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東大、形成途上にある銀河の観測で形成過程が明確に2種類に分離することを発見

2012-08-04

世界で一番高い天文台から見えた銀河の形の起源


<発表者>
 吉井讓(東京大学大学院理学系研究科天文学教育研究センター 教授)
 本原顕太郎(東京大学大学院理学系研究科天文学教育研究センター 准教授)
 舘内謙(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程1年)


<発表のポイント>

▽どのような成果を出したのか
 世界最高地点(標高5,640m)にある天文台、東京大学アタカマ天文台1m望遠鏡(通称miniTAO:ミニタオ)のアタカマ近赤外線カメラ(ANIR:アニール)を用いて、形成途上にある銀河(爆発的星形成銀河)の観測を行い、その形成過程が明確に2種類に分かれることを発見しました。

▽新規性(何が新しいのか)
 透過力が強いものの、これまでの地上天文台からは観測が不可能だった水素原子の赤外線パッシェンα(Paα)輝線によって、塵に隠された爆発的星形成銀河38天体の大規模観測を行いました。これにより、銀河の形がどのように楕円銀河と渦巻銀河にわかれるか、という現在まだよく分かっていない銀河進化の謎の一端を明らかにできました。

▽社会的意義/将来の展望
 現在Paα観測を安定して行えるのはminiTAO/ANIRが世界で唯一の施設であり、この研究分野で世界をリードしています。今後もさらに多くの爆発的星形成銀河を詳細に観測し、どのようにして現在の姿になり、どのように進化していくのかを解明していきます。


<発表概要>
 形成途上にある銀河(爆発的星形成銀河)は、活発に星を生み出しながら強い赤外線を出すことが知られています。しかしながらその活動の詳細は、星形成活動によって大量に生成される塵の雲に隠され、よく分かっていませんでした。そこで、東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターを中心とする研究グループは、こうした塵の雲を見通す事ができる水素パッシェンα(Paα)輝線に注目しました。

 これまで、Paα輝線は地球大気中の水蒸気に吸収されてしまうため、地上望遠鏡による観測は不可能であると考えられていました。しかしこの問題は十分に高い標高まで上がれば解決されます。そこで、研究グループは、天文台としては世界最高地点である標高5,640mのチャナントール山山頂(南米・チリ)の東京大学アタカマ天文台に口径1mの光学赤外線望遠鏡(通称miniTAO:ミニタオ)を建設し(図1)、数多くの爆発的星形成銀河をPaαで撮像観測するプロジェクトを進めています。高い標高と乾燥した気候のおかげで地球大気中の水蒸気の影響を抑えることができ、これまでに38の爆発的星形成銀河をPaαで捉えることに成功しました。これは、銀河のPaαの撮像観測プロジェクトとして最大のものとなります。その結果、これらの銀河は、星形成が活発な領域が銀河の中心部に集中している「楕円銀河に似たタイプ」と、銀河全体に広がっている「渦巻銀河に似たタイプ」の2種類に、明確に分離することが明らかになりました。これは、現在の宇宙に普遍的に見られる楕円銀河と渦巻銀河という2種類の銀河がその形成段階ですでに2つにわかれていた可能性を示唆し、銀河の形がどのように作られてきたかという銀河形成・進化の大問題に大きな手がかりを与える重要な結果です。


<発表内容>

●星形成銀河とは
 爆発的星形成銀河とは、1年間に数10〜数100個分の太陽に相当する大量の星を生み出している形成途上の銀河を指します。その活発な星形成活動をエネルギー源として赤外線で非常に明るく輝いており、その放射エネルギーは太陽の1,000億倍以上にも及びます。しかしながら、なぜ活発な星形成が起きているのか、これら銀河がどのように進化して最終的にどのような銀河になるのかについては、まだよく分かっていません。さらに、これら銀河の非常に活発な星形成活動は、数多くの超新星爆発が起こった際に放出される大量の塵(ちり)によって覆い隠されています。従来の研究手法で用いられる紫外線や可視光線はこうした塵に吸収されてしまい、その内部まで見通すことができません。

●Paα輝線とは
 宇宙には中性水素原子が多く存在します。星形成が活発な領域では、この中性水素は若くて重い(太陽の10倍以上の)星が発する紫外線により電子と陽子に分離されます(プラズマ化)。電子と陽子は再び結合して水素原子に戻る際に特有の波長の光(水素輝線)を放射することから、この輝線は星形成が行われている手がかりとなります。その中でも最も有名なのは可視光の0.6563μmにあるHα輝線で、アマチュア天体写真などでもよく見かけますが、これは星間塵による吸収を強く受けます。それに対して、波長が1μmを超える赤外線は星間塵に対して強い透過力をもっています。その赤外線波長にある水素輝線で特に強いのがパッシェンα(Paα)輝線(波長1.8751μm)です(図3)。しかしながら、Paα輝線は地球大気中の水蒸気によって強く吸収されてしまうため、これまで地上望遠鏡による観測はほとんど不可能だと考えられてきました(図2)。

●爆発的星形成銀河のPaα輝線観測の意義
 爆発的星形成銀河は塵のため可視光ではその中を見通すことができません。しかし、赤外線であるPaα輝線はこの塵に対して非常に強い透過力を持っていることから、Paαを観測することで、塵の向こう側に隠されていた星形成活動を直接かつ詳細に捉えることができるようになります。

●高光度赤外線銀河Paαサーベイプロジェクト
 研究グループは、東京アタカマ天文台1m望遠鏡 (通称miniTAO:ミニタオ)に搭載された近赤外線カメラ ANIR(アニール)を用いて、爆発的星形成銀河のPaα輝線による撮像観測を2009年から行ってきました。miniTAO望遠鏡は、標高 5,640mのチリ・チャナントール山の山頂にあり、世界一高い場所にある望遠鏡としてギネス記録にも登録されています。この高い標高と乾燥した気候のおかげで、これまで地上からは不可能だと思われていたPaα輝線観測が可能となりました(図2)。

 爆発的星形成銀河をPaα輝線で詳細に観測し、その星形成のメカニズムと銀河の進化史を明らかにする事が本プロジェクトの目的です。

 同様の研究はハッブル望遠鏡の赤外線カメラNICMOSカメラでも可能でしたが、ANIRに比べてNICMOSの視野は10倍以上狭いために効率的な観測ができないという弱点がありました。また、NICMOSは2010年に取り外されてしまい、現在Paα観測はminiTAO/ANIRの独壇場となっています。

●Paαサーベイプロジェクトの成果と今後の展望
 2009年にプロジェクトを開始して以降、現在までに合わせて38天体の爆発的星形成銀河のPaα輝線観測に成功しました (図4)。これは銀河のPaα撮像サーベイとして最大規模のものとなります。また、高い解像度での観測を得意としていたハッブル宇宙望遠鏡に対して、miniTAO/ANIRは一度に銀河全体をすっぽりと覆う事が出来る視野の広さを有しているということも、これまでにない新しい点です。

 これらの爆発的星形成銀河の星形成活動がどこで起こっているのかを銀河内の星の分布と合わせて調べてみると、銀河の中心部分に集中しているものと、銀河全体に広がって分布しているものの2種類に明確に分類できることが明らかになりました(図5)。これまで地上観測では水蒸気や塵に邪魔されて見ることができなかった、またハッブル望遠鏡でも捉えることができなかった爆発的星形成銀河の姿を、史上最大規模のデータによって示すことに成功したのです。

 銀河は様々な姿・形をしていますが、そのほとんどはハッブル系列と呼ばれる形態分類法で大きく楕円銀河と渦巻銀河の2つに綺麗に分類する事ができます。しかし、この形態がいつ、どのようにしてできたのかはよく分かっていません。

 今回の発見は、銀河の形成段階で星形成を行なっている領域自体がこの2つに明確に分離することを示しており、銀河の形がその形成段階からわかれていた可能性を示唆しています。これは、銀河の形態がどのような過程を経てできるのかを解き明かす手がかりとなります。現在の銀河進化の枠組みの中では、楕円銀河は遥か昔の衝突合体によって一気に星を作ったあとで楕円銀河の形状に落ち着き、その後は星形成を殆ど行わないと考えられていました。しかし、今回の観測では楕円銀河の中心でいまだ爆発的な星形成を行い、その星質量を増やしつつあるものがあることを示しています。これは楕円銀河の質量形成に、これまで考えられていなかった経路があることを示唆します。

 今後もさらに多くの爆発的星形成銀河の観測を行い、その性質と成長過程を詳細に明らかにしてゆく予定です。


<発表雑誌>

 雑誌名:「Publication of the Korean Astronomical Society」

 論文タイトル:"miniTAO/ANIR Paα Survey of Local LIRGs"

 著者:Ken Tateuchi,Kentaro Motohara,Masahiro Konishi,Hidenori Takahashi,Natsuko Kato,Yuka K.Uchimoto,Koji Toshikawa,Ryou Ohsawa,Yutaro Kitagawa,Yuzuru Yoshii,Mamoru Doi,Kotaro Kohno,Kimiaki Kawara,Masuo Tanaka,Takashi Miyata,Toshihiko Tanabe,Takeo Minezaki,Shigeyuki Sako,Tomoki Morokuma,Yoichi Tamura,Tsutomu Aoki,Takeo Soyano,Kenfichi Tarusawa,Shintaro Koshida,Takafumi Kamizuka,Tomohiko Nakamura,Kentaro Asano,Mizuho Uchiyama,Kazushi Okada,and Yoshifusa Ita


 ※図1〜5は添付の関連資料を参照

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