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東大、福島第一原発事故に伴う農業現場の放射能汚染についての研究で5つの研究成果を発表

2011-08-20

福島第一原子力発電所事故発生に伴う、農業現場における放射能汚染についての研究報告」


 東京大学大学院農学生命科学研究科全体が取り組んでいる、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による農業現場における放射能汚染についての研究において、今回、その研究結果が5つの速報としてRadioisotopes誌の8月号に掲載されることになりました。
 つきましては、掲載される5つの研究成果について、以下のとおり、お知らせいたします。

 1〜3:農学生命科学研究科と福島県農業総合センターとの共同研究
 4:農学生命科学研究科附属牧場での研究
 5:農学生命科学研究科附属生態調和農学機構での研究

 研究科の取り組みについての問い合わせ先:東京大学大学院農学生命科学研究科長 長澤 寛道 


1.福島県における降下した放射性物質のコムギ組織別イメージングとセシウム134およびセシウム137の定量

発表者:
 田野井慶太朗(東京大学生物生産工学研究センター環境保全工学部門 助教)
 橋本健(東京大学大学院農学生命科学研究科技術基盤センター 技術専門職員)
 桜井健太(東京大学大学院農学生命科学研究科放射性同位元素施設 技術補佐員)
 二瓶直登(福島県農林水産部農業支援総室環境保全農業課 主査、福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員;当時)
 小野勇治(福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員)
 中西友子(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 教授)
  
 問い合わせ先:東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授 中西友子

 著者らは、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の麦への蓄積様式について、γ線放出核種の同定および分布について明らかにした。5月15日のコムギについて核種分析したところ、134Csと137Csが検出され、これらを足した放射性セシウム濃度は、枯葉で約284,500Bq/kgと穂の約300Bq/kgと比較して約1,000倍と突出して高い値であった。次に、5月26日のコムギについて、各葉位、穂および茎に分けて同様に測定したところ、放射性セシウム濃度は、事故当時既に展開していた葉において高く、事故後展開した葉も含め、古い葉の順に高い値であり、穂が最も低い濃度であった。これら放射性物質の分布を可視化したところ、既に展開中の葉においてスポット状に強いシグナルが観察された。これらの結果から、事故時展開していた葉で高濃度に検出される放射性物質は、放射性降下物が直接付着したものが主であることが示唆された。一方で、事故時展開していなかった葉においても、古い順に放射性セシウム濃度が高かったことから、植物体内において葉へ移行した放射性セシウムは転流(再分配)されにくいことが示唆された。


2.福島県の水田および畑作土壌からの137Cs、134Csならびに131Iの溶出実験

発表者:
 野川憲夫(東京大学アイソトープ総合センター放射線管理部門 助教)
 橋本健(東京大学大学院農学生命科学研究科技術基盤センター 技術専門職員)
 田野井慶太朗(東京大学生物生産工学研究センター環境保全工学部門 助教)
 中西友子(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 教授)
 二瓶直登(福島県農林水産部農業支援総室環境保全農業課 主査、福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員;当時)
 小野勇治(福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員)

 問い合わせ先:東京大学アイソトープ総合センター放射線管理部門 助教 野川憲夫 
  
 福島第一原子力発電所爆発事故後36日目(4月20日)に福島県の水田及び畑作土壌を採取し放射性のセシウム並びにヨウ素の溶出実験を行った。4月20日に採取した土壌には137Cs、134Cs及び131Iが検出され、水を用いた場合の溶出率は水田、畑作土壌共に、約20%の137Cs、134Cs及び131Iが溶離した。抽出を繰り返しても2回目以降の溶離は殆どみられなかった。水田土壌については、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、肥料、消石灰或いはセメント等を加えて1日放置して溶離を試みたが、溶出率は水抽出と同様の結果であった。 


3.福島県郡山市の水田土壌における放射性セシウムの深度別濃度と移流速度

発表者:
 塩沢昌(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻 教授)
 田野井慶太朗(東京大学生物生産工学研究センター環境保全工学部門 助教)
 根本圭介(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻 教授)
 吉田修一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻 准教授)
 西田和弘(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻 助教)
 橋本健(東京大学大学院農学生命科学研究科技術基盤センター 技術専門職員)
 桜井健太(東京大学大学院農学生命科学研究科放射性同位元素施設 技術補佐員)
 中西友子(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 教授)
 二瓶直登(福島県農林水産部農業支援総室環境保全農業課 主査、福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員;当時)
 小野勇治(福島県農業総合センター作物園芸部品種開発科 主任研究員)

 問い合わせ先:東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 教授 塩沢昌 
  
 福島第一原子力発電所事故で放射線物質が多量に降下してから約2ヶ月後に、耕起されていない水田の深さ15cmまでの表土を1〜5cmごとにサンプリングして、放射性セシウム(134Csと137Cs)の鉛直濃度分布を求めた結果、放射性Csの88%が0−3 cmに、96%が0−5cmに止まっていた。しかし、量的に大半は表面付近に存在するものの、15〜20cmの層まで新たに降下した放射性Csの影響が及んでいた。濃度分布から求めた放射性Csの平均移動距離は約1.7cmで、70日間の雨量(148mm)から蒸発散量を引いて体積含水率で割った水分子の平均移動距離は約20cmと推定され、土壌への収着により、Csの移流速度は水の移流速度に比べて1/10〜1/20であった。しかし、文献にみられる実験室で測定した収着平衡時の土壌固相と土壌水との間の分配係数から計算される移流速度よりは2−3桁大きく、現場の移動現象が収着平衡からほど遠いことを示している。一方、耕起された水田では、表層の高濃度の放射性セシウムが0−15cmの作土層内に混合されて平均値(約4000 Bq//kg)となっていた。


4. 福島第一原子力発電所事故後の茨城県産牧草を給与した牛の乳における放射性核種濃度

発表者:
 橋本健(東京大学大学院農学生命科学研究科技術基盤センター 技術専門職員)
 田野井慶太朗(東京大学生物生産工学研究センター環境保全工学部門 助教)
 桜井健太(東京大学大学院農学生命科学研究科放射性同位元素施設 技術補佐員)
 飯本武志(東京大学環境安全本部 准教授)
 野川憲夫(東京大学アイソトープ総合センター放射線管理部門 助教)
 桧垣正吾(東京大学アイソトープ総合センター化学部門 助教)
 小坂尚樹(東京大学アイソトープ総合センター業務係 技術職員)
 高橋友継(東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場 技術専門職員)
 榎本百合子(東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場 技術職員)
 小野山一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場 技術職員)
 李俊佑(東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場 助教)
 眞鍋昇(東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場 教授)
 中西友子(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 教授)
  
 問い合わせ先:東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授 中西友子 
           東京大学大学院農学生命科学研究科 附属牧場 教授 眞鍋昇

 福島第一原子力発電所事故の3週後(4月8日)および12週後(6月3日)に東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場(原発から直線距離で約130km南方の茨城県笠間市に位置する)において採取した土壌、牧草、乳牛飲料用井戸水、及び牛乳中の131I、134Csおよび137Csの放射能濃度を測定したので報告する。測定の結果、飼料中の放射性核種は速やかに牛乳中に移行することが分かった。しかし、いずれの測定でも牛乳中の131I、134Csおよび137Csの放射能濃度は国の暫定許容値(放射性ヨウ素:70 Bq/kg、放射性セシウム:300 Bq/kg)を下回る値であった。


5. 福島第一原子力発電所事故による低濃度放射性降下物に起因した土壌および野菜の放射性核種濃度の測定

−東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構における事例−

発表者:
 大下誠一(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境工学専攻 教授)
 川越義則(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境工学専攻 助教)
 安永円理子(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 准教授)
 高田大輔(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
 中西友子(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 教授)
 田野井慶太朗(東京大学生物生産工学研究センター環境保全工学部門 助教)
 牧野義雄(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境工学専攻 准教授)
 佐々木治人(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 准教授)

 問い合わせ先:東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境工学専攻 教授 大下誠一 

 福島原子力発電所から約230km離れた東京都西東京市における研究圃場において、原発事故後に栽培された野菜及び土壌の、134Csと137Csの放射能を測定した。試料は47日後のジャガイモの葉、並びに、苗の定植40日後のキャベツの外葉を用いた。両者共可食部ではないが、134Csと137Csの総量は 9Bq/kg以下となり、摂取制限に関する指標値500 Bq/kgより低い値であった。土壌は約130 Bq/kgであり、天然の40Kの約290 Bq/kgと比較しても低い値であった。キャベツの外葉を水で洗浄する前後の放射能像をイメージングプレートにより得たが、変化は見られなかった。


発表雑誌:
 雑誌:Radioisotopes 8月号【社団法人日本アイソトープ協会 学術論文誌】
 掲載予定日:2011年8月15日(月)
 著者:1.田野井慶太朗、橋本健、桜井健太、二瓶直登、小野勇治、中西友子
     2.野川憲夫、橋本健、田野井慶太朗、中西友子、二瓶直登、小野勇治
     3.塩沢昌、田野井慶太朗、根本圭介、吉田修一郎、西田和弘、橋本健、桜井健太、中西友子、二瓶直登、小野勇治
     4.橋本健、田野井慶太朗、桜井健太、飯本武志、野川憲夫、桧垣正吾、小坂尚樹、高橋友継、榎本百合子、小野山一郎、李俊佑、眞鍋昇、中西友子
     5.大下誠一、川越義則、安永円理子、高田大輔、中西友子、田野井慶太朗、牧野義雄、佐々木治人 


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