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ATR、慶応大学と脳ダイナミクス推定技術の開発に成功

2011-11-29

ATRと慶應義塾大学リハビリテーションに応用可能な
ダイナミクス推定技術の開発に成功



<はじめに>
 食事の高エネルギー化、高脂質化、また高齢化によって10年後には脳卒中患者は300万人に達するだろうという推計があります。そのうち、約半数がコミュニケーション能力、運動能力に障害が残り、リハビリテーションが必要になると考えられます。さて、ご自身がリハビリを受けることなった状況を想像すると、なかなか厳しい現実が待っているかもしれません。一生懸命努力しても、麻痺した身体はなかなか動いてくれず、良い方向に進んでいるのかどうかもわからず、がっかりしてやる気がなくなるかもしれません。あるいはがんばりすぎて、脳全体の活動が異常に上がり、身体全体が硬直し、脂汗が出るばかりかもしれません。リハビリテーションは失われた脳機能を、脳の可塑性に基づいて、他の脳部位の再編成で補うことであると理解できますが、肝心の脳の状態が患者さんにも医療従事者にもリハビリテーション中には見えないことが困難の大きな原因の一つであると言えます。このようなことを避けるために、患者さんの脳全体の活動をリハビリテーションの最中に正確に時々刻々観察することができれば、改善が目に見えるので患者さんの元気も出るでしょうし、無用な過活動も避けることができると期待できます。すでに、慶應義塾大学では医工連携により、大脳皮質運動野の脳波をニューロフィードバックすることで、麻痺手を訓練する画期的なBMIリハビリテーションに成功しています。今回は、脳全体の活動を患者さんや医療従事者に、時間的にも空間的にも高精度そして実時間でフィードバックするシステムの開発に成功しました。未來のリハビリテーションを変えるかもしれない技術です。


<概要>
 日常生活や訓練中に常に脳活動を推定しながらその様子を視覚化しフィードバックすることによって、そう遠くない未来にはリハビリテーションが大きく変わるかもしれない。(株)国際電気通信基礎技術研究所(以下ATR)は慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室(以下慶應リハ科)と共同で、新しい「脳活動ダイナミクス推定システム」を開発し、脳活動ダイナミクスを高精度で推定する基礎技術を発表した。これまでの脳機能イメージングでは脳にダメージを与えてしまうか(侵襲)、大型装置に頭や体を固定する必要があり(非侵襲重厚長大型)、日常生活で通常行われるような運動中の脳活動の計測が困難であった。一方、今回発表する新技術では可搬・携帯型でかつ非侵襲、低拘束の脳機能計測装置を用いているにも関わらず、「侵襲型装置」や「非侵襲重厚長大型装置」と同等もしくはそれ以上の高い精度で脳活動を推定することができる。この新技術により、リハビリテーション中に脳活動ダイナミクスを視覚化することが可能になり、新たなリハビリテーション技術への応用の可能性が開かれた。
 今回発表する技術はATR脳情報通信総合研究所 脳情報研究所 運動制御・機能回復研究室の相原 孝次研究員が中心となり開発した。脳活動の推定方法は2段階からなり、まず空間的な精度は高いが時間的な精度は劣るNIRSと呼ばれる装置を用いる。次に、時間分解能は高いが空間分解能が劣る脳波(EEG)を計測する。この二つの異なる情報を統合し、それぞれの欠点を補うように、EEGで観測される電位変化を引き起こす脳内の「電流源」を推定する。この技術はこれまでATRが開発してきた、非侵襲大型装置である機能的磁気共鳴画像(fMRI)と脳磁計測(MEG)を組み合わせて高分解能で脳活動ダイナミクスを推定する技術を、より可搬性の高いNIRSとEEGの組み合わせに適用したものである。この推定技術により1msec, 1cm程度の精度で脳全体の活動を推定することを実現した。この成果は学術雑誌「ニューロイメージ」に「階層事前分布として近赤外分光イメージング(NIRS)を使用した脳波(EEG)からの皮質電流推定」(*)として論文が掲載されることが決定した。


<今後の展開>
 さらに、この技術を発展させ、ほぼリアルタイムに脳活動を可視化し、リハビリテーション中に脳活動を提示するリアルタイム脳活動フィードバックシステムを東京湾岸リハビリテーション病院において開発した。このシステムを用いれば、リハビリテーションの過程で脳活動がどのように変化するかを確認(脳活動フィードバック)することができ、運動や行動の結果だけではなく脳活動そのものを評価しながら、機能回復へとつなげることが可能となる。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照


<開発した脳活動ダイナミクス推定システムの特徴>
 (1)NIRSとEEGを組み合わせることで高精度な脳活動推定が可能
   NIRSは脳活動に伴う血液中のヘモグロビン濃度変化を計測する比較的簡便に扱うことの出来る装置である。空間分解能に優れるが、時間分解能には優れない。一方、EEGは脳活動に伴う電位変化を頭皮表面に配置された電極で計測する装置である。時間分解能には優れるが、空間分解能は劣る。今回開発した装置は、これら二つの情報を最適に組み合わせ、脳で生じる脳活動を推定する。推定するプログラムにはATR がNICT委託研究で開発したVBMEGが用いられている。
 (2)体と頭部を固定する必要が無いこと
   fMRIやMEGに代表されるような、これまでの脳活動測定装置では、頭や体を決められた姿勢で装置に固定する必要があり、日常生活に含まれるような自然な姿勢や運動中での脳活動の推定は困難であった。一方、今回開発したシステムでは、プローブ、電極を頭皮に配置させるだけで良く簡便で、装置の移動も可能である。したがって、診療の現場やリハビリテーション中に脳活動を推定することが可能になる。


*この論文は、ATR脳情報通信総合研究所の脳情報研究所および脳情報解析研究所、慶應義塾大学医学部、東京湾岸リハビリテーション病院、長岡技術科学大学、国立精神・神経医療研究センター、村山医療センターの共同研究によるものです。本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として実施されました。また、一部はNICT委託研究、最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援を受けました。


<論文著者とタイトル>
 TakatsuguAihara, Yusuke Takeda, Kotaro Takeda, Wataru Yasuda, Takanori Sato, YoheiOtaka, Takashi Hanakawa, Manabu Honda, Meigen Liu, MitsuoKawato, Masa−aki Sato, Rieko Osu, "Cortical current source estimation from electroencephalography in combination with near−infrared spectroscopy as a hierarchical prior"


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