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東大と東京医科歯科大、ヒストン修飾因子が栄養飢餓において腫瘍増殖を抑制することを発見

2011-12-12

ヒストン修飾因子が栄養飢餓において腫瘍増殖を抑制することを発見


1.発表者:
 児玉龍彦東京大学先端科学技術研究センター システム生物医学分野 教授)
 大澤毅 (東京大学先端科学技術研究センター システム生物医学分野 特任助教)
 澁谷正史(東京医科歯科大学客員教授東京大学名誉教授)


2.発表概要:
 東京大学先端科学技術研究センター(東京都目黒区、中野義昭所長)の大澤毅特任助教、児玉龍彦教授らの研究グループは、東京医科歯科大学との共同で、ヒストン修飾因子(注1)の一種であるヒストン脱メチル化酵素「JHDM1D(KDM7A)」(注2)が、栄養飢餓状態(注3)の腫瘍組織において、腫瘍血管新生を制御し、癌の増殖を抑制することを明らかにした。[本研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)2011年12月5−9日電子版(PNAS Online Early Edition)に掲載予定]


3.発表内容:
 大澤毅特任助教、児玉龍彦教授らの研究グループ(システム生物医学)は、東京医科歯科大学の澁谷正史客員教授東京大学名誉教授)らとの共同で、ヒストン脱メチル化酵素「JHDM1D(KDM7A)」が、栄養飢餓状態の腫瘍組織において腫瘍血管新生(注4)を制御し、癌の増殖を抑制することを明らかにした。

 固形癌の中心部は、低酸素や低栄養状態に陥りやすく、その状況を癌細胞自身が克服することが増殖や進展に不可欠であるが、これまでそのメカニズムは不明であった。そこで本研究では低酸素、低栄養を模した培養癌細胞の解析からJHDM1Dを見出し、その役割を培養細胞とマウスでも解析した。
 その結果、JHDM1Dが腫瘍増殖期に必須である血管新生と同調し、腫瘍血管新生を制御することを見出した。

 腫瘍血管新生の制御は、低酸素によって誘導される血管内皮増殖因子(注5)とその受容体が主要な役割を果たすが、低栄養および栄養飢餓状態における腫瘍血管新生の制御機構は不明であった。
 また、JHDM1Dについては近年、精神疾患に関与する遺伝子として報告されているが癌においてどのような役割を果たしているかは不明であった。

 今回の我々の研究により、JHDM1Dが、低栄養下で腫瘍血管新生および腫瘍促進に寄与すると考えられている単球、マクロファージなどの白血球細胞が移動することを抑制し、がんの増殖を抑制することが明らかとなった。

 近年、遺伝子の発現制御、細胞分化、生活習慣病、腫瘍といった生物学の各領域でヒストン修飾をはじめとするエピゲノム(注6)修飾が着目されている。以上の知見は、近年着目されているヒストン修飾、エピゲノム修飾因子が腫瘍増殖に関わることを示しており、エピゲノム創薬(注7)の新しい標的の一つとして、新しいメカニズムに基づく新規創薬に繋がる可能性を示す成果である。


4.発表雑誌:
 雑誌名:「Proc.Natl.Acad.Sci.USA(PNAS)」(2011年12月5−9日オンライン版)
 論文タイトル:Increased expression of histone demethylase JHDM1D under nutrient starvation suppresses tumor growth via down−regulating angiogenesis
 著 者:Tsuyoshi Osawa,Masashi Muramatsu,Feng Wang,Rika Tsuchida,Tatsuhiko Kodama,Takashi Minami,Masabumi Shibuya
 http://www.pnas.org/content/early/2011/12/01/1108462109.abstract


5.問い合わせ先:
 東京大学先端科学技術研究センター システム生物医学分野
 特任助教 大澤 毅


6.用語解説:
(注1)ヒストン修飾因子:ヒストン(histone)は、真核生物のクロマチン(染色体)を構成するタンパク質の一群で、「ヒストン修飾因子」はヒストンのアセチル化、メチル化、脱メチル化など修飾を行う。
(注2)ヒストン脱メチル化酵素「JHDM1D(KDM7A)」:ヒストンのメチル化修飾を外す働きがある酵素。
(注3)栄養飢餓状態:癌組織内で腫瘍の増殖に対し栄養の供給が不足すること。
(注4)腫瘍血管新生:既存の血管から新たな血管枝が分岐して、血管網を構築する生理的現象。血管新生は慢性炎症や悪性腫瘍の進展においても重要な役割を担っている。
(注5)血管内皮増殖因子:血管新生を促す因子。
(注6)エピゲノム:DNAのメチル化とヒストン修飾で維持・伝達される遺伝情報。
(注7)エピゲノム創薬:エピゲノム修飾、ヒストン修飾を調節する因子を標的にした癌などの疾患治療薬の開発。

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