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東北大学、血管内皮増殖因子受容体のわずかな発現量の差が持続的な血管新生を誘導するメカニズムを発見

2011-10-04

血管内皮増殖因子受容体のわずかな発現量の差が持続的な血管新生を誘導するメカニズムの発見
〜動脈硬化性疾患の新たな治療法開発への期待〜

<概 要>
 東北大学病院がんセンター・大内憲明 センター長(教授)、同病院・濱田庸医員、同医学系研究科・権田幸祐 講師らの研究グループは、血管新生の仕組みを世界最高精度で解析できる光学装置を開発し、独自の虚血モデルマウスを使って、分子レベルで超高精度な生体観察を行いました。その結果、血管内皮増殖因子受容体のわずかな発現量の差が持続的な血管新生を誘導するメカニズムの発見に成功しました。これは従来の概念とは異なる血管新生の仕組みの発見であり、動脈硬化性疾患の新たな治療法開発に応用されることが期待されます。

 脳梗塞や心筋疾患などを含む動脈硬化性疾患は国内死因の1/3を占めており、この治療法開発に血管新生メカニズムの理解は欠かせません。血管新生では、細胞膜たんぱく質の1つである血管内皮増殖因子受容体が、10−20倍に過剰発現することが新たな血管の構築に重要であると長年信じられてきました。我々の開発装置でモデルマウス生体内の血管新生を可視化した結果、血管内皮増殖因子受容体の発現量がわずか3倍増加することで、持続的(3週間)な血管新生を誘導することを世界に先駆けて発見しました。

 本研究の光学システムにより、生理的環境下における血管新生の分子メカニズムのさらなる解明が見込まれます。また、本研究成果は、動脈硬化性疾患由来の虚血組織に対し、血管内皮増殖因子受容体の発現量を数倍増加させるだけで、治療に有効な血管新生を疾患部位特異的に誘導できることを示唆しています。この概念は、動脈硬化性疾患の治療部位を限定できるため、局所的かつ低副作用を併せ持つ新たな治療法開発へ発展することが期待されます。

 本研究の成果は2011年9月29日に生命科学分野の学術誌「Blood」にオンライン掲載されます。


<詳 細>
 日本では年間約30万人が、脳梗塞や心筋疾患を含む動脈硬化性疾患で亡くなっており、がんに匹敵する死亡原因です。動脈硬化性疾患の治療法開発に、血管新生メカニズムの理解は必須と考えられます。血管新生では、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)やその受容体 (VEGF receptor: VEGF−R) などのたんぱく質が、血管新生の制御因子として重要な役割を果たしています(図1)。血管新生の分子メカニズムは様々な形で狭心症や末梢動脈疾患などの動脈硬化性疾患の治療に応用されてきました。治療法の研究開発では、主として虚血モデルマウスを使い、「VEGFやVEGF−Rの分布や挙動」また「VEGF投与よる血管新生の効果」が調べられてきました。これらの研究には、虚血モデルマウス作製法と生体イメージング法の2つに問題点がありました。

 これまでの虚血モデルマウス作製法では、手術時の炎症や浮腫が血管新生メカニズムへ影響を与えている可能性がありました。我々は、マウスの右後肢の皮膚を切開後、半膜様筋上で3本の動脈を結紮(けっさつ)後切除し、半膜様筋の下層に位置する腓腹筋に対し、血流減による低酸素刺激を与え、選択的に血管新生を引き起こす虚血モデルマウスを開発しました(図2)。この方法を行うことにより、炎症や浮腫は半膜様筋に限定され、腓腹筋には血流減に伴う血管新生だけが引き起こされます。反対に、左後肢は対照実験用の正常肢として、皮膚の切開と縫合のみを行いました。モデルマウス虚血肢(右後肢)の血管新生を経時観察した結果、処置後3週間の間、持続的な血管新生が腓腹筋に誘導されていることが確認できました(図3)。特に処置後、7−14日の間に血管新生が活発に誘導され、血流量が効果的に回復している様子が観察され、この間の血管新生を観察することがメカニズム解明に有効であることが示唆されました。

 虚血モデルマウスにおいて、生体条件下での血管新生の評価は、X線CTやレーザードップラーイメージング装置(図1,3のマウス写真)などを用いて行われてきました。しかしこれらの生体イメージングの空間分解能は、マイクロメートルのレベルが限界であり、分子レベル(ナノメートルレベル:nm)のイメージングは困難でありました。これまでに我々は、がんモデルマウスを用い、生体内において9nmの空間位置精度で細胞膜上の受容体の分子イメージングを行うことに成功してきました(Gonda, et al. J.Biol.Chem. 2010, 2010年1月19日東北大学プレスリリース)。本研究ではこの生体イメージング技術を、血管新生観察用にさらに発展させ、虚血モデルマウスの血管新生を分子レベルで定量的に評価可能なシステムに改良しました(図4)。

 血管新生メカニズムの可視化を行うために、蛍光性ナノ粒子の1つである量子ドットとVEGFを結合させた蛍光プローブを作製しました(VEGF−量子ドット)。VEGF−量子ドットはVEGF−Rへの強い結合能を持っています。また量子ドットは1つ1つの粒子の明るさが一定であるため、量子ドットの蛍光強度・分布を分析することにより、VEGF−量子ドットが結合したVEGF−Rの体内分布を分子レベルで定量的に調べることができます。このVEGF−量子ドットを、血管切除の処置後4, 9, 14日目のマウスの血管内に投与し、独自光学システムで生体イメージングを行いました。イメージングでは、虚血肢(右後肢)と正常肢(左後肢)の間の比較を行いつつ、血管新生が起こっている「血管の分岐部」と血管新生が見られない「血管の直線部」に注目して解析を行いました。その結果、「血管の直線部」では虚血肢と正常肢の間でVEGF−量子ドットの分布に大きな違いは見られませんでした(図5)。一方、「血管の分岐部」では4, 9, 14日目の経時的観察の結果、VEGF−量子ドットが結合したVEGF−Rの分布に違いが見られました。4日目の虚血肢において、「血管の分岐部」と「血管の直線部」の間でVEGF−Rの分布に大きな違いは見られませんでした(図5)。しかし、9日目の虚血肢において、「血管の分岐部」のVEGF−Rは、「血管の直線部」の約3倍になっていました(図5)。さらに、14日目の虚血肢では、9日目よりも血管新生に伴う血流量の増加が見られるにもかかわらず、「血管の分岐部」のVEGF−Rは、「血管の直線部」の約3倍量で一定でありました(図5)。以上の結果から本研究では、(1)血管新生が行われる部位では、手術後9日目くらいにかけて、VEGF−Rの分布が3倍程度に増加すること、(2) 血管新生に必要なVEGF−Rの分布はわずか3倍量で十分であり、これによって血管直線部からの分岐(血管新生)が持続的に誘導されていくこと、などを示しています(血流が見られる血管におけるVEGF−Rの分布差を示すビデオイメージ有)。これまで、血管新生では、ホルマリン固定された虚血組織の観察から、VEGF−Rが10−20倍に過剰発現することが新たな血管の構築に重要であると長年信じられてきました。本研究成果は、虚血組織に対し、VEGF−Rの発現量を数倍増加させるだけで、治療に有効な血管新生を、疾患部位特異的にかつ持続的に誘導できることを世界に先駆けて示しております。

 これまで、虚血性疾患が原因となる動脈硬化性疾患の治療において、VEGF由来の治療薬を投与する試みがなされてきましたが、臨床応用には多くの問題が残されていました。血流は全身をめぐるため、VEGFを適切な場所に、適切な濃度で効果的に増加させることが難しいことが原因として考えられます。本研究の開発システムによって生体内血管新生の分子メカニズムの詳細解明が見込まれるとともに、本血管新生メカニズムの概念が、VEGF−Rの局所発現を誘導する方法へと結びつけば、局所的かつ低副作用を併せ持つ新たな動脈硬化性疾患の治療法開発へ発展することが大いに期待されます(図6)。


 ※図1〜6は添付の関連資料を参照


<論文名・著者名>
 In vivo imaging of the molecular distribution of the VEGF receptor during angiogenesis in a mouse model of ischemia.
(日本語訳:虚血モデルマウスの血管新生におけるVEGF受容体の分子分布の生体イメージング)
 Hamada Y,Gonda K,Takeda M,Sato A,Watanabe M,Yambe T,Satomi S,Ohuchi N.
 Blood 118(13): e93−e100 (2011).

 本研究は以下の研究事業の成果の一部として得られました。

・厚生労働科学研究費補助金 (厚生労働省):「生体超微細1分子可視化技術によるナノDDSとがん標的治療」
 研究代表者:大内憲明(東北大学大学院医学系研究科・教授)
・新学術領域研究「ナノメディシン分子科学」(文部科学省):「がんリンパ行性転移の分子機構解明に基づく新治療法創発」
 計画研究班・研究代表者:権田幸祐(東北大学大学院医学系研究科・講師)

・シーズ発掘試験(独立行政法人科学技術振興機構):「癌疾患モデルマウスのin vivoナノイメージング法の開発とナノ医療への応用」
 研究代表者:権田幸祐(東北大学大学院医学系研究科・講師)

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