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北大、植物の新たなウイルス迎撃機構を解明

2012-06-11

植物の新たなウイルス迎撃機構を解明
ウイルス病全般に抵抗性を持つ作物を育種するための重要な手がかりに−


<研究成果のポイント>
 ・多くのウイルスが共通に持つ病原タンパクに対する迎撃機構を,タバコを実験材料として発見。
 ・タンパク分解系オートファジーとRNA分解系RNAiが連携してウイルスに対抗する仕組みを解明。
 ・今回発見された,植物が本来持っているウイルス迎撃機構を利用して,もともと農薬が直接効かないウイルスによる農作物の病害をなくす普遍的な方法の開発に期待。


<研究成果の概要>
 植物ではRNAサイレンシング(RNAi(*1)と呼ばれるRNA分解機構がウイルスから身を守るための主要な免疫機構の一つとなっています。しかしながら,病気を起こすウイルスの多くはRNAi抑制タンパクと呼ばれる病原タンパクを発現し,RNAi免疫を麻痺させて感染します。本研究は,タバコにはウイルスのRNAi抑制タンパクに対する迎撃機構が存在することを明らかにしました。タバコはRNAi抑制タンパクをオートファジー(*2)(自食作用)と呼ばれるタンパク分解機構により分解することで,RNAiによる免疫機能を強化していることがわかりました。今後,複数ウイルスに対する作物の抵抗性を同時に強化する新たな分子育種法の開発につながる成果と考えられます。

 本研究は文部科学省の科学研究費補助金(課題番号17780032,18108001,20688002),ノーステック財団などの助成を受けて実施され,その成果は米国科学アカデミー紀要PNASに掲載されました。


<論文発表の概要>
 研究論文名:Tobacco calmodulin−like protein provides secondary defense by binding to and directing degradation of virus RNA silencing suppressors
 (ウイルスのRNAi抑制タンパクに結合し分解に導くカルモジュリン様タンパクによるタバコのウイルス迎撃機構)
 著者:氏名(所属) 中原 健二,増田 税,山田 翔太,志村 華子,柏原夕希子,和田 智子,目黒 文乃,後藤 一法,忠村 一毅,末田 香恵,関口 透,招 軍,五十嵐 学,伊藤 公人,上田 一郎(北海道大学),一町田紀子(ホクレン農業協同組合連合会),松村 健(産業技術総合研究所AIST),Richard W.Carthew(ノースウェスタン大学)
 公表雑誌:米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)

 公表日:日本時間(現地時間) 2012年6月5日(火)午前4時(米国東部時間2012年6月4日午後3時)


<研究成果の概要>
(背景)
 カビ(糸状菌)や細菌,ウイルスなどの病原微生物が引き起こす病害は今なお農産物の生産量や品質に大きな影響を及ぼし,その防除を化学農薬に頼ることも社会的な理解が得づらくなっています。
 そこで,作物自身の病害抵抗性を高めることは重要な育種目標の一つです。植物も我々と同様に免疫機構を働かせて病原微生物から身を守っており,この免疫機構を解明することは,作物の病害抵抗性育種のために重要な手掛かりになります。今回,これまで未知であったウイルス迎撃機構を解明しました。


(研究手法)
 ウイルスが植物に感染・増殖して病気を起こす場合も,反対に植物がウイルスから身を守る場合にも,ウイルス側,植物側,両遺伝子が相互作用しています。本研究ではウイルス因子と相互作用するタバコのカルモジュリン(*3)様タンパクrgs−CaMの機能について,分子生物学,分子遺伝学的な手法で解析を進めました。rgs−CaMは当初(2000年),米国サウスカロライナ大学のバンス教授の研究グループによって,ウイルスのRNAi抑制タンパクのひとつ,HC−Proに結合し,自身もRNAiを抑制する遺伝子として同定されました。我々は10年余りの試行錯誤の中で,当初の報告とは異なるrgs−CaMの意外な機能・性質を見出し,rgs−CaMが関与するウイルス迎撃機構を解明するに至りました。


(研究成果)
 本研究で得られたタバコrgs−CaMに関する解析の成果は以下のようにまとめられます。1)rgs−CaMはウイルスのRNAi抑制タンパクの2本鎖RNA結合領域に親和性を持つことを見出しました。病気を起こすほとんどのウイルスはRNAi抑制タンパクという病原タンパクを持ち,それらの多くが2本鎖RNAに結合することが知られていることから,rgs−CaMは普遍的にウイルスのRNAi抑制タンパクに結合できることが予想されます。2)rgs−CaMは結合したウイルスのRNAi抑制タンパクをオートファジーによる分解に導くことがわかりました。これはウイルス感染時に抑制されてしまうRNAi活性がrgs−CaMを介した迎撃機構により強化されることを意味します。従って,rgs−CaMはウイルス防御に働くことが予想されました。3)実際,rgs−CaMを過剰発現する形質転換タバコはウイルスへの抵抗性が高まり,反対にrgs−CaMの発現を抑えた形質転換タバコはウイルスに感染しやすくなりました。
 これらの成果から,図1のような新たな植物のウイルスに対する自然免疫モデルを提唱しました。
 rgs−CaMはRNAiを抑制するウイルスの病原タンパクに結合し,タンパク分解系オートファジーで分解されるよう導きます。この迎撃機構によりRNAi抑制タンパクの働きが抑えられ,結果としてRNA分解系RNAiによるウイルス防御機構が強化されるという連携モデルです。脊椎動物では自然免疫と獲得免疫が連携してウイルスを含む病原体の防除に働いていることはよく知られていますが,植物でもウイルスに対して複数の免疫機構が防御ネットワークを築いて対抗していることを示す最初の例と考えられます。


(今後への期待)
 病気を引き起こすウイルスの多くがRNAi抑制タンパクを持つことから,今回,明らかにしたRNAi抑制タンパクに対する迎撃機構は,多くの種類のウイルスに対する防御に普遍的に働いていると考えられます。従って,このウイルス迎撃機構を強化する育種技術を開発することで,複数のウイルスに対する作物の抵抗性を同時に強化できる可能性があります。


 ※図1、用語解説は添付の関連資料を参照

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