり、高確率を低く見積もる度合いが強いということが分かりました(図3)。一方、D2受容体にはそのような関係は見出されませんでした。
 これらの結果は、線条体のD1受容体の密度が低い人は、より情動に影響された意思決定をし、低確率を高めに見積もってワクワクしたり、また高確率を低く見積もってハラハラしたりする傾向があるのに対し、線条体のD1受容体の密度が高い人は、客観的な確率情報に従って冷静な意思決定をしやすい傾向にあることを示しています。



*以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照


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