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NIMS、双葉電子と共同で六方晶窒化ホウ素を用いた遠紫外線での殺菌効果を確認

2010-11-01

六方晶窒化ホウ素を用いた遠紫外線で殺菌効果を確認

− 水銀レス・面発光タイプの遠紫外線発光デバイス −


 独立行政法人物質・材料研究機構 光材料センター(センター長 大橋 直樹)の谷口 尚 主席研究員と渡辺 賢司 主幹研究員は双葉電子工業株式会社 開発研究所(所長 野村 裕司)と共同で、物質・材料研究機構の六方晶窒化ホウ素(hBN)1)粉末と双葉電子工業のカソードを組合せたカソードルミネッセンス方式の遠紫外線2)発光デバイスにおいて、黄色ぶどう球菌3)を用いた殺菌試験を行った結果、60秒の紫外線照射で99.99%以上の殺菌能力があることを確認した。
 hBNは化学的に安定・無害な材料であり、環境にやさしい水銀レスの遠紫外線発光デバイスと成りうる発光材料である。カソードは表示デバイス用(蛍光表示管4)、スピント型FED、CNT型FED)の平面カソードを使用している為、大面積での均一な発光を実現している。
 物質・材料研究機構と双葉電子工業は、2009年9月に高輝度遠紫外線発光デバイスの開発に成功しており、今回、hBNの結晶性改善とデバイス構造の変更により紫外線強度の向上を実現したことで、殺菌デバイスの可能性を確認した。
 今後は殺菌能力の更なる向上をめざし、紫外線強度の向上と発光面の大面積化を行い、「水銀レス・面発光タイプ」の遠紫外線発光デバイスの開発を進める。


1.研究の背景
 遠紫外線発光デバイスは、光触媒による環境汚染物質の分解処理法の光源や、病院・食品加工・上下水道の殺菌用光源など幅広い分野での利用が期待されている。現在、遠紫外線発光デバイスには主に水銀ランプが利用されているが、漏洩時に環境や人体に及ぼす影響により、水銀の使用はRoHS指令5)などで規制されている。このため、水銀ランプに換わる環境にやさしい遠紫外線発光デバイスの開発が求められている。


2.研究成果の内容
 本研究では、物質・材料研究機構と双葉電子工業が開発している遠紫外線発光デバイス(図1−1、1−2)の殺菌能力について確認を行った。
 遠紫外線発光デバイスの発光材料には、物質・材料研究機構にて作製した六方晶窒化ホウ素を使用した。カソードは、双葉電子工業の表示デバイス用の平面カソードを使用しているため、大面積での均一な発光が可能である。カソードルミネッセンス方式は、発光材料を変更することで可視光領域からX線領域まで幅広いエネルギー帯の光を放出できることが特徴である。
 紫外光の出力スペクトルは225nmをピーク波長とする単色光出力であり、殺菌線6)からは約35nm短波長側にシフトしたスペクトル特性を示す(図2)。
 デバイス仕様は、電子入射面の大きさを 12×20mmとし、駆動条件は、アノード電流を0.2mA(アノード電流密度 0.08mA/cm2)、アノード電圧を10kVとした。
 今回の試験に使用した遠紫外線発光デバイスは、六方晶窒化ホウ素の結晶性改善、デバイス構造・駆動条件の変更により、2009年9月に0.7mW/cm2だった素子直上での出力強度を 2.0 mW/cm2まで向上させている。実際の殺菌試験では、10mmの距離から1.5mW/cm2の紫外線強度を実現した。
 殺菌試験は、黄色ぶどう球菌0.01mlを塗布・乾燥したホールスライドグラス7)に、10mmの距離から、任意の時間(0、1、5、10、60、300秒)紫外線を照射した(図3)。その後、標準寒天培地8)を用いた混釈平板培養法9)(35℃、2日)にて菌を培養し、生菌数の測定を行った。
 試験の結果、60秒の照射時間にて99.99%以上の殺菌能力があることを確認した。(図4−1、4−2)


3.社会への波及効果と今後の展開
 高効率の遠紫外領域の発光素子が開発されると多方面の応用が考えられる。例えば、光触媒による環境汚染物質の分解処理法の光源や、病院や食品加工などで用いられる殺菌用水銀ランプの当該発光素子への置換えによる省エネ化および無水銀化など多種多様の応用分野が期待されている。
 今回の試験結果より、六方晶窒化ホウ素を用いた紫外線発光デバイスが、殺菌デバイスとなりうる可能性を見出すことができた。
 昨今、EUでのRoHS指令5)に例を見るような環境配慮型の水銀レス紫外発光デバイスへの要請はますます重要性を増して行くことが予想される。このような社会的要請を背景に、今後は、発光材料の特性及びデバイス構造の改善により本試作素子のさらなる高効率化、長寿命化を図り、殺菌用水銀ランプの置き換えとして、「水銀レス・面発光タイプ」の環境にやさしい遠紫外線発光デバイスを目指す。


 ※図表は添付の関連資料を参照


【用語解説】
1)六方晶窒化ホウ素(hBN:hexagonal boron nitride) 窒化ホウ素の安定した構造のひとつ。窒素原子とホウ素原子が六角形ネットの層状構造をとる。熱力学的・化学的に安定していることから現在は絶縁体や耐熱材料などに用いられている。

2)紫外光領域(可視光波長より短い光:波長400nm以下) UV−Aは、400〜315nm、UV−Bは315〜280nmの領域を意味し、太陽光線にも含まれ地表に到達しており日焼けの原因となる。一方UV−C(280nm以下の短波長の光)はオゾン層で吸収されてしまうので地表には到達しない。UV−Cはオゾンの分解や有機物の分解を促進することから紫外線による表面洗浄や殺菌に利用されている。

3)黄色ぶどう球菌 代表的なグラム陽性球菌のひとつ。ヒトの皮膚、鼻や口の中、傷口や動物に常在している細菌であり、化膿性疾患や毒素型食中毒を引き起こす。

4)蛍光表示管 (VFD : Vacuum Fluorescent Display) 熱陰極を利用した真空表示デバイスのひとつ。カソード(熱フィラメント)、アノード(蛍光体)、グリッドで形成され、カソードより放出された電子によって、アノードの蛍光体が発光することにより表示を行う。

5)RoHS指令 欧州連合(EU)が2006年7月1日に施行した電子電気機器に含まれる有害物質の規制。水銀など6物質が規制される。小型蛍光灯などの水銀が必要な製品は、現在対象から除外されている。

6)殺菌線、殺菌効果 強い殺菌能力を示す紫外線の波長は250〜260nmにあり、一般的に水銀ランプのピーク波長である253.7nmが殺菌線と呼ばれる。
 220〜400nmの殺菌効果は『JIS Z 8811』に記載されている。

7)ホールスライドグラス 光学顕微鏡を用いた観察などで、微小な試料を載せるために用いる凹みのついたガラス板。

8)標準寒天培地 食品衛生法や水道法などにおいて細菌測定用として採用されている培地。

9)混釈平板培養法 試料液と寒天培地とをシャーレの中で混和凝固させ、培養後発生したコロニー数を測定し試料中の生菌数を算出する方法。

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