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東北大と東大など、セラミックスの極微量不純物の可視化に成功

2011-11-22

セラミックスの極微量不純物の可視化に成功

−不純物が形成する界面超構造の発見−

東北大・東大・ファインセラミックスセンターの共同研究


【研究概要】

 東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の幾原雄一教授(東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授、財団法人ファインセラミックスセンターナノ構造研究所主管研究員 兼任)と東北大学原子分子材料科学高等研究機構の王中長(ワン チョンチャン)助教らの研究グループは、「超高分解能走査透過電子顕微鏡注1)とスーパーコンピューター計算注2)を駆使して、セラミックス(酸化マグネシウム) 注3)の結晶界面において、ごく微量の不純物が集まって原子レベルで全く新しい超構造注4)を形成することを、世界に先駆けて発見しました。すなわち、結晶内の不純物が結晶界面に集積して規則配列した三次元構造(超構造) を形成することを発見しました。ごく微量 (ppm(百万分の一)オーダー)であっても、不純物によってセラミックスの特性は大きく変化し、製品の特性のばらつきが多くなるため、その応用や用途拡大を困難にしていました。今回の成果は、ごく微量の不純物であっても、それらが界面に集積し、界面における原子構造を全く変えてしまうことが、製品の特性のばらつきの原因であることを突き止めたものです。すなわち、今まで目に見えなかったごく微量不純物の位置を可視化し、かつその不純物が特性に及ぼす役割を明らかにした結果だといえます。今後、本成果を起点にして、不純物制御によるセラミックスの高性能化や高信頼化が一挙に進み、製品の特性ばらつきの克服に大きく寄与するとともに、不純物を逆に利用した超構造制御の新機能材料の研究開発につながると期待されます。本成果は、2011年11月16日(英国時間)に英国科学誌「Nature(ネイチャー)」オンライン版解禁時間(テレビ、ラジオ、WEB):平成23年11月17日(木)午前3時(新聞):平成23年11月17日(木)付朝刊で公開されます。なお、本研究は、文部科学省研究費補助金の特定領域研究プログラム「機能元素のナノ材料科学」(領域代表:幾原雄一)の一環として実施されました。


【研究背景と経緯】

 金属と酸素で構成される酸化物は、セラミックスとして古くは土器や陶器から現在では耐熱構造材料、電子部品まで多岐の用途で利用されている、身の回りにありふれた材料です。セラミックスの大半は粉体を高温で焼き固めた焼結体を成形して利用しています。このようなセラミックス焼結体は、電子回路の基板、プラグなど自動車部品、電子材料のコンデンサーやバリスター、碍子(がいし)など実に多くの場所に用いられていますが、脆いという特性がある上に、その強度のばらつきが大きく、これが用途拡大のための大きな問題点になっていました。その元凶は、原料中に混在している微量な不純物の存在にあると考えられていましたが、その詳細は不明でした。この問題を解決するためには、粉体中のごく微量の残留不純物(濃度レベル:ppm)注5)が高温焼結後に「どの場所に安定的にとどまり」、「どのように特性に影響を及ぼすか」など原子レベルでの理解とそれに基づいた不純物制御が必要となってきます。

 今回の発見によって、紛体に必ず残留するppm オーダーのごく微量の不純物が、焼結体の結晶界面に集中し(偏析という)、その界面に自然には存在しない超構造を形成していることが、焼結体の特性に大きな変化をもたらすことが分かりました。これまでセラミックスは、ごく微量残留する不純物が力学特性(硬さや脆さ)や電気特性(電気の流れやすさ)など機能特性に及ぼす影響を考慮されることなしに経験的手法で製造されてきた経緯があります。その結果、不純物によって特性がばらつくことが日常茶飯事でした。今回の発見により、この現象が根本的に理解され、この問題が一挙に解決されることが期待されています。

 一般に粉体より調製したセラミックス焼結体は無数の結晶粒子(多結晶)で構成されています(図1)。その中には図1の「点」で示したように、不純物が存在しています。

 結晶粒子どうしぶつかりあった部分(結晶粒界)は、粒子内部に比べて隙間が多い特徴があります。また、結晶粒界は物質の表面と同様に欠陥や電荷が形成して大変複雑な構造をつくります。セラミックスでは不純物が結晶粒界に向かって内部より移動してきて偏析します。この現象自体は既に知られておりましたが、従来の電子顕微鏡による観察技術では、「どの場所に(原子位置・構造)」「どのような状態(化学・結合状態)」で偏析しているのかまでは、その性能(分解能力や元素識別能力)が低かったために観察することは困難でした。今回は最先端の走査透過電子顕微鏡技術をもちいることで、その観察がはじめて可能となりました。


【研究内容と展開】

 今回、幾原教授と王中長助教らは、ファインセラミックスセンターナノ構造研究所と共同で元素識別可能な分析装置(電子エネルギー損失分光器)を搭載した超高分解能走査透過電子顕微鏡を用いて、高温焼結した高純度酸化マグネシウム(純度99.9%)の結晶粒界においてごく微量の不純物であるカルシウム原子とチタン原子が同時に偏析し、さらにそれらが複数の欠陥と強く結びついて形作られた「原子スケールで規則配列した三次元構造(超構造)」を発見しました。

 図1はセラミックスの組織を示しています。セラミックスは小さな結晶粒子が集まった多結晶体で形成されていることが分かります。焼結前(a)は、図上部に示すように不純物が粒子内に点在していますが、焼結後(b)は粒子と粒子の間(粒界)に集まってきます。この現象を偏析といいますが、従来の方法ではその原子の位置が同定できませんでした。図下部は、粒界部を拡大した模式図です。これより、焼結前は偏析していなかった不純物が、焼結後は粒界部に集まっている様子が分かります。ただ、この不純物の集まり方(原子位置など)が、これまで分かっていませんでした。この部分を最先端の走査透過電子顕微鏡法で観察した写真を図2(a)に示します。また、得られた実験像と理論計算構造を比較しながら決定した原子構造を図2(b)に示します。これより、結晶粒界部ではカルシウムとチタンが幾何学的に並んだ「超構造」が形成されていることが分かります。これは結晶内部にごく微量残留していた不純物のカルシウム(数100ppm)とチタン(数10ppm)が高温で焼結した際に結晶粒界に同時に移動して、特殊な超構造を形成したことを示しています。この超構造は、エネルギー的にも非常に低く、安定構造であることも判明しています。すなわち、このような構造が形成される粒界は強固に結合しており、バルク焼結体の強度も大きいことと符合します。今回の発見は「原子自ら意志をもっているかのように移動して幾何学的で規則的な超構造を自己組織化する現象」であり、まさに自然の神秘を再認識させられる結果といえます。

 本成果は、物質構成元素の識別が可能な超高分解能走査透過電子顕微鏡法とスーパーコンピューターによる大規模な原子構造計算を駆使して、これまで不明であったセラミックス中にごく微量残留する不純物が偏析した結晶粒界の原子構造や化学状態を計測することに成功し、特に不純物原子が規則配列した超構造の自己組織化を発見した画期的な結果となります。今後、この成果から不純物制御によるセラミックス材料の高性能化に関する研究のブレークスルーになることが期待されます。また、原子レベルでの超構造を自在にコントロールできれば、特異な電気・磁気特性などのまったく新しい機能特性の発現も期待できるため、これまで専ら経験的手法で製造されたエンジニアリング色が濃いセラミックスにおいて、今後サイエンスの知見を活かした技術革新の展開にも大いに期待されます。

 本研究成果は、2011年11月16日付(英国時間)に英国科学誌「Nature(ネイチャー)」オンライン版で公開されます。また、本研究は、文部科学省研究費補助金の特定領域研究プログラム「機能元素のナノ材料科学」(領域代表者 幾原雄一)により行われたことを付記します。


【論文情報】
 論文名:“Atom−resolved imaging of ordered defect superstructures at individual grain boundaries”(結晶粒界における規則配列した超構造の原子計測)
 著者名:Zhongchang Wang, Mitsuhiro Saito, Keith P.McKenna, Lin Gu,Susumu Tsukimoto, Alexander L.Shluger,and Yuichi Ikuhara
 発表雑誌:Nature,2011年11月16日 電子版(英国)


※ 参考図・用語解説は、関連資料参照

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