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国リハ研と理研、ヒト網膜細胞由来の完全な遺伝子16万クローンを公開

2011-08-22

ヒト網膜細胞由来の完全な遺伝子16 万クローンを公開

−世界最大級のヒト網膜完全長cDNA リソース−


<概要>
 国立障害者リハビリテーションセンター研究所(国リハ研、加藤誠志所長)は、視覚障害に関わる遺伝子を探索する研究の一環として、ヒト網膜細胞で発現している全遺伝子の解析を進め、独自技術を用いて約16 万個のヒト網膜細胞由来完全長cDNA クローンiを作製しました。この中の39,643 クローンは、末端の塩基配列情報を解析済みであり、7,067 種類の遺伝子から構成されています。このクローンセットは、ヒト網膜細胞由来の完全長遺伝子セットとしては世界最大級であり、これまで取得困難であった希少な遺伝子や長いサイズの遺伝子の完全長cDNA を多数含んでいます。理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC、小幡裕一センター長)は、これらのクローンを公開し、世界中の研究者による利用を可能にしました。今後、網膜細胞の変性や再生メカニズムを解明するための材料としてのみならず、ヒト遺伝子の多様性に関する研究を行うための完全長cDNA リソースとしての活用が期待されます。


1.背景

 国立障害者リハビリテーションセンターを訪れる視覚障害者が最も多く罹患している疾患は、網膜色素変性症(色変)です。色変は、夜盲に始まり、視野狭窄を経て最終的には失明に至る進行性の遺伝子疾患です。人種や地域に依存せず3,500.4,000 人に一人の罹患率であり、日本で3 万人以上、世界で170 万人以上の患者がいると言われています。これまでに世界で40 種類以上の原因遺伝子が報告されていますが、日本人の色変患者の原因遺伝子も多様であることが示唆されています。そこで、国リハ研では新規の原因遺伝子候補を探索する目的で、網膜細胞(視細胞と網膜色素上皮細胞、図1)で発現している遺伝子の網羅的解析を実施
してきました。

 国リハ研の加藤が開発したベクターキャッピング法と呼ばれる独自技術を用いて、網膜細胞から完全長cDNA ライブラリーを作製し(図2)[1,2]、このライブラリーに含まれるcDNA クローンの塩基配列解析を行いました。その結果、網膜細胞で発現している多くの新しい遺伝子を見出すことが出来ました[3,4]。収集したクローンセットは、ヒト網膜細胞由来の完全長遺伝子セットとしては世界最大級であり、これまで取得困難であった希少な遺伝子や長いサイズの遺伝子の完全長cDNA を多数含んでいます。したがって、このクローンセットは網膜の研究者にとってのみならず、ヒトの遺伝子に関わっているすべての研究者にとってもヒト完全長cDNA リソースとして有用です。
理研BRC では、遺伝子リソースについて、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP) 「遺伝子材料」(ヒト、動物および微生物)の中核機関として、国内外の大学・研究機関で作製された各種生物の遺伝子を収集、保存、品質管理し、提供しています。ヒト遺伝子については、昨年3 月から、文部科学省ゲノムネットワークプロジェクト(GNP)iiによって作製ならびに収集されたヒト完全長cDNA コレクションを提供しています。GNP のコレクションは約14, 000 種類のヒト遺伝子をカバーしていますが、ヒト遺伝子の数は約23, 000 種類と言われています。今回の国リハ研から寄託されたヒト網膜完全長cDNA クローンを加えることにより、理研BRC のヒト完全長cDNA コレクションを充実し、ユーザーの利便性の向上を図りました。


2.本クローンセットの内容

 ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE−19 とヒトレチノブラストーマ細胞株Y79(錐体前駆細胞由来)という2 種類の網膜由来の細胞を用いて、それぞれの細胞のmRNA からベクターキャッピング法で完全長cDNAライブラリーを作製しました。ARPE−19 ライブラリーから約10 万クローン、Y79 ライブラリーから約9 万クローン、総計19 万クローンを単離し、各クローンを96 ウェルあるいは384 ウェルのプレートにグリセロールストックとして保存しました。これらのクローンの中から選んだそれぞれ約24,000 クローンの末端部分塩基配列解析を行い、それぞれ約20,000 クローン、合計39,643 個の完全長cDNA クローンを同定しました[3,4]。これらのクローンは、塩基配列解析の結果、7,067 種類の遺伝子からなることが分かりました。配列解析を行った全クローンの内訳と末端の部分塩基配列のリストは、理研BRC のホームページ[http://dna.brc.riken.jp/ja/NRCDhumja.html]からダウンロードできます。理研BRCでは、クローン単位での分譲に対応いたしております。また、ご希望により、各々のライブラリーを丸ごと複製したプレート単位での分譲にも対応いたします。このライブラリーに含まれる完全長cDNA クローンの割合は83%ですので、19万クローンの中には、約16 万個の完全長クローンが含まれていると見積もられます。


3.本クローンセットの特徴

 ベクターキャッピング法を用いて合成した完全長cDNA は、従来法で合成したcDNA に比べて次のような利点を有しています。

(1)キャップ付加部位からポリA テールまでを含む完全長cDNA である。
 完全長cDNA の末端に塩基G が一個挿入されるので、G の有無によって完全長かどうか判定できます(図2)。本クローンセットに含まれている完全長cDNA クローンはこの要件を満たしており、公開したクローンリストに記載した配列情報により、判定ができます。

(2)人工的な変異や欠失を含む可能性が極めて低い。
 ベクターキャッピング法には、従来法に含まれていた人工的な変異や欠失を生成する可能性のある工程がありません。従って、cDNA 合成過程で人工的な変化が起こる可能性が極めて低く、完全なmRNA の情報を持つ正真正銘の完全長cDNA が得られます。

(3)希少な遺伝子や長い遺伝子を含む。
 ベクターキャッピング法を用いると、mRNA の発現量や長さによるバイアスがかからず、希少な遺伝子や長い遺伝子の完全長cDNA が合成されます。実際、7,000 塩基対以上のcDNA を有するクローンを多数含んでおり[1,3,4]、これまでに同定された最長のクローンは13,000 塩基対でした[4]。

(4)新規のバリアントを含む。
 遺伝子名が同じでも、転写開始点・スプライシング・ポリA 付加部位が異なる多くのバリアントを含んでいます(図3)[3,4]。特に、希少な遺伝子や長い遺伝子のバリアントには、データベースにも記載のない新規のものが多く含まれています。

(5)アンチセンス遺伝子を同定できる。
 ベクタープライマーを使用しているためcDNA インサートの向きが一義的に決まり、アンチセンス遺伝子(図3)由来のcDNA の同定が容易にできます[3,4]。本クローンセットは、これまで確認されていなかった新規のアンチセンス遺伝子cDNA を含んでいます。


4.関連する発表論文

1)Kato S, Ohtoko K, Ohtake H, Kimura T. Vector−capping: a simple method for preparing a high−quality full−length cDNA library. DNA Res. 2005 Feb 28;12(1):53−62.
 http://dnaresearch.oxfordjournals.org/content/12/1/53.long

2)Kato S, Oshikawa M, Ohtoko K. Full−length transcriptome analysis using a bias−free cDNA
 library prepared with the vector−capping method. Methods Mol Biol. 2011;729:53−70.
 http://www.springerlink.com/content/v167171110r03558/#section=864398&page=1

3)Oshikawa M, Sugai Y, Usami R, Ohtoko K, Toyama S, Kato S. Fine expression profiling of full−length transcripts using a size−unbiased cDNA library prepared with the vector−capping method.DNA Res. 2008 Jun 30;15(3):123−36.
 http://dnaresearch.oxfordjournals.org/content/15/3/123.long

4)Oshikawa M, Tsutsui C, Ikegami T, Fuchida Y, Matsubara M, Toyama S, Usami R, Ohtoko K,Kato S. Full−length transcriptome analysis of human retina−derived cell lines ARPE−19 and Y79using the vector−capping method. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2011 Jun 22. [Epub ahead of print]
 http://www.iovs.org/content/early/2011/06/22/iovs.11-7479.abstract

5.クローンセット作製に関わったグループ
 ・国立障害者リハビリテーションセンター研究所障害工学研究部
 ・東洋大学大学院工学研究科
 ・(株)日立ハイテクノロジーズ


※ 詳細は、オリジナルリリース参照

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