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理化学研究所、Bリンパ球の免疫応答の様子をリアルタイムで可視化することに成功

2011-06-08

Bリンパ球の免疫応答の様子をリアルタイムで可視化
−転写因子「Bcl6」を追跡、細胞分化の場所と細胞移動経路を特定−



◇ポイント◇
 ・抗体を長期産生するための免疫反応場の形成を、最新のライブイメージング技術で観察
 ・濾胞ヘルパーT細胞でのBcl6の発現低下が、免疫記憶形成に関わる可能性を提唱
 ・良質抗体の安定した長期産生を促すワクチン設計への応用に期待


 独立行政法人理化学研究所野依良治理事長)は、免疫機能を持つBリンパ球(※1)が、抗体を長期に産生するのに必須の免疫応答(胚中心反応(※2))を行うための細胞分化が起きる場所を特定し、この細胞分化の後、胚中心へと移動するBリンパ球やその働きを助けるTリンパ球(※3)の様子をリアルタイムで可視化することに世界で初めて成功しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫細胞動態研究ユニットの岡田峰陽ユニットリーダーと北野正寛基礎科学特別研究員、分化制御研究グループの森山彩野ジュニアリサーチアソシエイトを中心とする共同研究グループの成果です。

 Bリンパ球は、生体を脅かす細菌やウイルスなどの外敵(抗原)に遭遇すると、抗原を根絶するために、自ら作り出す抗体を改良しながら長期的に産生する胚中心反応を起こします。しかし、Bリンパ球が免疫組織のどこで胚中心反応のための細胞分化を開始し、その後どのように胚中心へと移動するのかは、これまで解明されていませんでした。

 今回研究グループは、胚中心反応に必須の転写因子(※4)であるBcl6に注目し、まず、Bcl6の発現の詳細な追跡を、組織切片の観察やフローサイトメトリー(※5)によって行いました。さらに、Bcl6の機能が欠損した場合のBリンパ球の細胞移動の解析を、二光子励起レーザー顕微鏡(※6)という特殊な顕微鏡を用いた最新の生体ライブイメージング技術を用いて行いました。その結果、Bリンパ球は、胚中心の外側にある濾胞外縁部(※7)と呼ばれる場所でBcl6の発現を開始すること、このBcl6の発現によって胚中心へ移動することが明らかとなりました。Bcl6は、胚中心反応を担うもう一種のリンパ球である濾胞ヘルパーT細胞(※8)のTリンパ球からの細胞分化にも必須であることが知られています。研究グループは、この濾胞ヘルパーT細胞におけるBcl6の発現についても、同様の解析を行いました。その結果、Bcl6の発現が上昇して細胞分化した後、徐々に低下し、免疫記憶をつかさどるメモリーT細胞(※9)に似た増殖停止などの特徴を備え始めることを見いだしました。これらの成果は、抗体の長期産生や免疫記憶形成を促進する新しいワクチンの開発へとつながるものと期待されます。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Immunity』に掲載されるに先立ち、オンライン版(6月2日付け:日本時間6月3日)に掲載されます。


1.背景
 現代社会では、毒性の強い新しいウイルスや細菌による健康被害が頻発しています。私たちの体は、これらの外敵(抗原)から、免疫応答という生体防御機能を発揮することによって守られています。体内に侵入した抗原の根絶や、同じ種類の抗原による2度目以降の感染を抑え込むためには、抗原を効率よく排除する抗体の長期産生や、免疫記憶の形成が重要です。

 抗原に対して親和性の高い抗体の長期産生や免疫記憶形成には、胚中心と呼ばれる特殊な反応場(図1)が免疫組織の中に形成されることが重要です。しかし、抗体を作るBリンパ球やそれを助けるTリンパ球が、胚中心反応に参加するための細胞分化のメカニズムについては、いまだにその大部分が謎に包まれたままです。特に免疫応答中のBリンパ球やTリンパ球は、免疫組織の中を非常に活発に移動しており、組織の中の細かい環境の違いがこれらの細胞の運命決定に大きな影響を与えると考えられていますが、胚中心反応を担うBリンパ球やTリンパ球の細胞分化がいつ、どこで起こり、どのように胚中心に移動するのかは、明らかになっていませんでした。

 今回研究グループは、胚中心反応に必須の転写因子であるBcl6に注目し、Bcl6の発現の詳細な追跡とリンパ球の移動の解析を同時に行うことで、胚中心反応のための細胞分化の場所と、細胞移動経路を特定することを目指しました。


2.研究手法と成果
 研究グループは、免疫応答中のBリンパ球やTリンパ球におけるBcl6の発現を、組織の中で効率よく検出するために、Bcl6を発現する細胞が蛍光を発するようにした遺伝子改変マウスを作製しました。このマウスを用いてリンパ節の組織切片観察やフローサイトメトリーを実施したところ、免疫応答中のBリンパ球が、胚中心反応の開始前に、濾胞外縁部と呼ばれる別の場所でBcl6の発現を開始することを発見しました。さらに、二光子励起レーザー顕微鏡と呼ばれる特殊な顕微鏡を用いて、生きた組織の中のBリンパ球の細胞移動をリアルタイムで可視化しました。その結果、Bcl6の機能が欠損したBリンパ球では、濾胞外縁部から胚中心反応への細胞の移動が著しく損なわれていることが明らかとなりました(図2)。これらの結果から、Bリンパ球の胚中心反応のための細胞分化は、濾胞外縁部の微小環境で起こっていると結論付けられました。

 また研究グループは、Bリンパ球の胚中心反応を手助けする特殊なTリンパ球で、その細胞分化にBcl6が深く関わっている濾胞ヘルパーT細胞についても同様の実験を行いました。その結果、Tリンパ球は濾胞ヘルパーT細胞へと細胞分化するために、Bcl6を多量に発現するという予想通りの結果を得ました。しかし、意外なことに濾胞ヘルパーT細胞の一部は、胚中心にいる間、徐々にBcl6の発現を低下させていることが明らかになりました。このBcl6を低下させた濾胞ヘルパーT細胞は、増殖停止やIL−7(※10)と呼ばれるサイトカイン(※11)に対する受容体の発現など、免疫記憶を担うメモリーT細胞に見られる特徴を備え始めていることも分かりました。これまで、濾胞ヘルパーT細胞がメモリーT細胞となる経路の存在については不明でしたが、今回の発見で、濾胞ヘルパーT細胞の一部によるBcl6の発現の低下が、メモリーT細胞の形成につながっている可能性が示されました。


3.今後の期待
 今回、Bリンパ球が胚中心反応を担うための細胞分化の開始点と、そこから胚中心への移動経路を発見しました(図3)。将来、この細胞移動を誘導する生理活性物質を同定することにより、胚中心反応を制御する新たなワクチンの設計が可能になると期待されます。また今回の成果は、濾胞ヘルパーT細胞によるBcl6の発現制御という、新たな免疫制御戦略が有効である可能性を示しており、メモリーT細胞形成への効果を検証すれば、免疫記憶の効率的な誘導が可能になると期待されます。



<補足説明>

 *添付の関連資料を参照


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