イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

北海道大学、数ナノメートルの加工分解能を有する光リソグラフィー技術を開発

2011-08-22

ナノメートルの加工分解能を有する光リソグラフィ技術の開発に成功


<研究成果のポイント>
 ・ 髪の毛の細さの1000分の1倍程度の大きさの構造を,従来の技術よりも簡単な装置構成で,より精緻に加工できる技術を実現。
 ・ 本技術は,従来の半導体加工向けの光リソグラフィで広く用いられているポジ型フォトレジストを使用可能。
 ・ リフトオフやエッチングなどの既存の半導体加工プロセスと組み合わせることで,次世代太陽電池の集光システムへの応用や,種々のナノデバイスの作製に応用可能。


<研究成果の概要>
 北海道大学電子科学研究所 上野貢生准教授及び三澤弘明教授らは,近赤外光を露光用光源として,シングルナノメートルの加工分解能を有する光リソグラフィ技術の開発に成功しました。光リソグラフィ技術は,細かい構造を書き込んだフォトマスクと呼ばれるいわゆる“鋳型”を,光によって大量にコピーする技術であり,現在半導体加工に広く用いられています。より性能の高い半導体基板を作成するためには,より細かい構造を半導体基板上に塗布されたフォトレジストと呼ばれる写真乾板のようなものにコピーする必要があります。コピーできる限界の細かさ(加工分解能)というのは,コピーの際に使用する露光用光源の波長に依存します。そのため,これまではより細かい構造を作製するために光源を短波長化し,現在,真空環境下でなければ利用できない真空紫外光(EUV,波長13.4nm)を露光用光源とした高額な露光装置を用いることで加工分解能は20nm〜30nmの領域まで到達しています。

 本研究では,光源を短波長化するのではなく逆に波長が比較的長く通常の大気中でも利用できる近赤外光を用いて加工分解能の向上を実現しました。近赤外光と強く相互作用する金のナノ構造を配列したガラス基板をフォトマスクとしてフォトレジストの露光に用いることにより,フォトマスクのパターン形状を正確に反映して,三角形やチェイン状のナノパターンあるいはナノギャップパターンなど,従来の高分解能光リソグラフィ技術では形成することが困難であったナノパターニングを達成しました。本技術により,平均サイズが141.2nmの三角形パターンを,標準偏差4.4nmという低いサイズのばらつきでフォトレジスト基板に作製することが可能です。

 本技術とドライエッチングやリフトオフなどの種々の半導体加工プロセスを組み合わせることにより,様々なナノ加工への応用が期待されます。特に,プラズモン太陽電池などへの応用が期待される金属ナノ構造を光照射面積全域に作製することが可能であり,構造サイズや構造間距離(ギャップ)をシングルナノメートルの分解能で制御することが可能であることを実証しました。

 本研究成果は,加工分解能の高さが評価され,米国物理学会「Applied Physics Letters」誌に掲載され,表紙に選ばれました。また2011年8月21日から米国サンディエゴにて開催の「SPIE Optics + Photonics 2011」のExhibition において北海道大学が出展するブースで8月23日から25日の間,展示・発表されます。

 なお,本研究は,文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究「光−分子強結合反応場の創成」の助成を受けて実施されました。

 また,JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「ナノ製造技術の探索と展開」研究領域(研究総括:横山直樹 産業技術総合研究所 連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセンター 連携研究体長)における研究課題「ナノ光リソグラフィーによる金属ナノパターン作製技術の開発」(研究者:上野貢生)の一環として行われました。

(特願2007−505844,US 7824761,特願2009−011965,特願2010−045503,PCT/JP2011/001192)


<論文発表の概要>
研究論文名: Homogeneous nano−patterning using plasmon assisted photolithography
         (プラズモンリソグラフィを用いた高精度ナノパターニング)
著者: K. Ueno1,2, S. Takabatake1, K. Onishi1, H. Itoh1, Y. Nishijima1, H. Misawa1
所属: 1 北海道大学電子科学研究所, 2 科学技術振興機構JST−さきがけ
公表雑誌: Applied Physics Letters 誌
公表日: 日本時間(現地時間)2011年7月7日(米国東部時間2011年7月6日)


<研究成果の概要>
(背景)
 半導体加工技術の基礎となる光リソグラフィ技術は,光源を短波長化することにより加工分解能を向上させ,極紫外光(EUV,波長13.4nm)を用いたEUVリソグラフィ技術により,分解能は現在20nm〜30nmの領域にまで到達しています。また,エキシマーレーザー(ArF,波長193nm)を光源として,光学系に液浸レンズを用いた露光装置では40nm以下の加工分解能を有し,産業界において最先端の大規模集積回路(LSI)を製造するために使用されています。しかし,光の波長を短波長化することにより実現できる加工分解能の向上は,すでにほぼ限界に到達しており,半導体加工における集積密度・性能のさらなる向上のためには新たな光リソグラフィ技術の開発が必要不可欠です。近年,近接場露光技術が,光の波長よりも小さいサイズ領域の加工を簡便に実現できる光リソグラフィ技術として注目されています。近接場光は,ナノメートルサイズの構造体に局在する伝播しない光で,回折限界よりも遥かに小さい領域に光電場が局在化されます。しかし,シングルナノメートルの領域に近接場光を局在化させた場合,深さ方向のプロファイルもシングルナノメートルとなり,比較的厚いレジスト膜にシングルナノメートルの加工分解能で深くパターニングすることはできません。また,最先端の光リソグラフィ(ArF液浸,EUVなど)技術においても,三角形やチェイン状のナノパターン,あるいはナノギャップパターンなどを高分解能に形成することは困難でした。

(研究手法)
 髪の毛の細さの1000分の1倍程度のサイズである金や銀などの金属のナノ構造体は光と相互作用(局在プラズモン共鳴)して,光をある時間閉じ込めたり,ある空間に局在化させたりする光アンテナ効果を示すことで知られています。本研究では,この金属ナノ構造に誘起される局在プラズモン共鳴に基づいて,放射モードと結合した散乱成分の光がフォトレジスト膜中を伝播する現象を利用して,シングルナノメートルの加工分解能でレジストパターンを形成する新しいプラズモンリソグラフィ技術を開発しました。図1(a)は,フォトマスクパターンの走査型電子顕微鏡写真です。図2は,本技術による加工のプロセスを示しています。フォトマスクは,ガラス基板上に,電子線リソグラフィによるナノパターニングとスパッタリング(金 厚さ10nm)による金属成膜法を用いて作製しました。あらかじめポジ型フォトレジスト(東京応化工業(株),TSMRV−90)を70nmの厚みで成膜した基板に,作製したフォトマスクを密着させて,波長800nmのレーザー光(フェムト秒レーザー,パルス幅100fs,繰り返し82MHz)をフォトレジスト基板側から任意の時間照射することによりフォトレジスト基板の露光を行い,専用の現像液で現像後,フォトレジスト基板上にパターニングされた形状を電子顕微鏡により観察しました。

(研究成果)
 作製したフォトマスクのプラズモン共鳴波長は870nmに存在し,波長800nmのフェムト秒レーザービームを照射した場合,双極子共鳴ピークの短波長側に存在する高次の共鳴モードを励起することになり,多重極子共鳴が誘起されます。これにより,プラズモン共鳴に基づいて放射モードと結合した散乱成分の光は,フォトマスクの形状を強く反映し,フォトマスク形状に依存した光がフォトレジスト中を伝播することになります。したがって,図1(b)の形成されたフォトレジストパターンの電子顕微鏡写真(現像後)に示すように,図1(a)のフォトマスク形状を反映して四角い100nm四方のナノパターンが厚さ70nmのポジ型フォトレジストに転写露光されることが明らかになりました。また,形成されたレジストナノパターンの断面電子顕微鏡写真(図1(c))にも示されているように,レジスト表面はプラズモン共鳴の近接場光成分によって露光されるために,横に広がった断面プロファイルが観察されましたが,レジスト表面から基板方向に向かうにしたがって,プラズモン共鳴に基づいて放射モードと結合した散乱成分の光がフォトレジスト膜中を伝播して露光される様子が観察されました。この方法論を使用すればさまざまな形状のナノパターンも形成することが可能です。一例として三角形パターンを転写露光した結果を図3(a)に示しますが,このような三角形パターンが1回の露光で光照射領域全域に形成されることを確認しました。なお,図3(a)に示した三角形パターンのサイズの平均は141.2nm,サイズのばらつきは標準偏差で4.4nmであることが電子顕微鏡観察による統計(100個計測)から明らかになり,鋭角な頂点を有する三角形パターンでもシングルナノメートルの分解能でパターンを作製することが可能であることを明らかにしました。また,三角形だけでなく,ディスクやチェイン(図3(b)参照)など様々な形状のパターンを高精細に作製可能であることを明らかにしています。
 さらに,本技術により形成したレジストパターンに金をスパッタリングし,リフトオフプロセスを行うと金のナノ構造を基板上に作製(複製)することが可能であることを明らかにしました。図4に,形成された金ナノ構造の電子顕微鏡写真を示します。構造サイズのばらつきは,標準偏差で3.8nmであり,2006年にアメリカ化学会のJACS誌(K. Ueno et al. J. Am. Chm. Soc., 128,14226 (2006).)に報告した100kVの加速電圧を有する電子ビーム露光装置を用いて作製した金ナノ構造のサイズ分布(標準偏差: 3.2nm)とほとんど変わらない値を示すことが明らかになりました。このことから,本技術は,金属ナノ構造をシングルナノメートルの構造サイズのばらつきで作製することが可能となりました。作製した金のナノ構造は,プラズモン共鳴を示し,センサーやプラズモン太陽電池の大面積化技術などへの応用が期待されます。また,本技術を用いて,ナノギャップ金属構造もギャップ幅をシングルナノメートルの分解能で制御して作製可能であることを明らかにしました。つまり,本技術は構造サイズ及び構造間距離をシングルナノメートルの分解能で制御してフォトレジストパターンや金属ナノパターンを作製できる技術であることが実証されました。

(今後への期待)
 近接場リソグラフィ技術を用いないで,図3(b)の電子顕微鏡写真に示すような10nm幅のボトルネックを有するナノチェインパターンを高精度に転写露光することが可能であることから,非接触で高い加工分解能を有する(10nm−node)光リソグラフィ技術への応用展開が期待されます。


 ※参考図は添付の関連資料を参照

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版