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東北大学、酸化物分散強化型鋼中のナノ酸化物の構造観察に成功

2011-10-27

酸化物分散強化型鋼中のナノ酸化物の構造観察に成功

〜優れた高温強度および耐中性子照射性の解明へ〜


 東北大学原子分子材料科学高等研究機構の平田秋彦助教、陳明偉教授らの研究グループは、球面収差補正装置を搭載した走査型透過電子顕微鏡を用いることで、酸化物分散強化型鋼(ODS(Oxide dispersed strengthen)鋼)中に存在するナノ酸化物の構造的特徴を明らかにすることに成功しました。これはODS鋼が示す優れた高温強度と耐中性子照射性などの諸物性を理解する上で重要な成果です。
 本研究成果は平成23年10月23日(英国時間)発行の英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版に掲載されます。


<背景>
 酸化物分散強化型鋼(ODS鋼)は、機械的な混合によって鉄鋼材料中に酸化物を微細分散させた複合材料であり、原子炉内等で想定される高温・中性子線照射下の劣悪な環境下で、非常に優れた機械的性質を示す材料として注目されてきています。このODS鋼の中には直径2〜4nmという極めて微細な酸化物が高い数密度で埋め込まれていることが3次元アトムプローブ(注1)等の手法で明らかにされてきました。この酸化物は高温においても粗大化せず、極めて安定であることもわかっており、このことが優れた高温強度の一因であると考えられています。アトムプローブの化学分析から、この微細な酸化物の化学組成が、通常の酸化物と大きく異なることも指摘されてきましたが、詳細な構造は不明のままでした。酸化物が微細なため母相に埋もれており、母相との構造のマッチングがおそらく良いため、観察が困難であることがその理由です。このような背景から、我々は高い分解能を持つ走査型透過電子顕微鏡を使って微細な酸化物の像の撮影を試みました。また、得られた像を解釈するため、数多くの考えられる構造モデルを作製し、像シミュレーションをすることで、妥当な構造モデルを決定しました。


<研究の内容>
 本研究では、球面収差補正装置(注2)を備えた走査型透過電子顕微鏡(注3)を用い、ビーム径1オングストロームの集束した電子線を試料上に走査させることにより、微細な酸化物の高散乱角環状暗視野像(注4)が得られました(図1)。像中では、酸化物は基本的に暗いコントラストを呈しており、詳しく見ると2つの特徴的なコントラストが観察されます。ひとつは周辺部分に見られる周期的な明暗のコントラストであり、もうひとつは中心付近に見られる乱れた模様です。前者は酸化物が岩塩型という構造を持っている可能性を示唆するもので、後者は構造が完全な結晶に比べて欠陥を多く含んでいることを示しています。次に、これらの事実とこれまで報告されている結果を考慮にいれ、酸化物の構造モデル作製を試みました。数多くの考えられる構造モデルを試した結果、母相である鉄の構造(体心立方構造)にマッチするように球形の岩塩型構造を埋め込み、分子動力学法で構造を緩和させたものが、最も実験結果をうまく再現することが明らかとなりました(図2)。酸化物構造モデルには大きいイットリウム原子や空孔を多く含んでいるため、完全結晶に比べ乱れた欠陥構造が形成されており、ODS鋼では非常に特異な酸化物が分散されている状態が実現されていることがわかりました。


<今後の展望>
 本研究によって、ODS鋼中に分散するナノ酸化物は、母相との構造のマッチングが良い岩塩型構造を持ち、その構造は欠陥を多く含む乱れた構造になっていることが明らかとなりました。これらは、これまで他の材料で見出されていた酸化物構造の特徴とは本質的に異なっており、ODS鋼の優れた高温強度や耐中性子照射性はこのような特異な酸化物構造に起因するものと考えられます。今後は、構造と物性の相関をさらに詳しく検討し、得られた知見をより高性能な材料を創製するためにフィードバックしていく予定です。


<論文名および著者名>
 “Atomic structure of nanoclusters in oxide dispersion strengthened steels”
 A. Hirata, T. Fujita, Y. R. Wen, J. H. Schneibel, C. T. Liu, M. W. Chen
 Nature Materials,in press. ( http://dx.doi.org/10.1038/NMAT3150 )


<参考図>
 ※添付の関連資料を参照


<用語解説>
注1)3次元アトムプローブ
 材料を針状に加工し、電圧をかけることで電解蒸発を起こさせ、イオン化された原子を3次元的に検出する方法。この手法を用いると、ナノスケールの元素分布が3次元的に可視化でき、かつ定量的な元素分析が可能です。また、軽元素でも定量的に分析できるのが特徴です。

注2)球面収差補正装置
 電子顕微鏡では磁界レンズを用いて電子線を集束させているのですが、このレンズには球面収差があり、分解能低下の大きな原因となっていました。近年開発された補正装置によりレンズの球面収差を無くすことが可能となり、ビームを非常に小さい領域に集めることができるようになりました。その結果として、高分解能の走査電子顕微鏡像を得ることが可能となっています。

注3)走査型透過電子顕微鏡
 電子顕微鏡の観察法の一つで、細く絞った電子線を用いてサンプル上を走査し、それぞれの領域から透過した電子線の情報を検出器で電気信号に変換し、像を得ることができます。ビーム径が像の分解能を決めるため、より細く集束したビームを作ることが重要になっています。

注4)高散乱角環状暗視野像
 走査型透過電子顕微鏡法で得られる像の一種で、格子振動による熱散漫散乱によって高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器で受け、その強度を表示したものです。得られるコントラストは基本的に原子番号の2乗に比例するため、原子番号の大きい元素が明るいコントラストとして観察されます。

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