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東北大学、超高密度ハードディスク用の巨大磁気抵抗素子を開発

2011-10-04

超高密度ハードディスク用巨大磁気抵抗素子の開発に成功

−1平方インチ当たり5 テラビット容量の次世代ハードディスクに適用可能な技術−


【研究成果】

 この度、東北大学大学院工学研究科(工学研究科長:内山勝)の大兼幹彦准教授、安藤康夫教授らのグループは、1平方インチあたりの記録密度が5テラビットクラスの、超高密度ハードディスク(HDD)の情報読み出し用ヘッドとして期待が大きい、面直通電型巨大磁気抵抗素子(以降CPP−GMR素子)の飛躍的な性能向上に成功しました。

 現在、高性能ハードディスクの信号読み取りヘッドとして用いられている、強磁性トンネル接合素子の基本構造は、磁石の性質を持つ薄膜(強磁性膜)2枚で非常に薄い絶縁膜を挟んだ構造をしています。しかしながら、この素子構成では、信号出力は大きい反面、磁気ヘッドの高速データ転送に必要な低抵抗素子を実現することが原理的に困難でした。

 一方で、次世代のハードディスク磁気ヘッドとして期待が大きいCPP−GMR素子は、 2枚で薄い非磁性金属を挟んだ構造をしています。従来のCPP−GMR素子は、オール金属で構成することで、低抵抗素子を実現可能な反面、磁気抵抗比が小さいことが大きな課題でした。今回、上記グループは、CPP−GMR素子の強磁性膜に、ハーフメタルホイスラー合金を用いることで、1平方インチ当たり5テラビットクラスの記録密度を有する、超高密度ハードディスクヘッドに適用可能な素子を世界で初めて開発することに成功しました。

 現在、情報家電や携帯機器などへの大容量情報記憶へのニーズは益々増していますが、開発したハーフメタルCPP−GMR素子は、その要求を満たす超高密度ハードディスクの実現に、大きく寄与するものと期待されます。

 本研究の一部は、総務省SCOPE「数Tbit/inch2磁気記録密度実現のためのオールホイスラー合金磁気抵抗素子の開発」、および、(米)Western Digital Corporationの支援を受けて実施されたものです。また、本研究成果は、名古屋で開催される国際会議「2011SSDM」に於いて注目論文として発表予定です。(発表日9月30日)


【研究成果の背景】

 電子は電荷とスピンという二つの性質を持っています。スピンには上向きのスピンと下向きのスピンの二種類が存在し、それぞれ上向き、下向きの微小磁石の性質を持っていると考えることができます。従来のエレクトロニクスは、電子の電荷としての性質を利用して、様々な機能を有する電子デバイスを創成し、我々の社会に多大なる貢献をしてきました。しかし、電子デバイスに対する、高性能化、高機能化および省エネルギー化等への期待が益々高まっている現在、エレクトロニクス分野における技術革新が求められています。

 それを可能にする分野の一つが、スピントロニクス(または、スピンエレクトロニクス)と呼ばれる工学分野です。スピントロニクスは、電子の電荷としての性質に加え、スピンとしての性質を最大限に利用することにより、これまでとは全く異なる原理による新しい電子デバイスを創成することができるのです。

 スピントロニクス分野において、最も重要なデバイスの一つはハードディスクです。ハードディスクは、多数の磁石でできた記録媒体と磁気ヘッドと呼ばれる素子で構成されています。それぞれの磁石の向きを、書き込みヘッドから出る磁界で制御することで情報の書き込みを行い、また磁石から漏れ出る、微小な磁界を読み取りヘッドで検出することで情報の読み出しを行なう仕組みになっています(図1)。ハードディスクの記録密度を向上させるためには、記録媒体中の磁石の大きさを小さくする必要がありますが、磁石を小さくすると、漏洩する磁界の大きさも小さくなるため、高感度な読み出しヘッドが必要になります。

 読み出しヘッドの高性能化に最も寄与した成果の一つが、1988年、P.Grunberg博士とA.Fert博士により発明された巨大磁気抵抗(GMR)素子です。GMR素子は、強磁性薄膜と磁性を持たない非磁性金属薄膜の積層構造を有しています(図2(a))。磁気抵抗効果とは、外部から磁界を印加したときに、2枚の強磁性薄膜の相対的な磁化の方向に依存して素子の抵抗が変化する現象です。この効果が大きいほど、小さな磁界を大きな電気信号に変換することが可能になり、磁気ヘッドの性能が向上します。この巨大磁気抵抗素子の発見により、ハードディスクの記録密度は飛躍的に向上しました。この功績により彼らは2007年にノーベル物理学賞を受賞しています。また、1994年、東北大学の宮崎照宣教授らによりGMR素子よりも大きな磁気抵抗効果を示す、強磁性トンネル接合(MTJ)素子が開発されました。これは強磁性薄膜2枚で非常に薄い絶縁体薄膜をサンドウィッチした構造をもっています(図2(b))。その後、産業技術総合研究所の湯浅新治博士およびキャノンアネルバ(株)により、MTJの強磁性層としてCoFeB、絶縁層にMgOを使用することにより磁気抵抗変化率を更に大きくできることが報告されました。これらMTJ素子が磁気ヘッドに応用されたことにより、ハードディスクの記録密度は益々向上しています(図3)。

 しかし、記録密度の向上とともに、ヘッドの微小化が進むことで、MTJ素子では解決困難な素子抵抗値の課題が鮮明になってきました。磁気ヘッドの抵抗値は、転送速度を向上させるために小さくする必要があるのですが、MTJ素子では絶縁体を用いているために抵抗値を小さくすることが原理的に難しいことになります。また、素子抵抗値は、素子の断面積に反比例しますので、微小化とともに増大してしまいます。そこで、次世代のハードディスク用ヘッドとして面直通電型巨大磁気抵抗(CPP−GMR)素子への期待が高まっています。CPP−GMR素子は、従来のGMR素子と同様に、強磁性薄膜と非磁性金属薄膜の積層構造をもっていますが、素子の膜面直方向に電流を流すことが特徴です(図2(c))。素子の横方向に電流を流すGMR素子に比べて磁気抵抗効果が原理的に大きくなり、また、すべての層が金属膜なので、低抵抗化に対して大きなアドバンテージを有しています。しかし、これまでのCPP−GMR素子は、MTJ素子に比べて磁気抵抗効果が小さく、また、次世代ヘッドに要求される値にも到達していませんでした。従って、CPP−GMR素子における高磁気抵抗化のための、新しい技術(イノベーション)が必要であると考えられてきていました。


※ 図説・用語解説は、関連資料参照


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