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東大、遺伝子発現を調節する小分子RNAが作られるしくみを発見

2011-09-22

遺伝子発現を調節する小分子RNAが作られるしくみ


発表概要:
 ヒトをはじめとする多くの生物では、microRNA(miRNA)と呼ばれる小さなRNA(1)が、発生(2)や癌化などの生命現象を精密に制御していることが知られています。miRNAは最初から小さいわけではなく、もとになる長いRNAから2回の切断を受けて切り出されて作られます。我々は、この2回目の切り出しを行うDicerと呼ばれるタンパク質が、どのようにして正しいRNAのみを正確に切断しているのかを調べました。その結果、ショウジョウバエのDicerはRNAの全体的な「形」を厳密に見分けているのに対し、ヒトのDicerはこのような厳密な認識を行っていないことが明らかになりました。この発見は、miRNAが作り出されるしくみについての基礎的な理解を深めるものであると同時に、人工的なmiRNAを設計する際の指針となるものです。

発表内容:
 小さなRNAであるmicroRNA(miRNA)は、標的となる遺伝子のはたらきを抑制することで、発生のタイミングや癌化など多くの重要な生命現象を制御しています。例えばヒトでは、全遺伝子の3分の1程度がmiRNAによる制御を受けていると予想されています。また、miRNAは様々な疾患の原因遺伝子を制御していることが明らかになっており、それを利用した治療法なども盛んに研究されています。
 miRNAは最初から小さいわけではなく、非常に長いRNAとして作られた後、一度核の中で切断を受け、precursor miRNA(pre−miRNA)という形になります。その後、さらに細胞質で2度目の切断を受けて、成熟型の小さなmiRNAとなります。miRNAは自分自身の塩基配列(3)を基準に標的遺伝子を認識するため、この2回の切断は、正しいRNAのみを正しい位置で切断するように厳密におこなわれる必要があります。
 1回目の切断はDrosha、2回目の切断はDicerと呼ばれるタンパク質がおこないます。Droshaの切断様式については、これまでも研究されてきましたが、Dicerによる正確な切断のメカニズムはよく分かっていませんでした。本研究では、ショウジョウバエのDicerが、pre−miRNAの全体的な「形」を厳密に認識することで、切断すべき正しいRNAを選択し、正確な長さのmiRNAを切り出していることを明らかにしました。pre−miRNAは全てヘアピンの様な形をしていますが、ショウジョウバエのDicerはヘアピンの両端を認識し、その距離を正確に測ることで、全体として正しい「形」を持ったpre−miRNAのみを効率よく切断していました。一方で、ヒトのDicerはこのような厳密な「形」の認識を行っていないことも明らかとなりました。
 この発見は、Dicerタンパク質の性質を明らかにし、miRNAが作り出されるしくみの基礎的な理解を深めるものであると同時に、様々な生物において人工的なmiRNAを設計する際の指針となるものです。この知見を元に、今後、miRNAが関わる疾患の機構解明やその治療に向けた研究がさらに進展することが期待されます。

用語解説: 
 1)RNA:日本語ではリボ核酸。通常はDNAデオキシリボ核酸)がもつ遺伝情報のコピーとしてタンパク質の設計図に使われる。しかし、小さなRNAタンパク質の設計図にはならない。
 2)発生:受精卵から成体ができる過程のこと。
 3)塩基配列:遺伝情報の構成要素である塩基の並び方のこと。塩基は通常4種類存在し、2種類ずつペアを組む。


 ※参考図は添付の関連資料を参照

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