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東大、高分子ミセル型DDSの難治すい臓がん治療効果について解明
「高分子ミセルのサイズ効果:精密粒径制御に基づく難治すい臓がん治療」
発表者:片岡 一則(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門 教授)
発表概要:
ドラッグデリバリーシステム(DDS)(*1)を利用したがん標的治療は、抗がん剤などの薬剤をがん組織に選択的に送達することによって、副作用を示すことなく優れた治療効果をもたらす画期的ながん治療法として注目されています。このようなDDSとして、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門の片岡一則教授の研究グループは、高分子ミセル型DDS(*2)を世界に先駆けて開発し、その有用性を明らかにしてきました。抗がん剤を内包した高分子ミセルは、現在、4種類の製剤が国内外で臨床治験に進んでおり、本邦発のDDS製剤として実用化が期待されています。
がん治療のためのDDS製剤としてこれまでに抗がん剤ドキソルビシンを内包したポリエチレングリコール(PEG)修飾リポソーム製剤(ドキシル)が既に承認されていますが、その使用はカポジ肉腫や卵巣がんなどに限定されており、難治がんである膵臓がんなどに対して有効なDDSは未だ開発されていないのが現状でした。これは膵臓がんが、物質の漏出性に乏しい血管構造を有しており、がん細胞を覆う線維組織がバリアとなり、薬剤やDDSの集積性が著しく低下しているためであると考えられています。そこで本研究では、高分子ミセル型DDSのがん組織への集積におけるサイズの効果に関して生体内リアルタイムイメージングなどを駆使して詳細に検討し、50nm以下の高分子ミセルが膵臓がんモデルに対して高い集積性ならびに浸透性を示し、優れた治療効果をもたらすことを明らかにしました。本研究成果は、有効な治療法が確立されておらず、5年生存率が最も低いことから“難治がん中の難治がん”と言われる膵臓がんに対する画期的な治療法に繋がるものと期待されます。
なお、上記の研究成果は、最先端研究開発支援プログラム(*3)「ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション」(中心研究者:片岡一則教授URL:http://park.itc.utokyo.ac.jp/nanobiof/)により得られたものです。本プロジェクトは、平成21年度にスタートし、平成25度末までの5年間で、がんの早期発見・精密診断や、抗がん剤を患部に選択的に送り込む副作用の低いピンポイント治療を可能とする画期的技術を世界で初めて確立することを目指しています。具体的には以下の4つのサブテーマがありそれぞれの分野において、医工薬、産独学の融合研究を行っています。
I.ナノ診断システムの創成
II.ナノ薬剤送達システム(ナノDDS)の創成
III.ナノ低侵襲治療システムの創成
IV.ナノ再建システムの創成
※「発表内容」など詳細は、添付の関連資料を参照